魔法笑女モルフォ・マジア編

モルフォ編 第0話 最・期


 何故? どうして? どうしてなの?

 みんな同じなのに、みんなバラバラ。

 世界は一つなのに、みんな違う。

 みんな生きているのに、みんな同じ生命なのに。

 どうして、いがみ合えるの?

 どうして、傷つけ合えるの?

 どうして、殺し合えるの?

 どうして、他人と繋がろうとしないの?

 どうして、分かり合おうとしないの?

 どうして、同じなのにすれ違うの?

 みんな同じなのに、心がバラバラだから?

 みんな同じなのに、身体がバラバラだから?

 

 なら、一つになればいい。

 みんな、みんな、心も身体も全て一つになればいい。

 世界一つにみんな一つ。

 一つなら、誰も争わない。誰も奪わない。誰も傷つけない。

 誰も、誰も、誰も、誰も!


<交通事故>


 ボールは愛那あいなの手を離れて公園から道路に飛び出した。

 だから、ボールを取らんと駆けだしてしまう。

 道路は危ないからと、渡る時は左右を確認しなさいと。

 お母さんからの注意を失念していた。

「危ない!」

「お、お兄さん!」

 近所に住む優しいお兄さんだ。

 気づいた時、愛那は抱き抱えられ、道路から放り投げられる。

「え?」

 どうして自分の視界が反転しているのか、まだ九歳の愛那には理解できない。

 ただ、網膜に映る光景に迫る自動車があったことだ。

 次のことはよく覚えていない。

 凄い音がして、お兄さんの身体がはね飛ばされて――それから、それから、それから……。

 思考が定まらぬまま愛那はアスファルトの上に背中を打ちつけられる。

 そして、意識を失った。


 次に目を覚ました時、白いベッドの上だった。

 鼻につく消毒液の匂いに愛那は顔をしかめ、ベッドから起きあがる。

「お注射イヤ」

 この匂いは嫌いな注射の匂いだ。

 お母さんは悪いことをすれば注射するとすぐ言ってくる。

「愛那、目を覚ましたの!」

 スーツ姿の母親が目を腫らして抱きしめる。

「ご、ごめんなさい」

 愛那はただか細い声で謝るしかない。

 時が経過すると共に、状況を把握してきたからだ。

 左右の確認をせず、道路に飛び出した。

 お母さんとの約束を破ったから、注射を打つために病院に連れてこられたのだ。

「いいのよ、無事、なら、けど」

 母親の声は震え、愛那を抱きしめる腕もまた震えている。

「あれ、お兄さんは?」

 愛那は思い出すように聞こうと、母親の口は重い。

 見上げた表情は重く、頬に一筋の涙が落ちる。

「愛那、よく聞きなさい」

 涙を拭い、表情を引き締めた母親は意を決して事実を告げた。


 笑顔を守れたからいいさ。


 お兄さんはこの言葉を最期に……息を引き取った。

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