アーマードセイバー・ゼロ編

ゼロ編 第0話 警・告

 ................解析完了。

 日本語に翻訳開始。


 死死死死死死死死死死死

 封封封封封封封封封封封

 警告警告警告警告警告警告


 ................以下同文のため略。重要部位だけを抜粋開始。

 抜粋完了。


`何人も地の封じ 解くことなかれ,

`封じ解かれし時 究極の天にて地の民 葬られん,

`最後の希望・虚無 時の石に記す,

`清らかな心 血 身につけ 究極の天消し去る力とならん,


<猟奇殺人>


「あ~はいはい、どいて、どいて!」

 野次馬やマスコミを押しのけ、規制線の張られた路地裏に踏み込んだ神崎光太かんざきこうた警部は、生々しい赤さに口元を手で覆いながら顔をしかめる。

 そこには首から上のない人間二人が壁に寄りかかり、腹より掻き出された臓物と血が周囲を真っ赤に染めあげていた。

「こいつは酷いな」

 神崎が警察官となって早二〇年。

 平成が当に過去の年号となったこの時代、警視庁捜査一課の一員として強盗、殺人と様々な事件を担当してきたが、ここまで凄惨な現場は生まれて初めてだ。

「う、うっ!」

「おい、吐くなら現場の外で吐け」

 部下の一人が口元を抑えて規制線の外に駆け出した。

 その後、耳を覆いたくなる音が現場に響く。

「トメさん、なんか分かったかい?」

 神崎警部は気合いで意識を保ちながら、鑑識に話しかけた。

 トメさんと呼ばれた鑑識は苦い顔で返す。

「あ~かろうじて身元と死因程度だね~」

「検死医でもないのにかい?」

「ガイシャ二人は近隣でたむろしている所謂、不良。んで、死因は頭部破砕と内臓損傷によるショック死、まあ見たまんまなんだけどね~」

 問題は死因だと鑑識は語る。

「内臓を掻き出すならともかく、人間の頭をスイカみたいに潰すなんてそれこそ、建設機械でも使わないと無理だよ。だだっ広い場所なら重機のハンマーやらクレーンで潰したと、説明がつくんだけど、あいにくここは路地裏ときた」

 軽自動車がサイドミラーを折り畳んでギリギリ通れる道幅である。

 防犯カメラも死角となり、犯行の瞬間は期待できないだろう。

「神崎警部」

 規制線の外から別の部下が呼ぶ。

「おう、何か分かったか?」

「周囲の防犯カメラの映像を洗い出したのですが、不審な人物は誰も」

 ならばこそ犯人は路地裏に潜んでいたことになる。

 防犯カメラの位置を把握し、死角となる位置で犯行に及んだ。

 恐らく、土地勘持つ者の仕業である可能性が高い。

 動機は逮捕してからだ。

「おうおう、これまで細かく砕かれてるか」

 腰を下ろした神崎警部は赤く染まった金属片を覗きこむ。

 携帯端末の残骸なのは確かであるが、こうも細かく砕かれていてはデータ修復は不可能だ。

「どうした? おい?」

 路地裏の奥から困惑の声が届く。

 腰を上げた神崎警部が向かうと、警察犬が全身を震えさせながら地に伏していた。

 鑑識の一人が紐を握り、指示を出そうと一切動こうとしていない。

「どうもこうも、まったく動かないんです」

 困惑以外の感情が出力されない。

 警察犬の活動は主に三つ。

 現場に残された人間の臭いや遺留品で探索する足跡追求活動。

 保管した犯人の遺留物と容疑者の臭いをかぎ分ける臭気選別活動。

 迷子や行方不明者、遺留品を捜索する捜索活動。

 今回は犯人と被害者の足跡を臭いで追うはずが、警察犬は何かに怯えているのか一切動かない。

「きゃんきゃんきゃんっ!」

 ようやく立ち上がったと思えば、警察犬は鑑識の手を振り解き、尻尾を巻いて現場から逃げ出してしまった。

 追えば、警察車両の下に入り込み、全身を震えさせているではないか。

「周囲の聞き込み行くぞ!」

 気を引き締めた神崎警部は部下たちに指示を送る。

 警察犬が役に立たぬならば、基本を抑えるだけのこと。

 捜査の基本は足。

 入念な聞き込みにより犯人を絞り出し、縛り上げる。

 そして、法の裁きを受けさせることであった。

「けどよ、これは本当に人間の仕業か?」

 警察の勘が不穏な警鐘を鳴らした。


 防犯カメラを介して殺人現場を覗くものたちがいた。

「始まったか」

 年を重ねた声は言う。

「ああ、始まったようだ」

 機械質でありながら流暢な声は頷き、続けて言う。

「国内での発生は五件。だが、世界規模で見れば、不可解な猟奇殺人は一三五件、そのほとんどがユーラシア大陸で発生している」

「その内一件がこの東京で起こっておる。きゃっら、海を渡って来たのは確かなようじゃ」

「関連性に気づく者は私たち以外にいないだろう」

「仮に気づいたとしても警察どころか軍隊でも手を余すじゃろうて」

 嘆息するように年を重ねた声で返せば、キータッチの音が響く。

「だからこそ、私たちが、いや我々がいる」

「そうじゃ、のう」

 流暢な声は希望を宿しながら、年を重ねた声はどこか重い。

 起こり得る未来を案じる重さが宿っていた。

「まあ、なるようにしかならんか! かっかっかっ!」

 年を重ねた声は切り替えが素早かった。


 え~っと北斗零司ほくとれいじくん。日本人、年齢は一八歳。

 君、今日平日だけど学校は? え、中学卒業と同時に三年間、考古学者の両親と共に外国を巡っていた? そして今日一人帰国したと。通信教育で高校卒業認定は修得しているけど、今は無職なんでしょ? 違うの?


 職務質問をする警察官に北斗零司は断固として言い返した。


「断じて違う!」

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