顕現
信じがたい速度と速さで剣と拳を打ち合う両者。しかしながら、一見優位なアムのその動きはどこか窮屈そうだ。
その理由をリンカーが俺に向かって叫んだ。
(おまえら一ヶ所に集まれ。お守しながらじゃアムが力を発揮できねぇよ)
つまり、さきほどハーバンを狙ったのと同じだ。俺たちを狙うことでアムの動きを抑制している。
「ちくしょう!」
俺はグラドを担いでハーバンのところに移動した。
「おい、おっさん! しっかりしろ!!」
「すまない。こんなはずじゃなかったが、奴と俺では差があり過ぎて役に立てねぇ。それどころが思いっきり足を引っ張っちまってる」
「そんなこと気にするな。それに、最初に足を引っ張ったのはこいつだ」
いまだ目を覚まさないグラドをハーバンの後ろに寝かせ、俺は再び治療を再開した。
こうしているあいだにもアムと妖魔獣は闘い続けている。俺の見立てでは、やはりアムの方が一枚上手だ。さっきアムが吹っ飛んだのは偶然か、アムの油断か。
アムに限って偶然や油断なんてあるのかと思ったとき、妖魔獣の胴が薙がれ、その距離を使いアムが法技を構える。踏み止まった妖魔獣が跳ね飛んでアムに向かっていったその瞬間。
「なんだ!?」
再びアムが地面を転がった。
「くっ、やりづらい相手だな」
今度は壁に激突せず滑りながら踏み止まったのだが、その口から漏れた言葉から最初の攻撃が偶然や油断ではなかったのだとうかがえる。アムの様子から直撃したわけではないようだが、虚を突かれたような感じはあった。
「あの野郎、なんか変な動きをしたぞ」
ハーバンの言うとおり妖魔獣はおかしな動きをしたのだ。
「あぁ、正面に飛び込んだのにいきなり横に跳ねて、アムの側面から殴りやがった」
このカラクリは次の攻防であきらかになった。
「あいつ、
俺にもそう見えた。妖魔獣は地面でも壁でも天井でもない空を蹴って方向を変えたのだ。
遠間から見ている俺たちならまだしも、目前でそれをされるアムにはたまったものではないはずだ。攻勢は相手に傾き、アムは防戦となる。その要因は戦力外の俺たちにもあるのだが。
「ラグナくん、このままじゃまずいぞ」
「わかってる!」
ハーバンを脱出させたとしても、怪我の具合もわからず動けないグラドは連れていけない。俺たちがいる限りアムの足を引っ張り続けてしまう。この闘いに勝利したとしても、アムが致命的な傷を負ってしまう可能性も考えられる。
焦りの中でのこの考えはぐるぐると回りながらひとつの事柄に集約していく。妖魔獣の目まぐるしいその動きを抑え、アムを護り反撃へと転じさせるためになにが必要なのかと。その思考が強い集中力を生んで余計な雑念を消し去った。恐怖という雑念さえも。
妖魔獣と化してより狂暴になったグレイモンキールの腕が俺に迫ってきた。
「待ってたぞ」
その攻撃を受け止めた衝撃で意識が広がった俺に、アムがそう言った。
それは、妖魔獣が俺に迫ったのではなく、俺がアムとこいつのあいだに飛び込んでいたのだ。そして……。
(ばかラグナ。おまえの輝力でアムの力がそがれちまうだろうが!)
「なに?」
見れば奇跡の鎧が俺の体を包んでいた。
鎧から放たれる輝力を受けた妖魔獣は大きく飛び退き身を低くして警戒する。
「その鎧は」
ハーバンも俺の鎧を見て驚いていた。
「正直半信半疑だったがホントにあったんだな。となるとお嬢さんが蘇った話もまんざら嘘じゃなさそうだ」
(あたりまえだ!)
そう突っ込んだのはリンカーだ。
「そ、そのなんとかって鎧があれば……、少しはマシになるんだろうな」
「おまえのように下手を打つことはないぜ」
意識を取り戻したグラドの憎まれ口に、俺は同じような憎まれ口を返した。
「だから俺の背中に隠れていろよ」
ふんっ、とグラドはそっぽを向く。
「さぁ、反撃の時間だ」
アムの掛け声を受け、俺は妖魔獣に向かって構えを取った。
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