ゼロ編 第10話 ゼロ

 うそつきジジイ! お前のせいで家族は殺された!


 何が怪人に襲われないだよ! 詐欺だろう! 金返せ!


 北斗明治郎の緊急放送とアプリ配信開始から一夜開けた今日。

 SNSには批判のコメントが堰を切って溢れていた。

 その大半がダウンロードしたのに、家族や友人が怪人に殺されたとの内容だ。

 緊急放送を行ったからこそ、北斗家の前には多数の報道機関が押し寄せるのは当然の流れであった。


「やれやれ話聞いておらんのか?」

 閉じたカーテンを背後に、明治郎は外部カメラを介して玄関前の騒ぎを把握するも呆れしか浮かばない。

「襲われにくくなると説明しただろうに」

 明治郎は可愛い孫の淹れたコーヒーを口に含みながら各報道機関に電子メールを転送する。

 内容は、後日改めて記者会見の場を設けることと、近所迷惑なためお引き取りを願うこと。

 そして、敷地に入れば容赦なく対侵入者システムが発動する注意であった。

「あやつら、日本語で記事書いて購読者に読ませておるのに、自身は読めんのか?」

 注意を促したと言うのに、堂々と庭先に入り対侵入者システムの餌食となった者が多数いる始末。

 ロープでぐるぐる巻きにされてもなお庭を這って移動する威勢は仕事のベクトルを間違えているとしか言いようがない。

「おい、ジジイ」

 声を張らした零司に明治郎はのほほんと返す。

「なんじゃ、可愛くないほうの孫よ?」

「どうすんだよ?」

「マスコミなどほっとけほっとけ。行政とかにはわしの名で怪人の知る情報を知らせておる。行政が動けばマスコミはあっちに行くだけじゃよ」

 自宅周囲が囲まれているため、出かけるに出かけられない。

 幸いなのは、壱子とこだまが学校に行った直後に現れたことだろうか。

 ただ、各地で起こった怪人絡みの事件で休校にする学校もあるが、二人の通う学校は現場から遠く離れていたこともあって休校に至らなかった。

『情報の売買を生業とする者たちか、今の時代は随分と情報の伝達が速いようだが、その分、ハエのように集る数も多いようだ』

 テーブルの上には移動式台座に乗った腕時計<Zi>だ。

 今と昔と比べているのか、ない顔でどこか納得したように頷いている。

「Gみたくしれっとなんかいるし」

『私をゴキブリ扱いするな。あれは多数いるが私は一人だ』

 失礼極まりないのか腕時計から膨れた反論が来た。

「ともあれ怪人被害は昨日と比較して九割ほど落ちておる」

「それでも一割は殺された」

 昨晩、ひかりから背負いすぎるなと言われた。

 零司の中にある義憤が被害者の無念を否応にも背負い込んでしまう。

「きゃっらの目的はあくまでも人を如何にして楽しんで殺すことのみ。リンクスの量子フィルターは文字通り保護でしかない。人間が人間である限りきゃっらは殺さんと狙ってくる」

