目明けのファリナ
文子夕夏
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少年と誕生日
サフォニアの国民達ならば、『魔女伝説』の事はすべからく知っている。学問を不得手とする者でも、伝説に限っては皆が違わず同一の内容を語れるのだった。
全六章からなる伝説で最も重要視されている第一章目、『サフォニアの夜明け』の内容は次のようなものだ。
サフォニアの国を造ったのは、サフォニア人でも動物達でも、ましてや植物達でもない。たった五人の魔女である。
魔女は各々が自慢の杖を持っていて、国造りに必要な山を、川を、家を、そこに暮らす生き物を、そして希望を杖から生み出した。
魔女達は生き物達に惜しみなく知恵を授けた。彼らが自らの足で歩き出した頃、魔女達は諸手を挙げて喜び合った……。
今ではこの「建国の魔女」を心から信じている者は少ないが、それでも人々の心の奥底には、ボンヤリとした魔女への信頼、更には「信仰心」が根深く残っている。
国の外れにある寒村、トラデオ村に暮らす一人の少年も例に漏れず、事実か作り話かはさておき、魔女という存在の偉大さを自分なりに理解していた。
「ライキ、今日はお前の『
人一倍魔女信仰に厚い男ワリールが、切り株に腰を掛ける少年の肩を叩いた。少年はあまりに強く肩を叩かれたので、不機嫌な顔で彼の方を振り返る。少年はこの日、一七歳の誕生日を迎えていた。トラデオの村では一七歳の誕生日に限り、目明け日と呼んだ。
「魔女伝説の事、学校で教えてもらった内容は今でも憶えているか?」
サフォニアに生まれた人間は七歳から一六歳まで、学校と呼ばれる教育施設に通って種々の学問を修めるが、魔女伝説もその内の一つだった。魔女伝説の流れはもちろん、魔女という存在について、更には伝説から得られる教訓や哲学的側面を学び取る事を目的とされていた。
「大体はね」
少年ライキは伸ばした両足を交互に振った。素っ気ない返答に満足出来ない様子のワリールは、不満げな目でライキを見た。
「大体じゃ困るんだ、何たってトラデオには……いや、夜に分かるさ」
歯切れの悪い物言いを好まないはずのワリールが、喉まで出掛けた言葉を飲み込むように口を噤んだ。初めて見た彼の反応にライキは「どうしたんだい」と問い掛けたが、ワリールは「さぁな」と誤魔化しながら近くの斧を手に取り、山仕事へ戻って行った。
夜に分かるさ――。
何気なく短い言葉が、ライキの脳裏を忙しく駆け巡る。あの人は何を言いたかったんだろうか? 切り株から跳ねるようにして降りたライキは、大きな籠を背負い、彼の後を追った。
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