新たな意志
「この闘いには正しさがある」
フォーレス王国のバックボーンたる聖都がなにを
仲間や敵兵の犠牲の上にしか立たない平和もある。たとえ戦争になったとしても、フォーレス国民の救済、ひいてはブンドーラを含む近隣の人々の脅威の排除に繋がると言い聞かせていた。だが、本当の理由は悪しき聖闘女を討つためだった。もっと厳密に言えば、盟友と同じ称号を持つ者が悪であることが許せなかったのだ。
今身に付けている決戦用の防具はエイザーグと闘ったときに使っていた物だ。年季の入った物だが旧友が作ってくれた優れものであるため今も愛用している。盟友の死という大きな傷が疼くのだが、それによって闘いへの意志は褪せることはなかった。
「この傷の疼きが消えちまったら……」
テントを出た俺は柄にもなく空を見上げて昔を懐かしんでいる。このことが、闘いの意志が弱まっている証拠なのではないかと心配になった。
色々と思いを巡らせているあいだに装備を整えた部下を連れたマウがテントから出てきた。そして、俺にこう言った。
「ブライザさん。本当はあなたも彼女たちと一緒に行きたかったんでしょ?」
「なんでそう思う?」
「これから大きな闘いがあるのに兄を付き添わせるなんて、あなたらしくないからです。向こうが奇跡的に上手くいけばそれにこしたことはないですけど、妖魔化したグレイモンキールをあの条件で倒せるとは思えません。たとえあなたでも。それに……」
「貴重な戦力であるグラドを付き添わせたのは、それだけ俺がアムを大事に思っているからだと。だが、ブライザ組の大将がその任を投げ出すわけにはいかないからと、それが苦肉の策に思えたってか?」
自分が言う前に話の続きを言われてしまったことで、マウは目を丸くして俺を見ている。
「そうだよ、今からでもすっ飛んで行きたいくらいだ。だけどよ、ウソかホントか死からも生還した俺の聖闘女だぜ。きっと妖魔獣なんかにゃ負けねぇ。だが少しでも手を貸したい思いはどうにもならなかった」
マウが思っていた以上に俺がアムを助けたいという思いが伝わったのだろう。その表情は若干引き気味だった。だがこのことで、アムと共に勝利を勝ち取りたいという新たな意思が湧き上がってきた。
「ほら、正直に話してやったんだ。これでスッキリしただろ。早く小隊まとめて出発しろ」
「ブライザさんの意外な一面を見られて本望です」
「馬鹿野郎、本望とかそんな言葉使うな。お前は最後方で救護の担当なんだ。死にやしねぇよ」
「あなたな意外な一面をもう一度見るために、彼女が無事であることを願ってます。それとあなたの無事も……」
「俺のほうが次いでかよ」
そう言って笑い合ったのを最後に互いに表情を引き締める。
テントの先の広場に集まる仲間と合流し、俺たちはフォーレス王城の近郊にある、静寂の森に向かって出発した。
アムは妖魔獣を打ち破る。絶対に! あとは時間との勝負だ。
このときの俺は、時間に間に合うかどうかという二択しか考えていなかった。
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