戦闘準備 1

「パシル、姉さんに第六部隊を連れて主力の第一部隊の後ろに付いて進軍と伝えて」


 僕はすれ違いざまに指示を飛ばし本部天幕へと走る。本部天幕に入るとビートレイが待っていた。


「ビートレイ、ここに居たのか。部隊再編成だ。今すぐ出られる者を集めて第一戦闘部隊として、北の第二層防壁で交戦している第一防衛部隊の支援に向かってくれ。残った者を後発の第二、第三戦闘部隊に」


「わかりました」


「今休息に入っている第四戦闘部隊は補給物資の準備が済み次第、東西南北の各第一防壁に移動して後方待機だ」


「一部の補給部隊と傭兵部隊は各精霊陣と第二層防壁の防衛に分散させます」


「うん、よろしく」


 ビートレイから防具を渡され保管していた霊槍を取り出す。


「それから第四部隊と一緒でいいから精霊守護獣たちを連れて行って」


 天幕を出るきわに指示を追加した僕は対魔女討伐主力部隊の待機する天幕に走った。


「みんな出陣だよ」


 飛び込みざまに声を掛けると、


「隊長遅いですよ」


 という返事だったが天幕にはひとりしかいない。


「ごめん、って僕が二番乗りじゃなか」


 十人の精鋭たちも昨日の闘いで四人が戦闘不能になり、僕とサウスとノーツを抜かせば残り三人。しかし、天幕の中には天幕にいるのはハリスという僕の同期の男だけだ。


「クトルさんとシーナは?」


「シーナの状態が悪いらしくてクトルさんが見に行っている。昨日の夜より悪化してるようだから無理かもしれない」


 こうなるとイーステンドからやってきた救援者ふたりに期待したいところだが、彼らは今日の早朝に北の街門から離れた森の中にある古の研究施設の探索に出てしまっているはずだ。


 信号弾で知らせても街の中心部までにかなりの時間が掛かるだろう。


 ドーン、ドーン


 防具の装着が完了したときに信号弾の上がる音が聞こえた。


「ヘルト、第一戦闘部隊の再編成完了です。封印法術陣形成部隊と一緒に北の第二層防壁へ出発しました」


 天幕の外でビートレイが叫んだ。


「了解した。クトルさんが戻り次第僕らも出発だ」


「ヘルト、サウスとノーツもまだ来てないぜ」


「ノーツは風のほこらに行ってるらしいから後で合流だよ。サウスはさっきまで救護天幕で一緒だったんだけどね」


 数分後、クトルさんが戻ってきたがサウスは現れなかったため、僕らは三人だけで先行した部隊を追いかけるかたちで魔女が封印された街の中心部に向かった。



 

「どうどうどう、さぁ良い子だから大人しく一緒にきておくれ」


 ヘルトの指示で四匹の守護獣を連れてくるように言われたビートレイに向かってグラチェは唸って威嚇する。


「私があげたご飯も食べてなね。困ったな、これじゃぁ作戦に支障が出ちゃいそうだ」


「なにしてるんだ?」


 後ろからビートレイに声を掛けるのはサウスだ。


「あれ? 主力部隊はもう出発しましたよ。こんなところで油売ってて良いんですか?」


「確かめたいことがあってな。それで、お前は何してるんだ?」


「四匹の守護獣を第四部隊と一緒に連れて行ってくれとヘルトに頼まれたんですけど、この子が警戒しちゃって言うこときいてくれないんです」


 グラチェは体を低く構えたままだ。そこにサウスがゆっくりと近づく。


「サウスさん、やめた方がいいですよ。この大事な闘いの前に襲われたりでもしたら大変です」


「そうなったらそうなっただ」


 ゆっくりだが恐れることなくサウスが近づくのをグラチェは視線をチラリと動かして確認する。


 そっと手を伸ばして肩に触れるがグラチェは拒否しない。だが、唸りは収まらず警戒を解くことはなかった。


「うーん」


 少し考えてからサウスは笑ってビートレイに言った。


「どうやらお前のことがお気に召さないらしいな。俺がこいつを連れて行くから、お前は第四部隊に付いていけ」


「いや、それだと」


「確かめたいことがあるって言っただろ。それにこんな状態じゃこいつを連れて行けないだろうが」


 しぶしぶとビートレイが出て行くと、グラチェは少しずつ緊張を解いて逆立った毛を戻した。


「グラチェだったっけな。働き者で面倒見のいいあいつを嫌うなんてひでぇ奴だな。お前は俺たちの味方なのか?」


 その問いに対する答えはないがサウスの誘導には素直に従い、出した食事もしっかりと食べた。




「少し待っててくれ、護衛隊が着いたらすぐに出発だ」


 続々と集まってくる闘士や法術士。


 補給物資の準備が整った第四部隊のビートレイは、第三層防壁から中に入って行くときも何かを気に掛けるように座って休むグラチェを見ていた。


「アロス、ポルト、アラミンこっちに来てくれ」


 サウスはビートレイと同じ伝令班の三人を呼びつけた。


「どうしましたか?」


 お前たちに任務がある。


「はい、この四聖獣の護衛件見張りを頼む。こいつは作戦における重要な任を担当しているわけだが、親父が頭を下げて借りた大事な守護獣だ。ただ、こいつのあるじがここに居ないから制御できるかわかない。不測の事態があったときは臨機応変に対応してくれ」


「了解しました」


 三人が任務を了承したところで残り三匹の精霊獣が連れて来られた。


 それぞれの精霊獣には主が付き添い、さらに護衛がふたりずつ付いたところでサウスは出発の号令を叫んだ。


 大きな不安を胸に抱きながら先行する主力部隊を追ってサウスは先を急ぐ。

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