『だからこそ、私と君がいる』

「またその話かよ」

 ぼやきながら零司は顔をしかめるしかない。

 怪人、天の血族に対抗できる唯一の手は祖父の開発したアーマーと腕時計にいる意識体<Zi>だ。

「しっかし困ったのう、これじゃコンビニすらいけんわい」

「配送してもらえ。ドローンですぐだろうが」

 一昔は配送は人の手で行われていたそうだが、今では物資運搬用無人機の登用と普及により、人の手を必要としなくなった。

 会計ですら電子マネー決算及び口座引き落としであり、買いに行くのではなく、届けに来るが買い物の一般常識である。

「調査がてらコーヒーブレイクしたいんじゃよ」

 壱子の淹れたコーヒーでは満足できないなどなんて強欲。

「わしは顔が有名すぎる。じゃがここに有名じゃない孫がおる」

「おい!」

 嫌な予感がしてならない。

「というわけで零司、ちぃと外に出てあっちこっち調べてきてくれ」

 言うなり明治郎は白衣のポケットからスマートフォンを取り出していた。

「な~に、ちょいとばかしきゃっらの足取りや残留物を調べてくるだけじゃよ」

「出会い頭に衝突するフラグだろうそれ!」

「うむ、行ってくれるとな、働き者の助手を持って所長として鼻が高いぞ」

「鼻折る前に首折るぞ――っておい!」

 脅しではなく直に行う気であった零司だが、左腕に巻き付く冷たい金属の感触に声を漏らす。

『現在に蘇った天の血族がどこを根城にしているか突き止める必要がある。そのためには対抗できる力を持つ君と私が調査に行くのが最適なのだよ』

 零司の左腕に巻き付いた腕時計は有無を言わさない。

「準備はいいかのう? では転送!」

「できとらんわ!」

 心も体も準備などできていない。

 明治郎の声に呼応するように現れた量子の渦に零司は包まれる。

 転送段階だからか、身体は意に反して動かない。

「あ、靴も一緒に転送しておいたから安心せい!」

 自宅にまで転送装置を潜ませる祖父は間違いなく変態だ。


「あのクソジジイ!」

 とあるビルの屋上に転送された零司は悪態つく。

「ってここどこだよ?」

 リンクスのGPS機能が虎怪人出現地点近くだと伝える。

「またここか」

 数多の生命が強制的に奪われた地は良い感情を与えない。

『黄昏ている暇はないぞ。ともあれ調査だ』

「調査って何すんだよ?」

 仮に自宅にノコノコ戻っても、未調査ならば再転送される可能性がある。

 渋々であるが、現地調査を開始するしかない。

『そのスマートフォンを改造した端末には天の血族の残留物を把握する特殊なセンサーが組み込まれている。上手くひっかかれば奴らがどこから来たのか、どこを根城にしているのか足取りを掴むことができるはずだ』

