歴史 1

五分程度の時間を使って二日間に渡るウォーラルンドでの出来事を話し終えると、ハーバンたちは肩を落とした。


「英雄ヘルトの死は痛いな。彼とは二度ほど魔獣討伐を共にしたことがあってね。彼の人柄なら我々に力添えをしてくれるんじゃないかと期待していたんだ。それに君らの話だと聖霊仙人の協力も得られそうにない」


「うむ、彼らも街の人も酷く心を痛めている。それに街の人たちにわたしはヘルトの仇だと思われているからな。もし一緒に闘うとなったら士気が上がらないだろう。聖霊仙人ハムについても少し時間は必要だろうが、話をすればきっと力を貸してくれると思う。そういう者たちだ」


その言葉を聞いてハーバンは眉間のシワを少し緩めた。


「今は彼の死を悼み、魔女との因縁から解放された喜びに浸るときだろう」


 ハーバンたちは残念とばかりに下を向いている。


「国の上層部はあの街に封印されていた魔女や妖魔の力を利用できないかとさえ考えていたらしい」


 魔女の力まで利用したいなどと、そんなバカなことを……。


 ガタン


 そう考えた俺の頭に、一気に血がのぼった。立ちあがった俺はリンカーを掴んで身構える。


「ビートレイはお前らの仲間か! あの邪悪な力を手に入れるために画策していたのはこの国なんだな!」


 吼えるように言葉を叩きつける俺に驚き顔の面々。部下たちは椅子を引いて俺と同じように立ちあがり身構えていたが、ハーバンは冷静に部下に合図して座らせる。


 アムもリンカーの柄を握る俺の左腕を押さえているが、俺は怒りを抑えきれずにいた。


「ラグナ君、落ち着いてくれ。ビートレイという者は我々の仲間にいない。そいつが何者か知らないし、なにをしようとしていたのかもわからない」


 少しずつ冷静になっていく頭でハーバンの言葉をかみ砕く。


(ハーバンたちとビートレイが繋がっているなら俺たちよりも街の事情をよく知っている。街に立ち寄ったというだけの俺たちにちょっかいを出す必要は無いはず)


 そこまで考えて俺はリンカーを握る腕の力を抜いた。


(アムを見習え、この単細胞)


 リンカーに言われてアムを見る。さっきまでと違ってにじみ出る陰力は、俺と同じようにヘルトのことを思い出してのものだろう。


「悪い、頭に血がのぼっちまって」


 謝罪をして椅子に腰を下ろすとアムが言葉を付け足した。


「すまない。ビートレイという街の外の潜入者の画策によってヘルトの命が失われたんだ。魔女や妖魔の力を利用すると言ったので、その者がこの国の組織なのかと思ってな」


 湧きあがった怒りによって話の腰を折ってしまった俺が、バツの悪そうな顔をしていると、アムが話を進める。


「次はこの国やフォーレスの歴史について教えてくれ。


「では、少し長くなるかもしれんがブンドーラ王国の歴史について聞いてくれ」


 ハーバンは座りなおしてから話し始めた。


「この国は、お嬢さんが大盗賊国家なんて呼んでいたようなことはもうしていない。これも古い話だが、フォーレス王国と協定を結んで傘下に入っている。つまるところフォーレスは遥か東の地にある聖都の配下にあるから、ブンドーラもそのうちのひとつだ」


 俺の知る限りでは聖都は周りにある四大王国を統一しているらしい。さらに遠く離れたフォーレス王国も含まれているうえに、そのフォーレスがブンドーラも傘下にしているということだった。


「ブンドーラはフォーレスに代わってこの付近の小国、街や村、はたまた獣人の集落を支配している。そういった体制が完成するまでは多少えげつないこともしていたが、現在はそこそこ重い税や戦力の管理をおこなうといった程度で、嫌われつつも上手くやっている」


 今も変わらずなかなかの悪徳国家だというのがここまでの俺の印象だ。


「だが、そんなことをしているのはこの国の王政であって、俺たち街の者ではない。まずここが話のポイントのひとつだ」


「国がおこなっていることに比べれば、旅行者の財布をくすねる程度は小さなことではあるな」


 アムは笑いながら茶々を入れる。


「こう見えて俺たちは義賊だ。領土内の支配下の治安維持や問題解決は国でなく俺たちがおこなっている。影でひっそりとな。ちなみにそこの五人のうちふたりは当時この周辺で活動していた盗賊団出身だし、茶髪の美人は小国で国民を苦しめていた悪徳貴族の娘だ」


「大昔の話です」


「掘り返さないでくださいよぉ」


 過去を恥じているのであろう。それぞれ顔を赤くしていた。


「それを俺が鍛えなおした。今では人族を敵視する異種族を相手に人々のために勇敢に闘ったりもしている」


 誇らしげに彼らを見て言った。


「さて、ここからが本題だ」


 その前置きに俺たちは耳をそばだてた。

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