戦力

 聖都の配下にあたるフォーレスとの戦い。その勝算はいかほどか? それが気になるのはアムも同じだった。


「それで、闘いを挑むにしても敵の正確な戦力はわかっているのか?」


「向こうは国民の四割が戦闘員だ。それもかなり質が高い。情報によれば二万人の上位闘士。対してこちらは同盟国と合わせて五万は下らない。非戦闘員の男手を駆りだせばさらに一万上乗せできるが、二万人全てが精鋭の軍が相手じゃ戦力になるかは疑問だな」


 一流闘士だけで二万の部隊。故郷のイーステンドの騎士団もそれなりの精鋭で組織されているけど、一人前の騎士は二千ほどで予備軍とされる者たちが五百人。自警団や国の治安維持部隊、組織に属さない闘士たちと合わせてもいいとこ五千人だ。他国と争いなどしたことのないイーステンドでは比較にならない戦力を持っている。


「今の戦力では厳しいと踏んでいる俺たちと、不意を突いて一気に勝負を決めたい奴らで揉めている状況でな」


「今の戦力で厳しいとして、その他の戦力の当てがあるのか?」


「ずっと昔から同盟を組んでいる猛角族たちがいる。そこに協力を要請しているのだが。見た目に似合わず平和主義な一族でね、今のところ防衛には力を貸してくれる意思はあるが侵攻には手を貸せないということだ」


「人とのかかわりが少ない猛角族と繋がりがあるとはたいしたものだな」


 アムが感心するのも無理はない。ハーバンは平和主義な一族とは言ったが、一部の地区では小さいながらも人間と争いがある気性の荒い部族だからだ。


「なんでもこの国の聖闘女と繋がりが強かったらしくて、国が再建する前からの付き合なんだとか」


「でも力を貸してくれないんだろ?」


「だからこそウォーラルンドと手を組みたかった」


 ウォーラルンドの人たちを巻き込むことに賛成できないが、それ以前の問題として、ヘルトの死の悲しみもあって闘える状態ではないはずだ。


「今すぐ戦力の増強が望めないとなると、やはり戦争は避けたい。それにはあいつらを説得しなきゃならん」


「東の奴らだな」


「あそこのボスはうちとは正反対でガラが悪くて好戦的で品性もないからまともな話し合いにならねぇんだよ」


「その言い方だとあんたは人柄が良くて平和的で品性があるって言ってるように聞こえるぜ」


 少し小馬鹿にしたようにそういうと、ハーバンらは顔を見合わせた。


「君らと手合わせしたときにもそれらしいことを言ったんだが、俺はここのボスじゃない」


「え? だってあんたはそいつらも街の奴らも引き連れていたじゃないか」


「確かにそうだが俺にも上司がいるんだよ」


「おいおい、それならこんな大事な話に参加しなくて良かったのか?」


 恐らく彼らにとっては最重要事項であろうことをボスを差し置いて話してしまったことに問題はないのだろうか?


「いや、ずっとここに居るよ」


 と一同向けた視線の先に座っているのは……、


「リリサさん?!」


「リリサが俺たちのボスだ」


 確かに人柄がよくて平和的で品性があるボスだった。


「そう、俺たちはリリサ組。彼女の考えに賛同して集まった者たちだ」


 彼女のような人がこの街の半分を統率するボスだとは思いもよらなかった。


 サッと横のアムを見る。


「わたしも気が付かなかったよ」


「だよな」


「ラグナが気が付いていなかったことと、彼女が隠していた実力にだ」


「は?」


 彼女を見ると優しい笑顔で微笑んでいる。


「ラグナ君、言っておくが彼女の力はこの見た目から想像するようなものではない。俺たちがボスと呼ぶに相応しい実力を持っているんだ」


「でもアムサリアさんには遠く及びませんよ」


 ニコやかな微笑みで返してきた。


「わたしの見立てでは奇跡の鎧の力を差し引いたらラグナよりも上だと思うぞ」


 アムにそう言われると彼女からとてつもないオーラを感じる気がするが、彼女は変わらず春の日差しのようにおだやかな笑顔だった。


「リリサさんがボスだってことはわかってたのか?」


「この大事な話し合いの場に居ることや彼女に判断を仰いでいた点でな。しかし、リリサさんからそれを察して確信を得ることはできなかった。ただ周りの対応がリリサさんを護るような挙動だったことでそうだろうと考えた」


 俺の警戒心やら注意力やら洞察力やらの低さには泣きたくなる。ある意味ここは敵陣の中だ。わずかな油断が命にかかわる。完全に戦力外に考えていたリリサさんが最大戦力であると気が付けなかった俺たちは逆に危うい立場だったのかもしれない。


「話がそれてしまったが、東の街のブライザ組の奴らはやる気でいやがる。奴らが管理する同盟軍の連中を焚きつけて士気は上々らしい」


 焦り顔で話すハーバンが言葉に詰まると、今まで黙っていたリリサさんが口を開いた。


「王たちも防衛では後手に回るとブライザの意見を推奨しています。彼らを説得するよりもそれを上回る代替え案を考える方が現実的でしょうね」


「闘いが止められないならば、なおさらお嬢さん方の力を貸して欲しい。卑怯な言い方だとは思うが、イーステンド出身の君と同じ聖闘女の争いなんだから他人事ではないのでは?」


 もうこの流れというか、頼まれごとをされた時点でどうなるかは予想できる。


「戦争に手は貸せないが、そうならないための力添えをするとしよう。なぁラグナ」


 聖闘女が絡んでいるというならこの流れは必然だ。歴代聖闘女の争いの渦に現代の聖闘女であるアムが加わることで、戦況はどう変っていくのだろうか。

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