「あ~はいはい」

<Zi>の声を余所に、零司はスマートフォンとリンクスのデータリンク設定を終える。

 こうすればいちいちスマートフォンを操作しながら歩く、ながらスマホの危険性を軽減できるからだ。

「一番濃い残留物があるのは当然、虎とやりあった大通りか」

 リンクスがスマートフォンを通じて得た情報を零司の網膜に投影する。

 遠目からでも分かるほど、一段と濃い赤で表示された地点は零司が虎怪人と戦った場所だ。

「犯人は現場に戻ってくるとか言うが、死んだ犯人はどうやって戻るんだ?」

『犯人の仲間が確かめに来るのだよ』

 腑に落ちた。

 他の天の血族が同族の死を知った以上、現場に現れる可能性が高い。

「あれ、それじゃ出くわすフラグじゃん」

 腕時計は沈黙を貫き、ただ時計の針を進めていた。


 封鎖された大通りは爆撃に合ったように穴だらけであった。

「ボコボコの穴だらけだな、まったく誰がしたんだ?」

『元凶の君が鏡の前に立てば一目瞭然だよ』

 腕時計からの突っ込みを零司は無視して流す。

 黄色いテープで封鎖された先には警察がおり、現場検証が行われている。

 多数いる警察の中に神崎の姿を見かけるも、声かける野暮な真似はせず、背を向けて歩き去る。

「足跡みたいな赤い点々があるな」

『ふむ残留物の時間が比較的新しい。これは近くにいる、と見ていいだろう』

「フラグ乱立やめろ」

 この腕時計は噂をすれば影だという言葉を知らないのか。

「人、いないな、当たり前だけど」

 怪人襲撃の現場なのだ。

 巻き込まれるのを承知でわざわざ足を運ぶのは報道機関ぐらいだろう。

 危険な地がどうなっているか、その現状を伝える行為は確かに勇猛でなければ行えない。

 だからと言って虫のように集団で押し掛け迷惑かけるのは頂けない。

「多くね?」

 残留物を示す赤い点は現場周囲に散乱している。

 ただ異なるのは時間。

 仕組みは分からないが、各残留物が生じた時間に差があると表示されている。

 同時に解せないと思った。

「あいつら人間殺すのが趣味なんだろう? なんで、現場にいる人間を殺さず立ち去ったんだ?」

『満足できる数がいなかったか、それとも虚無である君を警戒して敢えてて様子身に徹していたか、どちらかだろう』

 もしくは両方か。

 人間でありながら人間を越えた不老不死の血族。

 天に至れば人はどこまで傲慢になれるのか。

『零司、一つだけ地下深く移動した痕跡がある。ここの地中には何があるんだ?』

「ああ、地下鉄――」

 答えかけた時、突拍子もなく揺れが走る。

「じ、地震!」

『いや、違う! まさか!』

<Zi>から音声が走るよりも早く、アスファルトに亀裂が走る。

 亀裂は増殖するように広がり、大通りを内から食い破るように巨大な陥没痕を生み出した。

「う、うわああ……――あ、あれ?」

 容赦なく瓦礫と共に飲み込まれた零司だが、柔らかな風が身体を受け止め、陥没痕の底にゆっくりと降ろされる。

「おい、<Zi>お前の仕業か?」

『違う!』

 腕時計からは否定が返ってきた。

 零司だけでなく、現場にいた警察や報道機関すらゆっくりと降ろされ、瓦礫は意志があるかのように隅へと押しやられている。

 素肌に際だつ産毛が風であると告げようと誰もが困惑を強いられる。

 零司が見上げれば、高層ビルまるまる埋まるほどの高さがあり、リンクスが直径一〇〇メートル、深さ七〇メートルあると報告した。

「電車まである」

 レールから脱線しようと乗り物自体は無傷であり、中から乗客の騒ぎ声が聞こえる程度。

『気をつけろ、零司、このような非科学的なことが行えるのは……』

「あいつらか!」

 把握した瞬間、列車から悲鳴と絶叫が響き出す。

 スマートフォンのセンサーが警告を報告。

 後部車両から窓が真っ赤に染まり、車両内で動く影がある。

 爪を振りかざして乗客をなぶり殺すのはプテラノドンの怪人。

 異変に気づいた生きた乗客が手動で扉を開くも、殺到する数により出るに出られず将棋倒しを起こす。

 そこを怪人が無惨に切り刻む。

『落ちた落ちた、蟲共落ちた! 騒げば蟲集まる。なら集めて落とす! 風で穴掘った! 風で邪魔な瓦礫退けたから蟲無傷! 悲鳴楽シーイ! 血真っ赤っかキレーイ! 内臓ンマ~イ!』

