対戦
「待たせたな」
(最初から待ってねぇよ)
少女の治療を終えてアムの横に並んだ俺にリンカーは嫌そうにそう返してきた。
「お前には言ってない」
「奴らも待ってはくれなかったがな」
「彼女を治療する俺を狙ってきやがったもんな」
フルフェイスヘルムの武装兵は表情が見えないため闘いづらいが、逆に相手は視界が悪すぎてアムの高機動戦闘は追えないはずだ。
「さてラグナはどちらとやる?」
「槍使いとは経験が少ないから剣士の相手をさせてくれ」
「そうか、ではわたしは奴を」
俺たちは立ち位置を入れ替えてそれぞれの相手の前に立った。
フォーレス王の側近となれば、どれだけの強さだろうか? これまでならビビって体が硬直してしまいそうな場面だが、今は心に怒りの炎がメラメラと燃えている。そのせいなのか俺の
俺は心と体に力を漲らせて武装兵と対峙する。
闘技場は突然の侵入者に騒然としていたが、放たれていた魔獣がアムによってあっさりと斬り捨てられ、その異常な強さのアムがフォーレス王に敵意を持った言葉を放ったことで一時は静まり返っていた。
対して王は動揺は見せず、側近の兵士を俺たちに差し向けた。このことを切っ掛けにして、またしても見世物の続きとばかりに盛り上がり始めたのだった。
剣士の切っ先がブルっと震えるたその瞬間、その剣が点となって俺の眼前に迫っていた。
首を倒したその横をギラリと光を反射する真新しい刀身が通過した。
俺は首に続いて体を倒し、横をすり抜けながら武装剣士の胴へ剣を打ち込んだ。そして感じた。アムも感じたであろう妙な手ごたえを。
隣で闘っていたアムと槍使いだが、ちょうど俺が剣を振ったタイミングで槍使いは反対側の壁まですっ飛んでいった。
視界の端でアムにも同じように槍使いの突きが撃たれていたのが見えたが、アムは俺とは違いカウンターを叩き込んだのだ。
アムとは違い無理な態勢からの攻撃は大して力は乗っていなかったのだが、それとは関係なくその手応の異常さに驚いた。
「手ごたえが軽すぎる」
「スポンジでも叩いたような感じだろ?」
そして武装兵たちも軽すぎる。確かにアムのカウンターは強力だろうが反対の壁まですっ飛ぶにはいくらなんでもアムの体重では無理がある。それはまるでエイザーグの強靭な尻尾で打たれたかのような勢いだった。
「あの軽さと柔らかさはあの鎧によるものだろう。ラディアの鎧に近いな」
(なんだ兄弟がいたのか?)
「バカ言えっ、兄弟って言うならお前……」
リンカーに対してそこまで言いかけた俺だが、バカバカしく思って言葉を止めた。
「茶々入れずに黙って観てろ!」
踏み込みの力を乗せて左の下段から右上に斬り上げると受けた剣士は軽々と後ろに吹き飛んだ。
(人間と闘ってる気がしないな)
着地する剣士に向かって再び突進。やはり振るった剣の勢いによって大きく間合いが開いてしまう。
(これじゃぁ剣術が使えないぜ)
固定されないボール相手に連続攻撃は放てない。イラつく俺はそれでも突進するしかなかった。
アムも同じように槍をかいくぐってリンカーを振るうが連撃には繋がらず。
何度目かの俺の攻撃はイラつきから雑になり空を斬る。その勢いに体が流れた俺に対して初めて剣士は反撃してきた。鎧の武骨さもあって俺よりふた回りは大きな体が豪快に剣を振り下ろす。
泳いだ体を立て直して剣を持ち上げ受け止めると、全身の骨に衝撃が走るほどの重さが俺に圧しかかり、俺は膝を突いてしまう。
(重いっ?!)
剣が折れるか手放していれば頭をカチ割られていたかもしれない重い一撃。その重さに動きを止めている俺に振り下ろされた二撃目は、体を倒して逃れようとした背中を叩いた。
うめき声を歯噛みで堪えられたのは、激しく飛び散る光の飛沫の賜物だ。鋭さや強力な法技ではない、純粋な重さの斬撃を鎧が減衰させたのだ。しかし、瞬間的に掛かる力を打ち消しきれず、衝撃が俺の生身に伝わった。
転がってその場から離れるがすぐには立ち上がれない。剣士も初めて奇跡の鎧の護りを体験したからか、警戒して追撃してこない。その隙を見てアムは槍使いを押し飛ばして俺のそばに寄ってくる。
「大丈夫か?」
「あぁ。確かに油断もあったけど人からあんな一撃を受けたのは始めてだ。いや、アムの魂を取り込んだ黒い闘士にやられたか。今のはあれを思い出すほどの攻撃だった」
俺はトラウマに近しい体験を思い出した。その焦りを察したのかアムは俺の頭に手を乗せて言う。
「なにを言っている。あのときキミが相手にしたのは普通の人間じゃない。このわたしだ。あんな鎧をまとっただけの二流闘士と一緒にされては困るな」
これは俺を励ましているのか? おちょくっているのか? はたまた
「だな。あいつらがあのアムと同格なんてありえない」
背中の衝撃はまだ消えないが鎧に損傷がないということこそが、格下という証拠だ。
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