第48話 パンはパンでも食べられないパンはな~んだ?

 マフィンクスはまず老爺に焦点を当てた。巨大な双眼に射抜かれ、老爺がビクリと肩をそびやかす。


「では老人、第一問目のクイズはそなたに答えてもらおうかのう。一応注意しておくが、周りの者は答えを教えぬようにな」


一呼吸置いてから、マフィンクスが第一問目を出題する。


「朝は二本、昼は二本、夜は四本。これな~んだ?」


「む…」


老爺は眉を寄せて熟考し始めた。


「なんか、どこかで聞いた問題なような…」


小声で陸人が呟く。


「確かにあの問題と似ているな」


オーガストは思案げに腕を組みながら、


「しかし本数が若干違うような…」


「うん。人間なら四本、二本、三本だもんね」


およそ一分のシンキングタイムが終了し、マフィンクスが老爺に回答を求める。


「え…ええと――――ま…待ってくれ、もう少し時間を…」


「“待ってくれ、もう少し時間を”が、そなたの回答だな」


「ち…違う!そうではない――――」


「残念、不正解だ。正解は、“シメオン・ヴァロシャーツ”。そこに立っている騎士の青年だ」


「ほう、マトン君は月明りを浴びて羊化するから、夜は四本足ということか」


「なるほど、わりとよく出来た問題だね」


「私達の呪いのことも知っているなんて、かなりの情報通ね」


「おい、お前ら!感心してる場合か!」


クイズに正解できなかった老爺はマフィンクスに縋って懇願していた。


「頼む…。孫を奪わないでくれ!サンディはわしの宝なんじゃ!食うならわしを食え!」


「じいちゃん…!」


「何をほざくか、老人よ。それはそなたの“命より大切なもの”であろう。わしが奪うのは“命の次に大切なもの”だ。というわけで、それを頂くぞ」


マフィンクスは口を大きく開け、触手のように舌を伸ばして老爺から痰壺をむしり取った。


「ああっ!わしの大事な壺がぁぁぁぁ!」


壺は長い舌に絡め取られ、その巨大な体の中へと収められた。


「え…?あの壺食べちゃった?」


陸人達は唖然としてその場に立っていた。


「ねぇ、そろそろ封印が解ける時間じゃない?」


「うむ…そうだな。あの中で封印が解けたら、風船みたいに爆発するんじゃなかろうか」


「ホホホ、期待するだけ無駄だぞ」


マフィンクスが陸人達の会話を聞きつけ、にんまりと口角を上げる。


「実を言うと、たった今封印が解けたところだ。しかしゴブリン共はすでに原型を留めておらん。なぜならわしの胃液はどんなものも一瞬にして溶かしてしまうからのう」


「くっ…なんて化け物だ」


シメオンが敵意に満ちた目でマフィンクスを睨みつける。


「ほう、そなた良い目をしておるな」


マフィンクスはさっそく次のターゲットを彼に決めた。


「では羊人間の騎士よ、第二問はそなたに問う。パンはパンでも食べられないパンはな~んだ?」


「は?そんなの決まってんだろ。フライ――――」


「待ってシメオン!よく考えて!」


「そうだ、マトン君!普通の回答じゃ駄目だ!」


「こらこら、口出しするのはルール違反だぞ。そなた達は黙っておれ」


マフィンクスは両目から細いビームを出して陸人達の足元の砂を一部焦がした。


威嚇ビームを出され、止む無く陸人達は口を閉ざした。


「では、シンキングタイム終了だ。そなたの回答を聞こうか、青年」


シメオンは舌打ちし、腹立たし気に回答した。


「答えは…“腐ったパン”だ」


「う~む…残念、不正解だ」


「は?腐ったパンは食べられないだろ!」


「いいや、わしは普通に食べれるぞ。腹痛もおこさん。正解は大衆レストラン“ボンボンジュール”の岩石スコーンだ。あの店は千年以上も続く老舗だが、料理は殺人的に不味くて食えたものではないからのう」


「は?!ざけんなよ!スコーンってパンじゃねーだろ!イースト菌入ってねーだろ!」


「わしの中ではスコーンはパンだ」


「スコーンはスコーンだろ?!」


「とにかくそなたは不正解したのだ。ルールにのっとり、命の次に大切なものを頂くぞ」


マフィンクスの長い舌がシメオンの手中にあるデルタストーンへと伸びていく。


「くそっ…。渡してたまるかっ!」


シメオンはとっさの判断で石を陸人に投げて寄越した。


「ふっ…。これであの石はもう俺の持ち物じゃないから、奪うことはできないぞ。どうだ、悔しいだろ?」


「ふむ…」


マフィンクスは相変わらず余裕の表情だ。


「仕方ないのう。では代わりにこれをいただくとするか」


マフィンクスはシメオンの大剣を奪っていった。


「ああああ!俺の剣がぁぁ!」


シメオンは地面に膝をつき、両手で頭を抱えて悲嘆の叫びを上げた。


「さて、それでは―――」


マフィンクスは愉快そうにくつくつ笑いながら、最後のクイズの回答者を指名した。


「三問目はそなたに答えてもらおうかのう、小僧よ」


陸人は唇を噛み、デルタストーンをぎゅっと握り締めた。










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