第41話 こうなったらもうヤケクソだあぁぁ!
シメオンは気絶中、エレミアはロックの鎖で身動きが取れない。今、体の自由が効くのは陸人ただ一人だ。
「後はお前だけだな、坊主」
「お兄様、ここは私に任せてください」
光の球を宿したロティーがゆっくりと陸人に詰め寄ってくる。
「大人しくしていてくださいね。一瞬で気絶させてあげますから」
「ひっ…!」
目の前にいるのはもう、無垢で可憐な少女ではなかった。彼女も兄と同様に妖精の仮面を脱ぎ捨て、今や醜い化け物の姿へと変貌していた。
――――どうしよう…。今度こそ絶体絶命だ。
『諦めるな、リクト』
突然ジャン・ダッシュが語り掛けてきた。
『お前にはまだ“私”という奥の手が残っているだろう』
――――奥の手って言ったって、どうせろくな武器じゃないんでしょ?
『そ…そんなことはないぞ。こういう相手にこそ使えるとっておきの技があるのだ。その名も“
――――“避雷”っていうくらいだから電撃を食らわずに攻撃できる剣なんだろうね。
『ああ、その通りだ』
――――でも“トゥエンティーセイバー”って名前が引っかかるんだけど。まさか命中率20%とかじゃないよね?
『それはないから安心しろ』
――――じゃあトゥエンティーってどういう意味なの?
『残念だが説明している時間はない。早く発動しないとダークエルフの小娘に感電させられてしまうぞ』
――――わかったよ…。
陸人は風呂敷から巻物を取り出して右手に構えた。巻物がカッと眩い光を放ち、徐々に剣の形へと変形していく。
現れたのは、刀身が三日月のように反った、ガラスの大剣。
「こんなんで本当に大丈夫なのかな…?ガラスとか超脆そうなんだけど…」
「大丈夫よ。ガラスは絶縁体だから、少なくとも感電の心配はないわ。とは言え、背後を取られたら終わりだけど」
「え…?!」
エレミアの最後の一言のせいで陸人は少々及び腰になっている。だが、今更退くことなどできない。
「随分と弱々しい剣ですね。貧弱なあなたにはぴったりですけど」
ロティーは余裕たっぷりに嘲笑い、さっそく右手を突き出し、光の球を投げ放ってきた。
「“ダークボルト”!」
「くそ~!こうなったらもうヤケクソだあぁぁ!」
陸人は剣を振り上げ、光の球に向かって斬りかかった。
刀身と球がぶつかり合い、バチッっと大きな衝撃音が響く。
「うおりゃあぁぁ!」
陸人は両脚を踏ん張って、どうにか球を打ち砕いた。
「くっ…貧弱なくせに中々やるじゃないですか。ま、今のは私も本気じゃないですけどね」
口では強がっているが、ロティーの瞳には明らかに動揺の色が浮かんでいる。しかしすぐに気を取り直し、今度は両手に光の球を宿した。
「それじゃあ、これならどうです?“10連ダークボルト”!」
ロティーの両手から、次々とダークボルトが放たれる。
「ちょっ…待ってよ!次は僕が攻撃する番でしょ?!これターン制じゃないの?!」
「ターン制?馬鹿ですね、そんなものとっくの昔に廃止されてますよ」
「ええええ?!そんな!でも、10連攻撃は絶対反則だよ!!」
などと大声でわめきながらも、陸人は先ほどと同様に彼女の連続攻撃をすべて受け止めて打ち砕いた。
「なっ…!私の10連ダークボルトを完封した…?!」
さすがのロティーもかなり驚いているようだ。
しかも今の攻撃で魔力をだいぶ消費したのか、かなり疲れている様子だ。
「よぅし!やっと僕のターンだ!」
陸人はチャンスとばかりに剣を構えた。握っている柄の部分から刀身に向かって、白い光が広がっていく。
光が刃先まで広がったところで、陸人は剣を振りかぶり、床に向かって勢いよく振り下ろした。
「ま…まずいっ!」
ロティーは瞬時にバリアを張ったが、トゥエンティーセイバーの威力には敵わなかったようだ。光の斬撃の押しに負け、背後の壁まで吹き飛ばされていった。
ダークエルフと言えども小さな体には相当な打撃だったのか、ロティーは床の上で完全に伸びている。
「やった、やった!すごいじゃん、この剣!今までの武器は一体何だったのって感じだよ!」
初めてまともに敵を倒し、陸人はすっかり舞い上がっている。しかしその喜悦も束の間――――
「陸人くん、後ろ!」
エレミアに注意されて振り返ると、ロックがすぐ目の前に塗り壁のように立っていた。
「よくも俺様の可愛い妹をいじめてくれたな?」
妹を傷付けられて、相当頭にきているようだ。
だが陸人は決しておののかなかった。
なんたって彼には無双の剣があるのだ。
「やい、この変態デカブツ鎖野郎!あんたもこのトゥエンティー
が、振り上げた瞬間、陸人ははっと息を呑んだ。
どういうわけか、いつの間にか大剣が巻物に戻ってしまっていたのだ。
「え?なんでなんで?なんで戻ってるの?!」
言うまでもなく、陸人は大パニックを起こしていた。
するとジャン・ダッシュはぼそりと補足した。
『このトゥエンティーセイバーの持続時間は20秒だ』
―――――は?!トゥエンティーってそういう意味だったの?!じゃあもう一度発動してよ!」
『それは無理だ。このトゥエンティーセイバーは続けて発動することはできない。最低でも二十時間、間隔を空けなければ』
――――そ…そんなぁ…!他に何かすごい技ないの?!何かあるでしょ?
『ん…?何だって?』
――――だから、他の技を…。
『すまない、電波の調子が悪いようだ。また後でな』
「おいっ!お前は電子機器じゃないだろ!都合悪くなったからって電波のせいにするな!」
「何を一人でごちゃごちゃ言ってんだ?恐怖で頭がイカれちまったか?」
ロックが般若のような形相で陸人を見下ろしている。
「あ…いや、その―――とと、取り合えず落ち着こうよ?えっと、ほら…食後のお茶でも飲みながらゆっくり―――」
次の手を考えるまでどうにか時間を稼ごうとしたが、無駄だった。
ビリビリと強烈な電流が全身を突き抜けていくと共に、陸人の意識は遠退いていった。
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