第七話

「よし、それじゃあ最後は八坂くんの部屋を見させてもらうね」


二枚目を食べたら仕事をすると言ったのだが、やっぱり全部食べてからにすると宣言し、自分で持ってきたお土産を自分でほとんど食べるという暴挙をしてようやく仕事を開始してくれた。


のはいいのだが、ホントにちゃんと調べているのか不安になっている。ってかもう疲れた。


親の部屋に入った時は母親のタンスを荒らして、たぶん若かりし時に使ったであろう下着を見せてきた。そんなものを見せてこなくていいし、そもそも荒らすなよ。


トイレを覗いた時は、シングルではなくダブルを使っている理由をしつこく聞かれた。どっちでもいいだろトイレットペーパーの種類なんて。


物置を見てた時は『懐かしいものがあった!』と言って、奥の方にあるロボピッチャを取り出し、そこで満足したからか出したものを戻さずに次へ行こうとした。ってかなんでこんなものが家にあるんだよ。あと絶対に世代じゃないでしょうが。


いるの? 二十代でロボピッチャ知ってる人他に。十代で知ってる自分も大概なんだけど。


「中々に片付いてるじゃない。男子高校生の部屋ならもっと散らかっていそうだけどキチンとしてるね」


「そこまでキレイじゃないですけどね。置けないものを雑に押し込んでるだけですけど」


それでもキレイと言われるのは素直に嬉しい。そもそも買うものが少ないから汚くなる要因があまりない。だから仕舞ってあるのも随分昔のものが多い。


ベッドの下や本棚の裏など、細かいところも一通り覗き見て何かを確認する。必要あるのかは分からないが、カレンダーの裏などもめくって確認している。


「うーん、それじゃあ押し入れの中も見せてもらうけどいいかな?」


「今さらなんで聞くのですか、もう最後ですし好きなだけ見て下さい。片付けはちゃんとしてもらいますが」


「あーてます、あーてますから」


そうは言ってるが物置でも放置して行こうとしたが、まぁさすがにちゃんと仕舞ってくれるだろう。


「しかし押し込んでると言ってるけど仕舞いかたもキレイだね、箱とかにちゃんと分けてるし。これで汚かったら私の部屋なんて…………」


そこで黙ると一つ一つ段ボールを開けて中身を確認していく。


いやなぜそこで切る、そんなにヒドイの私の部屋は。ってかこんな適当な人が家事できるとは思えないし、一人暮らしするだけで危険が毎日ありそうなんだけど。


そんな俺の考えは知らずに次々と箱の中身を取り出していく。その中身を見ていると懐かしい思い出が蘇ってくる。


蘇ると言っても幼稚園や小学校の頃の物ばかりだが、それでも懐かしく思えてくる。よくこんなものも残っていたのとさえ感じてくる。


「ちょっと見てよ八坂くん! コレ、私が中学生の時やってたヒーローの変身アイテム。もしかして観てたの、オンタイムで観ていたの!」


こっちの目が眩むほど、煌々と瞳を輝かせ満面の笑みと期待を込めた顔でこちらを覗いてくる。


「いやそれって俺が小学生の時の話ですから、そんな詳しく覚えてませんよ」


「ならその時持ってた物を見れば思い出すから。この箱は同時代の物だけが入ってんだよね、どんどん思い出していこうか」


そう言い出すとより素早く箱を取り出し、漁り、そしてその中身を俺に見せてきた。なんというか本質見失っていない? この家に原因がないかを調べるために来たんだよね、思い出の共有をしに来たんじゃないですよね。


次々と箱を開けて中身を見せてくる。これは目的を忘れての行動であろうから注意すべきなのだが、正直俺も昔の物を見ていくのは楽しいのでしばらくはこのままにしておこう。


しかしホントに色々残っていたな。絵本や変身アイテムに完成せずにそのままにしていたパズルなど。ホントに見ていて楽しい。


そんな思いで眺めていると一つの絵が出てきた。小さめの額物に入っているがなんだろう、何にかとても大切な――――


「ねぇ、一体どれを見たら思い出すの? 早いとこ思い出して一緒に叫ぼうよ、セイクリッドチェンジ!って。…………八坂くん? どったの急に黙って」


身体中に寒気が走る。いや寒気ではない、何かもっと違った感覚だろうが、それに適した言葉が思いつかない。だが体の全てで鳥肌がたった。あまりにも衝撃が強すぎて目の前が一瞬暗くなった。


これは恐怖でもなければ驚いたわけでもなく、ただ思い出しているだけなのだ。あまりにも鮮明に、記録した映像を再び流しているかのように思い出している。


何が起こっているのかはいまだに理解できない。頭がまったく追い付かないのだ。なぜ今なのか、どうしてこのタイミングできたのであるか。


「八坂くんどうしたの、息荒くなってるよ」


ミクさんもさすがに心配そうに問いかけてくる。そうだ伝えるんだ。これは間違いなく、何か分かるきっかけになるに違いない。


「――――見たんですよ俺はすでに」


「見たって何を一体見たの? 八坂くん、ゆっくりでいいから落ち着いて話てちょうだい」


まず荒くなった息を整え、上がった心拍数を徐々に下げていく。だが俺は完全に元の呼吸に戻る前に、口からその言葉は漏れていった。




「見たんですよ。俺は小学生の頃に、その絵の場所で、すでにあの少女に会ってたんですよ!」

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