免罪
ハムとウラの小屋に人が近づいていると察したハム。その言葉を聞いて俺は街の者たちの報復かと心を緊張させた。
「こっちの方から5人くらい来るお」
5人。考えていたよりずっと少ない。精鋭を送り込んできたのか?
街の人々が
「待つにゃ」
俺に次いでハムも飛びだし、アムとウラも小屋から出てきた。
「もうそこまで来てりゅ」
ハムの指さす方を注視していると数十秒後にガサガサと高く伸びた草をかき分けて人が現れた。
「ノーツさん」
先頭で現れたのはノーツさんだ。彼だけはあのことを理解してくれていたと思ったのだが先陣を切っていた。それに続いて現れたのはダイナーさんだった。その後ろにパシルとタカさん。最後にサウスさんが現れてこちらに歩いてくる。
「ようラグナ」
「まさかあなたたちが送り込まれてくるなんて」
警戒する俺を見てノーツさんは両手を上げた。
「なに殺気立ってんだよ。まさか俺たちが報復のために送り込まれてきた刺客だとでも思ってるのか?」
それを聞いた俺の表情を見て首を傾げた。
「おいおい、勘弁してくれ。よく見ろ、俺たちは武装してないだろうが」
確かにノーツさんだけは腰に大型のナイフを差しているが私服の上に
「お前たちがまだ居て良かった」
ダイナーさんは俺に向って大きなリュックをふたつ投げてきた。俺は慌てて剣を持つ手でそれを抱きとめる。
「あっ、これは」
俺たちがワイフルさんのところに置いてきた荷物だ。
「お前たちの旅に必要な物だろ」
虚を突かれてなにも言えない俺の代わりにアムがお礼を言う。
「わざわざ届けてもらって申し訳ない。助かります」
「ありがとうございます」
俺も追っかけてお礼を言った。
「こちらからも礼を言わせてもらう。今回は魔女の討伐に協力してくれてありがとう。おかげでこの街はその脅威から解放された」
「でもヘルトが……」
俺はその先の言葉をハッキリと言うことができない。
「ここにいる者はヘルトの死について理解している。他にも話した者はいるが、やはりすんなりと受け入れることはできてない」
ノーツさんが後ろの4人を見回して言った。
「うちの子らも頭ではわかってはいるんだがやはり悲しみの感情が強くてな。ここには来られなかった」
ヘルトに強い憧れを持つブラチャとシエスタがどれほど悲しんでいるのかと想像し、俺の胸がぎゅっと締め付けられた。
「あれは防ぎようがなかった。それにアムさんのおかげで俺たちはヘルトの手で殺されずに済んだんだ。感謝こそすれ恨む道理はない。本来ならな」
その続きはパシルが言葉を続けた。
「やはり街の英雄であるヘルトを失ったショックは大きいのです。私自身も今朝までここに来るか迷っていました」
パシルがヘルトを慕っていたことは感じていた。理由はともかくその彼を殺したアムの顔を見ることはどれほど辛いだろう。
「お前たちはウォーラルンドの者たちに恨まれている」
サウスさんに言われるまでもなく承知している。俺たちの立ち去り際の街の人たちの対応を見れば許されざることだということはあきらかだ。
「だから、俺たちがその誤解を解いてやる」
「え?」
「そのためには仙人様に会いに来たんだ」
タカさんは前に出て膝を付き、持っていた包みを差し出した。
それに続いて後ろの4人も膝を付く。
「偉大なる聖霊仙人ハム=ボンレット=ヤーン様、並びに森の妖精ウラ殿。長きにわたる数々の無礼をお許しください。悪意ある噂に流され、あなた様の街を思う気持ちも考えず耳を傾けられなかったことで、今回のような事態に
深々と頭を下げる5人に対して、
「いいおー」
と軽い口調で返すハム。
あまりの軽さに一同驚き顔を上げると、ハムはタカさんのもとに歩み寄った。
「これはなにかにゃ?」
鼻を寄せてクンクンと匂いを嗅ぐ。
「お詫びを込めて我らが街の名産品をお持ちしました」
「くれるにゃ?」
「はい、お口に合うかどうかわかりませんが、どうかお納めください」
「やったにゃー、ウラたーん」
言われるがままに包みを受け取りウラの下に走って持って行く。
「もうひとつ仙人様にお願いがあります」
タカさんは再び頭を下げた。
「イーステンド王国よりやってきた未熟な巫女と闘士のために、一緒に街に来て頂きたいのです。そこで是非、私たちと一緒にこの街の歴史と彼女らの称賛されるべきおこないを
「いいけどそれは明日以降にしてにゃ。今夜は4人で美味しいものを食べりゅから」
「ありがとうございます」
まさかヘルトを失った彼らが俺たちのためにここまでしてくれるとは。
「じゃぁいつまでも伏せてないで立ってにゃ」
ハムの言葉を受けてようやく立ち上がる面々。
「みんな、どうもありがとう」
「だが、さっきも言ったように今はまだお前たちは大勢の者に恨まれている。だから真の英雄になったら戻って来い。そのときはヘルトの墓参りをさせてやる。いいな!」
「承知した。その心遣いに応える努力することを誓おう」
アムは胸を打ち拳を突き出すイーステンドの誓いのしぐさで応えた。
「では俺たちはこれで失礼する」
「仙人様、明日の昼頃にお迎えに参ります」
「お迎えはなくてもだいじょうぶだお。お供に空から連れて行ってもらうにゃ」
「では食事を用意してお待ちしております」
「やったにゃー!」
「ではまた明日、お待ちしております」
ハムは元気に手を振り返している。
俺たちのことはともかく、ハムやウラが街の人と打ち解けることができてなによりだ。これからは自分が護った街の人と仲良く暮らしていけるだろう。
「アムサリアさん、少ないとはいえ理解者がいて良かったですね。私とハムにゃんも街の人たちにノラの件を謝罪しなければならないと思っていました。それも合わせてあなた方の誤解が解けるように務めます」
「じゃぁぼくらは今夜の食材を取って来るお」
「それならわたしも一緒に行こう。荷物が戻ってやることがなくなったからな」
「それならみんなで行きましょう」
こうして俺たち4人で森に繰り出し袋にたくさんの木の実や野草を採取。帰るかと思いきや、食用となる狂暴な野獣を捕まえに山に向かった。武装せずに来た俺たちだったがハムはその野獣にひとり突撃していくと、聖霊の力を使うことなく正面から組合い、体がふた回り以上大きな獣人らしい体となって、野獣を投げ飛ばしてしまう。
「ぼくの種族は闘う時に肉体を強化することができるんだお」
「その体は可愛くないから好きくないです」
小柄ながら獣人らしい力を見せつけたハムに、ウラがそう言葉を放つと、ハムはショックを受けて落ち込んでしまった。
小屋に戻ると野獣から一部肉を切り取り、残りは適当な大きさに切り分けて法術で冷凍して小屋裏の倉庫に放り込む。
採取してきた食材を4人で調理し、ノラとヘルトへ捧げて鎮魂の儀もおこない、ウォーラルンドの平和を祝って乾杯をした。
朝早く出発する俺たちはしっかり疲れを取るために早めに布団に入り就寝する。
アムが意識を取り戻し、サウスさんらの心ある思いを知ったことで少し楽になったのであろう。俺はすぐに眠りに落ちた。
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