ニアロイド編 第2話 本日の天気は砲煙弾雨
開戦から二ヶ月後……。
機械とネットワークの暴走により混乱に陥った人類だが、時と共に一つ、また一つと纏まり、結成された人類軍として反抗を続け、どうにか絶滅を免れていた。
ポイント23ーBより救援要請あり!
独立試動遊撃隊は直ちに出撃してください。
繰り返します!
繰り返します!
って聞こえているのか! 応答しろ!
受信信号はこちらで確認しているのだぞ!
蒼色の五指が、無線機を掴み渋々と応答する。
「めんどいからヤッダ~!」
素っ気ない応答にオペレーターが無線機の向こう側で絶句する。
「あ~うるさいうるさい、そっちが勝手にやりはじめたドンパチだろう? 俺は、あいたっ! ぬあにすんだよ、ロボ!」
頭部に走る衝撃に振り返った時、灰色のロボットは握りしめていた拳を開いて、通信機を掴んでいた。
「はいこちら、独立試動遊撃隊、隊長ロボです。要請を受諾。出撃準備が整い次第出撃します」
無礼な発言とは打って変わり丁寧な音声が無線機で応答する。
次いで各隊員に通信を送っていた。
「砲撃戦になるでしょう。各自Hモジュールで出撃準備を。後、エアクスは待機です」
引きずり出されるかと思えば予想外の指示である。
「あ? 俺出なくていいのか?」
「指揮が乱れますので」
素っ気なく返せばロボは部屋から出ようとする。
「あ、そうそう、そういえば」
ロボが扉の前に立てば振り返ることなく演技ぶった音声で告げる。
「今日届いた物資の中に、試作型AMがありますが、くれぐれも扱わないようにしてくださいね」
釘を刺したつもりだろうと、エアクスの肩は嬉しさの震えを隠し切れていない。
隙を見て持ち出すのが蓄積されたデータから目に見えていた。
「おう、分かった!」
西暦三〇一九年、世界から争いが消えることはなかった。
四〇年前、世界は核兵器を全廃するという平和への礎を築き上げる。
核兵器撤廃をきっかけに、軌道エレベーターの共同建造を開始。
どの国家、どの企業、どの個人にも属さない宇宙への扉。
一歩間違えれば、紛争を誘発させる建造物だが、世界は一丸となり宇宙への塔を完成させる。
同時期に開発された太陽光発電システムもまた稼働に成功し、試験的にではあるが、宇宙で発電された電力が各地に送電されるなど目まぐるしい発展を遂げる。
この軌道エレベーターを橋頭堡とし、月、あるいは太陽系外の開発と人類の誰もが夢と希望を膨らませていた。
そう、あるコンピュータが人類に反乱を起こすまでは。
「メーデー! メーデー! こちら人類軍第二一部隊! 救援はまだか! もう限界だ!」
兵士は通信機を手に応援を要請しようと、ノイズしか入ってこない。
望遠レンズの向こう側から迫るのは機械巨人の群。
大型戦車に一対の野太い機械脚を接続した無骨で異形の姿を持つ巨人。
その名は自立歩行型汎用性戦略機<ギガンマキア>。
爆撃で荒れた大地を闊歩する一対の野太い脚部、戦車砲台のような体から左右にぶら下がるのは大口径の銃火器とミサイル。
これ一機さえあれば都市一つを壊滅させるほど過剰なまでに火力が持たされ、例え脚部が損壊して歩行不能になろうと、内蔵されたリペアマシンが直ちに損壊箇所を修復する。
<モイライ>に占領された軌道エレベーターからマイクロウェーブの形で電力供給を受け、理論上は半永久的に稼働する。
電力供給が続く限り、砲弾を内部で自己製造するなど、兵器として完成されていた。
「最終防衛ライン、突破されました!」
「後方より敵出現! 敵は――い、い、イノベーターです!」
索敵班より緊急通信。
転送された映像を確認すれば、スーツ姿のサラリーマンたちが五列に並び、一糸乱れぬ挙動で後方から迫っていた。
「まさか、この地にまでイノベーターを出してくるとは……」
