アムサリアの知人

 静寂の森に入った俺の部隊は襲撃に備えて最後の休息を取っていた。そのあいだに伝書獣により連絡を取り合い、各部隊が集結しつつあることを確認する。


 仮眠を終えた俺は、ひと足先にフォーレスを一望できる高台に上がり、身を屈めながら様子を見ていた。


 そしてもうひとつ、グラドを付き添わせたアムたちが向かった場所。フォーレス城に直結しているという地下遺跡の入り口付近も観察する。とは言っても、ここから目視できるわけではない。グラドが吉報と共にアムたちと戻って欲しいという思いがそうさせるのだ。


 静寂の森を見回しても人影は感じられない。だがここには確実に数千人の軍が集結しつつある。


「みんな上手くやっているな」


 そう口に出した直後、背後の気配に気付いて身を屈めたまま抜剣した。


 まさかフォーレスの?! そのまさかだったら痛恨のミスか、はたまた元々筒抜けだったか。ともかく素早く片付けることを決定して足に力を溜める。


「ちょっと待って下さい」


 姿を見せないままそう告げるのは男の声だ。少し気の抜けた独特の声色が強引に俺の緊張感を緩めようとする。


「今出ますから攻撃しないでくださいね」


 その数秒後に男は手を上げて茂みから出てきた。


「あなたに重大なことを伝えに来ました」


 見たことのない男。服装からしてブンドーラの周辺の者ではない。この場において飄々ひょうひょうとした態度は、声が示したのと同様に緊張感を感じさせなかった。


「何者だ?」


「私のことより、なにしに来たかの方が重要ですよ」


 間合いの中で殺気を込めた俺の問いに対して、その男は変わらぬ態度で言い返す。


「質問に答えろ!」


「残念ですがその質問には答えられないんです。ですが、もっといい情報、いや悪い情報かもしれませんが、あなたに価値ある情報をお教えしようかと思います」


 こいつはいったいなにを言っている? フォーレスの者ではなさそうだが得体が知れない。


「で、なにを教えてくれるって言うんだ?」


「それはですね。……まだわからないんです。あははははは」


「おちょくっているのか?」


 法剣に心力を蓄えると男はおおげさに焦った態度を取った。


「もうすぐです。もうすぐわかるのでちょっとだけ待ってください。それまで少し話しをしませんか?」


「名も知らぬお前となにを話す。なにかをくわだてているのならさっさと斬り捨てればいいだけだ」


 隙の少ない突き技に構えると、さらに大きな動作で怯えた態度を取った。


くわだててはいます。でもそれはあなたたちと同じことです」


「なに?」


「ウォーラルンドの事件を探っていたでしょ? まずはその辺りからお話ししましょうか?」


「お前はいったい……?」


「アムサリアさんの知人です」


 俺はその言葉に一瞬の動揺を出してしまった。


「とは言っても仲間でもなんでもありませんがね。ウォーラルンドでちょっとお世話になっただけですが」


 考えが読めねぇ。今日、アムと再会を果たし俺はアムの名を出されたことでいくらか気が動転している。斬って終わらせる手もあったがアムの名を出したこいつの口車に乗ることにした。


「なら話せ」


「アムサリアさんの名前を出して正解だったようですね。じゃなかったら斬られてたかもしれません」


「食えねぇやつだな」


「ありがとうございます。ではしばしお話ししましょう」


 男は俺の間合いの中であぐらをかいて座った。


「私の名前はビートレイ。もちろん偽名ですがその名で通してます」

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