ニアロイド編

ニアロイド編 第0話 未・来


<太陽ー発電システム近――完――>


 明るい未来を暗示させる看板は半ば折れ、引火により燻っていた。

 ほんの先ほどまで車両が行き交う四車線の車道は、弾痕刻まれた車両置き場と化している。

 アスファルトは爆発により抉れ、トラックは横転して炎上、タンカーに至ればフレームすら残らぬほど原型を留めていない。

 平穏な街に響くのは不釣り合いな銃声と爆音。

 タンタンタンと弾くような音が鳴り響けば、バーンと爆発だと分かる音が終わりなく響いている。

 誰もが我先にと現場から避難するかな、まだ残り続け、戦い続ける者たちがいた。

「エアクス、当てなくていい、奴を牽制しろ! ロボ、右から回り込め!」

 筋骨隆々の男と蒼と灰、ニ機のロボットが戦闘を繰り広げていた。

 離れた位置に立つのはまだ一五の少年。

 隣に立つ同い年の少女と一〇歳の女の子に見守られながら、左腕に装着した腕時計型通信機で指示を送っている。

 筋骨隆々の男が二メートルを超える巨躯に対して、蒼と灰の二機のロボットは一五〇センチながら、力負けすることなく肉薄していた。

「ロボ、左斜めに飛べ! エアクス、そこに速射!」

 筋骨隆々の男が灰のロボット、ロボに迫撃砲を向ける。

 だが、動きを読んでいた少年の指示で急制動をかければ、射線軸から逃れ、蒼のロボット、エアクスが左腕に装着した円形シールドからソードを展開させて砲身を切断した。

「おい、速射って言っただろう!」

「へん、こっちのほうがてっと――ぐへっ!」

 エアクスは指示を無視した因果として、迫撃砲の強打を腹部に受けた。

「迂闊に近づけば殴られるんだよ! いわんこっちゃない!」

 ホームランと言わんばかりに飛ばされていくエアクスに向けて筋骨隆々の男は口を開けば、プラズマを口腔部より漏れ出させる。

 少年は何が口から放たれるか知っている。

 電磁投射砲、つまりはレールガンだ。

「ロボ、ポイントE-235 D-398を撃て!」

「了解!」

 ロボが左腕部より砲身を伸展させると同時、発砲。銃弾は空気を切り裂き飛翔するも筋骨隆々の男の脇を逸れた。

「これでスクラップだ!」

 筋骨隆々の男が吼える。

 ターゲットロック、弾道軌道安定、電圧マックス。

 口から砲弾が放たれる瞬間、背後より間欠泉の如く噴き出した大量の水が全身をショートさせた。

 放たれんとしていたレールガンもまた漏電により使用不能となる。

「くっ、しょ、消火栓だ、だと!」

「本来なら漏電対策はされてるだろうが、俺たちとの戦闘でボロボロの今、そこに水を浴びればどうなると思う!」

 少年は好機を逃さない。

「エアクス、動けるなら走れ! 残弾気にせず真上から全弾ぶち込んでやれ!」

「おうよ!」

 エアクスは自動車をクッションにして着地の衝撃を和らげる。

 脚部の隙間から衝撃吸収剤が噴出、次いで内蔵されたバネにより高く跳躍しては筋骨隆々男の頭上を穫る。

 ターゲットインサート。火器管制システム全解除。

 両腕部接続ビームガン、頭部内蔵機関砲、腰部接続マイクロレールガン、肩部懸架ミサイルランチャー、オールグリーン。

「おらおらおらおら、フルバーストだ、ごらっ!」

 エアクスに装備された全火器が一斉に火を噴いた。

「ロボ、バスターマグナムフルチャージ!」

「了解、マスター!」

 銃火機の雨霰に筋骨隆々男が縫いつけられている間、少年は灰のロボットに指示を飛ばす。

 ロボは腰椎部に懸架されている身の丈を越えるライフルを構える。

 銃口に光が集い、先端には圧縮に圧縮されたエネルギーが球体を形成していく。

「くっ、くっそが!」

 真上からの集中砲火に縫い付けられた筋骨隆々の男は全身にスパークを走らせながら吼える。

「諦めが悪いぞ! ゼベルガ!」

「知っているはずだ。俺は諦めが悪いのだと!」

 大雨の中を突き切るようにエアクスのフルバーストを筋骨隆々男ゼベルガはエアクスへと急迫する。

 一歩、一歩と進む度に服は破れ、皮膚は裂かれ、血ではなく潤滑油を飛び散らせながらなお進むのを止めない。

 左腕はもう人の面影などなく、金属のシリンダーとギア、ケーブルで構成された機械の腕が露わとなっていた。

「何度も戦ったくされえんだ! とっくに知ってるっての! だからってよ、誰も彼も未来を奪う権利はねえんだよ!」

「言ったはずだ! これは義理だ! 死病に犯され、ただ死を待つだけでしかなかった俺に<母>は病魔に犯されぬ身体きかいを与えてくれた!」

「だからって、過去にまで来て頑張りすぎだろう!」

「それをお前たちが言うか!」

「お前が先に来たから、俺たちも過去に来る羽目になったんだよ!」

 残弾尽きようと、エアクスは口部内蔵スピーカーから音声を尽きさせない。

「今まここでマスターたちが殺されれば未来は変わる。変えられてしまう。私たちは生まれることなく、茜もまた生まれない! そんなこと許さない!」

「許しを請おうとは思わん! お前たちがやりたいように、俺もまた己がやりたいことをやるだけだ!」

「だったら、俺も、いや俺たちもやりたいようにやるだけだ!」

 少年は力強く言い返せば、少女と女の子の手を力強く握りしめる。

 例え、変えられぬ未来があるとしても。闇に閉ざさせない決意があった。

「未来は誰にも奪わせない! ロボ、エアクス、行け! 現在を守り、未来に繋げ!」

「合わせろ、ロボ!」

「了解、エアクス!」

 エアクスは再充填の完了した左腕接続のビームガンで、ロボはライフルでゼベルガに向けて引き金を引く。

「これが、人間とニアロイドの力だ!」

 二つの銃口から放たれる光は近隣一帯を包み込み、天高い柱を築き上げる。

「バカめ、今の俺を倒そうと、この情報は未来に残る! 第二、第三の刺客が!」

「残らずぶっ飛ばすのみだ!」

 目映い光の中で響いた肉声。

 眩むほど目映かろうと少年は握った手を離さず、目もまた離さなかった。


 この事件は後に、爆弾テロ事件として片づけられる。

 それは現場から回収されたとある部品により政治的圧力がかけられたからであった。

 それから二〇年後、共存共栄を進んでいた世界は戦火に包まれる。


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