ギガンマキアよりも厄介極まりない難敵――イノベイター。
捕獲した人間を有機素材として製造された人間の皮を被ったアンドロイド。
本来、あのアンドロイドは宇宙資源採掘用基盤体としてガイア・インダストリーが開発した製品であった。
宇宙空間は無重力、真空、宇宙放射線、太陽の熱など生身では到底耐えきれぬ劣悪な環境である。
安全が確保された船内より脳波コントロールでタイムラグなく作業を行う人型プラットフォームが本来の正しい形であった。
人類から器の排除と革新を唱える<モイライ>は革新の器として転用する。
完成したのは鹵獲した人間の意識データを転送するアンドロイドだった。
生身の身体から宇宙に適応した身体へ。
これが<モイライ>の唱える人類の革新であった。
「な~にが
兵士の一人が忌々しく吐き捨てる。
確かに機械の身体は魅力的だろう。
実際、死病に犯された人間がイノベーター化することで死を脱した実例がある。
一方で、意識データは一方通行、当人の同意は無視、革新を名目に人間をイノベーター化しては<モイライ>の采配により各地の戦場に派遣される。
その支配権は<モイライ>が掌握しており、人間の意識が宿っていたとしても、戦場に出されればただの自律兵器と同じように扱われ、逆らう意志があろうと逆らう行動を行えない。
それは兵器として運用することが、人類の革新を効率的に促進させるとあるからだ。
革新を唄いながら実質、操り人形である故、人類が反発するのは必然であった。
「このままでは挟撃され、全隊員、鹵獲される未来しかない」
人がかって獣を狩り、毛皮で寒を凌いだように、兵士の誰もがイノベーターの有機素材なる。
そして<モイライ>の先兵となる未来しかない。
「総員、装備を確認しろ!」
「お、出ますか、隊長?」
「救援が来ない以上は……」
『では、荷物をまとめて撤退してください。ない道は作りますので』
誰もが覚悟を決めたと同時、通信機より丁寧な音声が飛び込んできた。
上空よりけたたましいジェットエンジンの音。
兵士の一人が望遠レンズをのぞき込めば、三つの機影を上空に確認する。
「あれは、ニアロイド!」
大規模な砲撃ユニットに筐体をすっぽり埋もれさせていようと、見間違えるはずがなかった。
機械でありながら人類軍に味方するロボット部隊。
待望の救援は現れた。
だが、機械であることに兵の誰もが顔を苦くするしかなかった。
「では作戦を伝えます」
ロボは僚機に通信を送る。
飛行艇から共に降下するのは同種のニアロイド。
白のニアロイドの名はケイ。
西洋甲冑を分厚くしたようなアーマーが特徴の近接戦闘型。
赤のニアロイドの名はデュナー。
シャープなボディアーマーを持ち、高機動戦闘特化型だ。
三機全員が乗り込むのはニアロイド専用強襲砲撃アームドモジュール、コードネームは<ヘイル>。
戦闘機の機動性、大火力による殲滅、戦艦並みに増幅されたエネルギー出力により、
何より恐ろしいのはモジュール単体に独自動力機関は内蔵されてないこと。
内蔵されているのは増幅機関。
ニアロイドの<心>より自己生成されたエネルギーを内部で増幅して稼働エネルギーとして運用する。
「……」
「承知って何か喋れよ、ケイ」
寡黙に応えるケイに対してデュナーは軽快に返す。
「え? 後方のイノベーターは放置でいいのかと? ええ、構いません。私たちが相手にするのではないので」
ケイからの通信にロボは含みある音声で返す。
他の二機は蓄積された経験データを読みとった。
「では攻撃開始! 前方の脚つき戦車を殲滅します!」
ご挨拶としてロボは搭載されたミサイルを敵部隊にぶっ放した。
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