 天の血族は思念で意思疎通を行う。

 その思念を装着したリンクスが拾い、プテラノドン怪人の上げる歓喜に零司は怖気と嫌悪を走らせる。

 電車の外にいる報道機関側からもまた悲鳴が響く。

 もう一人怪人が現れ、巨大な顎で人間一人を頭から噛み砕いていた。

『オマエ穴掘る。オデ穴水で落ち着かせる。蟲キレイのまま、キレイに砕ける。噛める嬉しい。我慢解放、た~のし~い、う~れし~い!』

 ワニガメのような姿を持つ怪人はのっそり歩きながら人間を嬉々として噛み砕き、そして不味そうに吐き捨てる。

「に、逃げろ!」

 逃げださんと駆け出す者もいるも大穴の底では無意味。

 入る口はあろうと出る口はない。

 落ちたら最後、死ぬまで出られない。

「こいつら人を殺すためにこんな手の込んだことを!」

『そ、それにだ。この怪人たち、連携している。奴らが組むなど以前はなかった。自由主義の塊が手を組むなど!』

「この時代に適応したんだろう!」

 驚愕して止まる時など状況が与えない。

 プテラノドン怪人の翼から放つ風が刃となり、人間を細切れに切り刻み、ワニガメ怪人の顎が無惨にも人間を噛み砕く。

「発砲を許可する! 総員構え、撃て!」

 神崎の声が響くなり、銃声が木霊する。

「銃を携帯する者はそのまま撃て! その他は生存者の保護に当たれ!」

 果敢に指示を飛ばす神崎だが、飛ぶ銃弾はワニガメ怪人には通じていない。

 跳ね返り無駄弾と化していた。

「警部、効果がありません!」

「それでも撃て! 予備弾は上の許可で沢山持たされているだろう!」

 怖じける部下に発破をかけながら神崎もまた拳銃を発砲する。

「自衛隊からRPGでも借りてくればよかった!」

「仲悪いから貸してくれませんよ。一昔に捜査協力で貸した防護服、腕章で穴開けられたこと未だ根に持ってネチネチ言ってきますもん!」

 ワニガメ怪人は銃弾を煩わしそうに手で払う。

 立ち止まり口を開けば、喉奥より水滴が飛び散りだした。

「いかん、総員伏せろ!」

 神崎の一声で伏せる部下たちだが、全員とはいかず、遅れた者は横一文字に放たれた水の刃に首から上を切断された。

「ウォーターカッターだと!」

 先ほどまで果敢に攻めていた部下が呆気なく死んだ。

 また死んだ。殺された。

 生命だったものが無惨な姿で当たり前に転がっている。

「おい、<Zi>!」

『ま、待つんだ。今ここで変身すれば君の正体が早々にばれる!』

「ばれたら不味いのかよ!」

『前回、変身時に君の正体がバレなかったのは、明治郎が防犯カメラのシステムに君が映らぬよう細工をしたからだ! だが、この穴にカメラはない! それどころかマスコミのカメラがある!』

 だとしても我慢の限界だった。

 確かに正体が露見すれば力の在り方を巡って問題となる。

 ああ、だから祖父は敢えてアーマーの存在を隠していたのか、今になって気づく。

 力は使い方次第で悲劇を生む。だが正しく使えば悲劇を覆せる。

 要は薬と同じなのだ。

 そして力の方向性は世論で容易く覆ることもまた。

「あいつら笑いながら殺してやがる! あんな奴らの笑顔のために、誰かの悲しむ顔なんて見たくない!」

 見たくないなどワガママだろう。

 だが、ワガママでも構わない。

 絶望を覆す力がある。消える生命を救う力が今零司にはある。

 足りないのは力を持つ覚悟だ。

 周囲の目? 後の論争? 批判? だからどうした。

『……いいのだな?』

<Zi>は重い圧で零司に問いかける。

『敢えてもう一度聞こう。覚悟はいいかAre you ready?』

 零司の返答はただ一つ。

 出来てる、でも、ダメ、でもない。

 ただ無言で腕時計のベゼルを回し変身コマンドを入力することであった。

零変身ゼロヘンシン!」

 左腕から外れた腕時計が、零司の腹部に張りついてバックルとなる。

『ZRebuilding Armor Installing――Hull!』

 全身を覆うように量子分解されていたアーマーが再構築され、宇宙服もどきの姿となった。

『む、この感情値は――これなら!』

<Zi>が唸る声をあげようと零司には届かない。

『虚無! やはりいたか!』

『虚無、虚無、キョーーーム! 死ねよ、オラーーー!』

 二人の怪人は宇宙服もどきが現れると知るなり、鏖殺を中断。

 血塗れの姿で零司に向かってきた。

 好都合だと零司は背面スラスタで距離を詰め、グローブのような手で怪人二人の首を掴み上げる。

「<Zi>スラスタ出力最大、こいつらを外に叩き出す!」

『心得た!』

 背面より律動を感じた時には怪人二人を掴んだまま大穴の真上へと飛びたっていた。

「なんでそのまま眠っていなかった!」

 眠り続けていれば誰も殺されず、誰も悲しまなかった。

 掴んだ手の中で怪人二人が暴れもがこうと離さない。

「お前たちは目覚めるべきではなかった! この時代にいるべきじゃなかった!」

 もし、もしもだ。

 彼ら天の血族が他者を見下さず、手を差し伸べる優しさを持っていたのなら、未来は違っていただろう。

 現世に目覚めた古き人類として今ある人類と手を取り合えただろう。

 だが、彼らは手を握る前に生命を握り潰した。

 生命を玩具として弄んだ。悲しみをまき散らした。

「ここはお前たちの居ていい時代じゃない! ここから、ここから消え去れええええええええええっ!」

 声が怒りと共に膨れ上がる。

 握りしめた手に力が走るも、怪人二人は力づくで拘束から離脱せんとする。

『零司、距離は稼いだ! 奴らを投げつけろ!』

 網膜にデータが表示され、零司は握る怪人二人を揃って地に投げつけた。

 プテラノドン怪人が腕の翼で姿勢を整えようとするも、直撃したリクガメ怪人により叶わず揃ってアスファルトに落下する。

『今、君の中には理不尽に生命を奪う奴らに対しての怒り、そして生命を奪われたことに対する悲しみ、二つの感情がいがみあっている。今ならば真なる力を使いこなせる! さあアーマーの枷を解放する時だ!』

