第六話

――――大学生の頃だった。


私は就職のため面接をとにかく受けまくった。そしてなぜか全て落ちた。


私はこれが謎でしかなく頭を抱えていたが、教師や同級生はなぜか哀れむように見てきた。親友の一人はなぜか何も言わずに肩に手を置いた。


あくまで仮定なのだが、リクルートスーツを買うのがもったいなかったから私服で行ったのが原因なのかもしれない。だがこれはあくまでも仮定なだけで、ホントの理由は今でも分からない。ただ印象には残せてるはずだ、面接官全員が凄い目を見開いていたのは間違いなかった。


しかしいくら印象に残せたとしても、このままでは卒業したらニート。


…………それはそれで良いかもしれないと思っていたときに、必死の形相でここを受けてくれと親友が仕事を紹介してくれた。


なぜか知らないけど特技見せたら絶対いけるしこの仕事向いてるからと大絶賛されたからそのまま電話して次の日にはもう面接だった。


いつものように私服で行き、言われたように特技を所長に見せた。それを見た所長が褒めてくれたことは今でも忘れない。


「よく君は今まで普通に過ごしてこれたね」


その場で働くことがきまり、その後は見ての通りこうして家も出て真面目に働かせてもらっている。




「――――終わり」


「えっ、終わりなんすか」



短い、想像以上に短かった。


前回の導入から考えたら最低でもこの回は丸々一本その話をしないといけないのでは? まだ四分の一しか進んでいないよ。


他にも指摘しなければならない場所は多く存在している。


アランさん。いくらなんでも言い過ぎでしょうよ。むしろ一周回って落ち着いた対応をしていたのかな。


それと教師と同級生。見てるだけじゃなくて助けろよ。親友いなかったら本格的に終わってたよこの人。


そして一番の問題、それはアンタだミクさん。


なんで面接を私服で行く。バイトの面接でも制服を来ていく人はいるよ。もったいないじゃなくて、それは買わないといけない物なんだから買わないと。印象には残るだろうけどさホントに。


あと特技って何! いったい何を見せたらあんな言葉を思い付かさせるのだろうか。親友もそれでいけるって言ったみたいだけどどこからの自信だったわけ?


個人的に驚きだったのは大学を卒業していたことだ。この人何歳な訳?



「フフフ、八坂くん。今私のこと何歳だなって思ったわね」


「確かに思いましたけど、なんで分かるんですか」



いきなり超能力にでも目覚めたって言われてもこんなテキトーな人ならある意味ありえる話だと思う。



「まぁ私はよく食堂のおばちゃんにも、『アンタは見た目も中身も会った時から全く変わらないね』って言われるくらいに若々しいからね。老けない体質なのよ私は。そもそも何かやってるわけでもないのだけども…………」


「あっ、その話長くなるならもういいです」



これアレだ。昨日みたいにどんどん脱線していくに違いない。きっとまたサーモンみたいな所にまで発展していくに違いない。



「いやいや気になるでしょ。そんな急に冷めなくても」


「そろそろパンが焼けたと思うので取りに行きますね」


「二十四! ねっ意外でしょ、だから驚いて。もっと私の話を聞いてー!」



二十四歳、普通だろ。ってか妥当過ぎるだろ。しかしそうなるとこの人がこの仕事を始めてからまだ二年しか経っていないのか? まぁ短大とかの可能性もあるし一概にもそういう訳ではないだろうけどな。


ソファーの上で膝を抱えブツブツ言っているミクさんを横目にトースターを開ける。すでに匂いますは開ける前から漂っていたが、トースターの中で蓄積されていた匂いは一気に吹き出してきた。


さすがと言うべきか、テレビで紹介された店のものは食パンすらここまで美味しそうに作れるのだろうか。


食器棚から皿を二枚取り出し、パンをそちらに移す。熱くて思わず一度落としそうになるも、踏ん張ってなんとか落とさずに済んだ。しかしホント美味しそうだな、帰り際にでも店の場所聞いておこうかな。


「はいお待たせしました、パンが良い感じに焼けましたよ」


「無視られた、久々に無視られてしまった。なんか久々過ぎるこの感覚、懐かしいなー。アハハ」


なんか笑っているけど目が死んでるし、ミクさんの周りがなんか暗い。が漂ってる感がエゲつない。さすがにあの対応は雑過ぎたか。


なんとかフォローしようと考えていると、鼻を引くつかせたと思った合間に目の前から姿が消えた。そして手に持っていた皿も一つ消失していた。ってなんで消えてんだよ!


「いやーさすがに美味しいねこれは、買ってきたかいがあるよホントに。あっ八坂くんありがとね、わざわざ焼いてくれて」


いつの間にか背後に回ったのか、そこでパンをすでに半分食べ終えてるミクさんの姿があった。


すでに落ち込んでいる様子もなく、いつも通りの姿でヘラヘラしながら話続けている。テンションの落差が半端ないな。少し心配した俺の気持ちを返せ。


「さてとじゃあこれを食べ終えたら仕事始めないとね。その前に、八坂くんもう一枚焼いてきて貰ってもいいかな」


あったパンがすでに消失した皿をこっちに渡しながら、ニッと口角を上げながら図々しく頼んできた。


これあれだな。焼かないと話進まないやつだ絶対。

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