うちの妻が毎日僕を殺そうとしてくるのですが
植木鉢たかはし
ただいまの返事は
ここはとある株式会社のお客様相談所。平たく言えばクレーム担当。僕らはたった5人でここを動かしている。
「斎藤さん、お疲れさま。今日はもうあがっていいよ」
上司の
「あっ……じゃあ、お言葉に甘えて」
「えーっ、いいなー。東海林さん、俺もあがっちゃダメっすか?」
「ダメだ。お前この間書類出さないで帰っただろ? 今日の分も終わってないじゃないか」
「えー、そこをなんとか!」
「ダメですよ。東海林さんにわがまま言っちゃ。ほら、私も手伝うんで、さっさと終わらせましょ?」
「
「そういうのいらないんで、はい、書類やりますよ」
「……はぁ、どうでもいいから、さっさと出して。仕事進まないんだけど」
僕たちはこの五人でやっています。
「えっと……本当に僕、帰っていいんですか?」
「だって君、ここ一週間残業続きだったろう? 奥さんだっているんだし、たまには早く帰ってあげなよ」
「はぁ……」
「……なんか、帰りたくなさそうですね?」
「いや、そういうわけじゃ」
「え!? 夫婦喧嘩っすか?!」
「書類」
「ハイ」
「あはは……じゃあ、帰ります。お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「お疲れさまです!」
「お疲れっス」
「おつ」
みんなの声を背に、僕は会社をあとにした。電車の駅に向かい、ホームに立つと、スマホを取り出して妻にLINEを送る。
『今日は早く帰るよ』
しばらくして、返信がきた。
『やったー! 久しぶりに一緒にご飯食べられるね!』
『
『由羅がスタンプを送信しました』
『由羅がスタンプを送信しました』
『由羅が――……
猫が跳び跳ねているかわいらしいスタンプを大量に送ってきた。通知がえげつない。こういうところはかわいらしくていいのだが……。
僕はスマホを鞄にしまい、深くため息をついた。いやはや、今日はどうなることか……。
※※※
会社の最寄りから家の最寄りまでは電車一本約30分。30分というのは意外と短いもので、本を読んでいたらあっという間についた。
家は駅から少し歩いたところにある戸建てだ。7年前に結婚してから買ったもので、まだ新しい。
その家の玄関の前にたち、僕は意を決して扉を開いた。
「ただいまー」
すると、家の奥からバタバタと足音が聞こえ、やがて妻が顔を見せる。
「おかえりなさい!」
妻の由羅は、夫の僕がいうのもなんだが、美人である。白い肌、ぱっちりとした目、すらりと長い手足、顔立ちもよく、その……うん、胸も大きい。どうして僕なんかと一緒になったのか分からないくらいだ。
そんな、『普通にしてくれていれば』なんの申し分もない妻である。……そう、『普通にしてくれていれば』だが。
由羅は嬉しそうにニコニコ笑いながら言う。
「斧にします? 鉈にします? それとも、電動ノコギリ?」
「えっと……」
「あっ! もしかして鎌? まさか包丁?!
「…………風呂かな」
「あぁ! 水死?」
「いや、普通に」
……そう、なんだかよくわからないけど、発言が危なすぎるのだ。今の台詞ってさ? 普通は『ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?』みたいなやつじゃないのかなぁ。
「そう……残念だけど、お風呂は入れてないの。ごめんね」
「いいよいいよ。じゃあ、先にご飯食べようかな」
「はーい! じゃあそのあと、首ちょんぱね!」
「首ちょんぱは遠慮しておくよ」
これは、僕、斎藤実と、妻、斎藤由羅の、平凡そうで非日常な物語。
うちの妻が毎日僕を殺そうとしてくるのですが 植木鉢たかはし @Uekibachi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。うちの妻が毎日僕を殺そうとしてくるのですがの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます