真相
武器庫内部。
魔法の灯に照らされ、意外に中は明るかった。
「この最奥に『救国の宝剣』が!」
「あまり大きな声を出すな……おい、王女様はどこ行った?」
「は? そこにいるに決まって……」
薄暗い部屋の中に、狂的とも言える笑い声が響き渡った。
「アハッ! アハッ! アハハハハハッ! やった! やった!」
「おい、この声って」
「間違いないエンビシェンだ」
急いで奥へと突き進む二人。
そこに居たのは祭壇のような場所にいるエンビシェンと、そこにある煌びやかな剣だった。
「あら? まだ居たの? あっ、そうか。まだ依頼金は前金だけだったけ? じゃあそこらへんにある武器から売れそうなの持ってきなよ。装飾用のとかもあるから高く売れるよ?」
「盗品なんか売れるかよ」
レイジが吐き捨てるように言って、睨みつけた。
「やだなー。盗品じゃないよー。だって、どうせこの国なくなっちゃうんだから♪」
「……で? どっからどこまでが嘘だったんだ?」
あくまでネームレスは冷静に状況を把握しようとしている。
「んー? 全部? 実は宝剣を使うのに必要なのは『今代の王』じゃなくて『勇者の血族の血』とか!」
エンビシェンの右腕、細い傷があり、そこから宝剣へと血が滴っていた。
「つまり国王の右腕は?」
「いまさらそんなの気にするのー? あんなの転写の方に細工したに決まってんじゃーん! 転写士には『お父さんの遺体を撮って、この悲しみを忘れたくないの』とかなんとか言ってさー! アハハハッ」
まさしく箸が転んでも笑う年頃といった風に笑い続ける。
「なんでクーデターなんか起こそうとする。第二王女の地位がそんなに不満か」
「クーデターっていうかさぁ。もうこの国、全部ぶっ壊してやりたっくってさー」
「よくお忍びで城下に来てるって聞いたけど?」
さっきまで笑っていたのにすっと表情が真剣になる。
剣を台座から引き抜き肩に担ぐ。
「それよ、私はそこで学んだの。私は王様にもなれないのに窮屈な生活は押し付けられたまま生きて行くのに、町の奴らはのうのうと、自由に生きてる! 気に入らない!」
「子供か」「良く見ろ、子供だ」
そんな二人の会話など聞こえてもいないようだった。
「母親も姉貴もあのおせっかい大臣も、死んだ親父も大っ嫌いだ! 私はこの城が、町が大っ嫌い!」
「だから宝剣で全部ぶっ壊す?」
「そうよ! なんか文句ある?」
宝剣の切っ先を二人に向ける。
レイジは溜息を吐いて、一言告げる。
「俺はこの町は割と好きだ。最近仕事はなかったけど、近所のおばちゃんは優しいし」
ネームレスが続ける。
「向かいのパン屋のホットドックは旨い」
エンビシェンは不機嫌さを加速させる。
「だから! なに! この宝剣は、数多の軍勢を退けた伝説! 今更、なにが出来るっていうの!?」
レイジはエンビシェンに見えるように、さっき使った工具を掲げた。
「……それが、何」
「ごめん、俺も嘘吐いた。そのお守りは『透過』の魔法道具じゃなくて『閃光小袋』って言って父方の祖父ちゃん製の『実験品』でね。まあつまり、どっちにしたって、アンタが魔力を通したとしても何も起こらなかったってワケさ!」
そう言って工具を逆さに持って、取っ手の底の部分を親指で力強く押した。
真白が世界を覆う、その光源はエンビシェンの胸元だった。
レイジ本人も、その光の中では、行動出来ない。
だが、ネームレスは違う、特殊な瞳を持つ彼ならば、この光の中も動くことが出来る。
後は一瞬だった。
光が消え、そこに居たのは立っているネームレスと倒れているエンビシェン。
「死んでないよな?」
「気絶させただけだ。それよりこれからどうする? こいつほっといたらまたクーデターしでかすぞ」
「物理的な鍵は開けられないみたいだから施錠すれば大丈夫だとは思うけど……もうしょうがない! こいつ連れてこの国を出るぞ!」
「……お前、俺の時もそうだったよな」
「それしか方法ないんだから仕方ないだろ! ほら新しい『リトライ』メンバー抱えて行くぞ!」
「俺が運ぶのかよ……」
こうして、何でも屋「リトライ」はダイヤモンド王国から姿を消した。
それはともかく第二王女失踪事件はとんでもない騒ぎになったそうだが。
それはまた別のお話。
「やったー! 自由だー!」
「なんで嬉しそうなんだこの王女」
「ちゃんと何でも屋の一員として働いてもらうけどな」
lazy of all trades 亜未田久志 @abky-6102
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