 零司は腹部のバックルに右手を伸ばし、ベゼルに囲まれた部位を親指で押し込んだ。

「ハルアーマー・アウト!」

『ZERO Blood Awakening!』

 叫ぶなりアーマーの各装甲が盛り上がる。

 隙間から量子の光が溢れ、体勢を立て直した怪人二人が肉迫する。

 だが、飛び散るアーマーに接触は叶わず、弾き飛ばされ、量子の煙が周囲を覆う。

『今度の虚無は鎧を飛ばすのか!』

『なら、虚無は丸裸だ!』

 リクガメが狼狽し、プテラノドンが嗤う。

 両翼を羽ばたかせ、弾丸のように煙を裂いて零司に迫る。

『キョ~ム、串刺しに、ぐえっ!』

 煙を裂くのはプテラノドンではなかった。

 引き裂くように現れた拳がプテラノドンの嘴を砕いている。

 ずんぐりむっくりとした腕ではない。

 無駄無く引き締まった白銀の腕。

 煙の奥より白銀の燐光が照り、スマートな人型の輪郭を形作る。

『ZERO Blood Maximum Charge!』

 燐光は音声と共に輝きを増し腕のラインを走りて拳に集う。

「ゼッロナッコオオオオオオオオッ!」

 プテラノドン怪人は白銀の腕の主を目に映すことなく消失する。

 消失の余波が煙を霧散させる。

 そこに立つのはずんぐりむっくりとした宇宙服ではなかった。

『きょ、キョキョ!』

 リクガメ怪人は未知なる虚無に舌を絡ませる。

 目に付くは雪のように白きボディーアーマー。

 全身に走るラインは白銀に輝くエネルギー、ゼロブラッド。

 額部に伸びる二本の鋭利な角、フルフェイスマスクに、バイザーから覗く鋭利な目、余剰エネルギーの一部が首回りから放出されて赤きマフラー状にたなびき、力強さを宿した四肢と完全に変貌していた。

『ぬ、ぬあんだ、そのすが、たは……?』

 白銀の風が吹いた時、リクガメ怪人はで驚愕する。

『さっかさ? なんでオデ逆さ、に? お? オデの身体、オデの硬い甲羅が、隕石でも割れねえ、オデの甲羅が、わ、割られて!』

 首がなく、硬い自慢の甲羅がばっさりと割れている姿を、生首となったリクガメ怪人は否応なしに見せつけられる。

「……ゼンブレード、収納」

 白銀の左手甲部より伸びる両刃の剣が声と共に収納される。

 ありえぬと、瞳孔を震えさせるリクガメ怪人は元凶の姿を目に焼き付ける。

『お、おめーらー! 今度のキョム――キケン!』

 あの姿を、今の虚無の危険性を、血族たちに思念で伝えて消失した。

『これこそ枷を解放せし真なる姿!』

「アーマードセイバー・ゼロ、ここに誕生!」

 覚悟を拳に宿し、虚無の戦士は殻を破りて真なる姿となる。

 絶望を覆し、天を零とするために。


「天に穢れし魂よ、虚無ゼロに還れ!」


 この日、この世界で一人のヒーローが誕生した。

 不死者を死なす矛盾を御す虚無の戦士。

 絶望を零に還す戦士。

 悲しみと怒りを胸に宿す戦士の名は、アーマードセイバー・ゼロ!

 天なる血族と長きに渡る苦難と苦悩の戦いが幕を切って落とされた。



 ま~ずは一人目の完成だ! うぷぷのぷのぷぎゃぷぎゃんっ!

 お次は魔法少女――あ、違った、魔法笑女まほうしょうじょだ!

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