戦闘準備 2
馬車に乗って家路に急ぐダイナーは狭い客車で首をコキコキと鳴らしたり体を捻ってほぐしていた。
「あいつら子どものくせに大した強さだったな。なんで魔女教なんかに入って魔女を復活させようとしてるんだ。それに、あの女は陰力の法技を使いやがった。輝力で踏ん張ったら耐えられただろうか。いや、例え耐えても祠(ほこら)を吹き飛ばされちゃ同じことか。同じ風の法技でかき乱せば防げたかなぁ」
ダイナーは
日が昇り温かな日差しが射してもなんとなく肌寒さを感じるのは、これから起こるであろう出来事への危機感からだろうとダイナーは考えていた。
外の喧騒は東門通りの第三層防壁に比べれば少ないが一般市民もいそいそと防備を進めていた。
「ダイナー、具合は大丈夫か? 半日意識を失っていたんだから無理はいかんぞ」
馬車の運転手が心配げに声を掛けた。
「逆に半日たっぷり休ませてもらったから大丈夫ですよ。不意に陰力に当てられただけなんでね」
「だからこそ普通は無理なんだがなぁ」
運転手のいうとおりだ。アムの陰力に無防備に当てられれば数日は完調にならないのだが、そうならなかったのはダイナーの心力のたまものだった。
「その様子だとこのあとの作戦にも参加する気か?」
「当然。家で防具を新調したらすぐに向かう」
傭兵であるダイナーは闘士団員ではないのでその装備は支給品ではない。街はもちろん近隣の国の依頼を受けて闘う個人商売をしている。それができるほどの実績と実力を持っているのだ。
「今度は護衛じゃなく妖魔や魔女との直接対決だ。より気合を入れねぇと!」
昨日の件は傭兵としては痛恨の結果だった。街の運命を左右する闘いに敗れてしまい、依頼を達成できなかったからだ。
それもただの依頼ではない。自分の家族が暮らすこの街の危機を救うための闘いでもあった。多くの被害が出てしまったが敗北=絶望でなかったことが不幸中の幸いだった。
「この闘いにあいつらが現れたら絶対にぶっちめてやるぜ」
反省と対策を終えたころに、馬車はダイナーの家に着いた。
「じゃぁダイナー頑張ってくれよ」
「あぁ、ティーガさんも防壁の防衛よろしく頼む。重戦車の異名を持つ俺の憧れだったあんたの名前と力をもう一度轟かせてくれ」
「よせやい、俺はもう六十三歳で引退してから八年経ってるんだ。体も二回りは痩せちまったしもう重戦車って柄じゃないさ」
全盛期は九十キロあるダイナーよりも一回りは大きかったティーガは、逆に一回り小さくなってしまっている。それでも八十キロを超える体格と袖から見える前腕は衰えを感じさせないほどたくましい。馬車の運転手とは到底思えない。
「今でも息子を鍛えてるんだろ? まだまだあんたには敵わないって嘆いてたぜ」
「父親相手に本気を出せないってだけだよ。でもまぁ体力だけはこの歳になっても負ける気しないけどな」
「俺も子どもたちに負けないようにしないとな。なんてったって師匠があいつだから」
「その子どもらが外で訓練してるぞ」
窓から外を覗いてみると二人の子どもが剣を合わせていた。
「おー、今帰ったぞ」
手を振るダイナーに気が付き手を振り返すのはブラチャとシエスタだ。
「おとうさん! お帰りなさーい」
ダイナーは馬車を降りて子どもふたりを軽々と抱き上げた。
「昨日は大変だったってね」
眉根を寄せたシエスタに、
「どんな仕事も大変さ。でもこうして帰ってくれば大変さなんて吹っ飛んじまう」
ふたりをぎゅっと抱きしめる。
「それじゃ頑張れよ、俺はこのまま北の三層防壁に行かないといけないから。迎えの馬車もすぐ来るはずだ」
「ありがとうティーガさん」
馬車を見送ったところにワイフルが出てきた。
「お帰り。無事でよかったよ」
「おう、ただいま。帰ってきて早々だけどまた直ぐに出ないといかん。装備の新調と軽く食うもんが欲しいな」
「パンで良ければ直ぐに用意するよ」
「それでいい」
「おとうさんまた闘いに行くのかぁ」
抱き上げていたブラチャが不満そうに言う。
「ブラチャ、ごめんな。今日の闘いが終わったらしばらくはゆっくりできるからよ」
ダイナーはふたりの子どもを下ろして急ぎ家に入り二階の部屋向かう。そこにはいつもは使わないふたつの布団がたたんで置いてあった。
棚にしまってあった装備を身に着けて下に降りてくるとハムと目玉焼きを乗せたパンと一杯の豆乳が用意されたいた。
それを大口でペロッとたいらげて豆乳で流しこむ。
「お客さんが来てたのか?」
「昨夜ヘルトが連れてきたんだよ。イーステンドから来たっていうふたりの旅の子たちでね。腕が立つらしくて助っ人してくれるって言うんだよ」
「若いやつらなのか?」
ダイナーは『旅の子たち』という言い方から連想した。
「ヘルトの少し下くらいだね。聖闘女って知ってるかい? その後継者らしいよ」
「その呼び名は聞いた事あるな。聖闘女ってことは女性ってことだよな?」
「巫女というだけあってなかなかしっかりとした元気でいい子だよ。彼氏が振り回されるくらいにね」
「なんだよ、巫女のくせに彼氏と旅ってか?」
なんともイメージしづらい旅の聖闘女の話をしていると、玄関でトントンと音がした。
「ん? もうお迎えの馬車が来たかな?」
ベルトに巾着袋を取り付けて麻袋を持ち剣を担ぎ玄関に急ぐ。
「んじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃ、気を付けてね」
「絶対帰って来てよ」
「魔女なんかに負けないで!」
三者三様の挨拶を受けたダイナーは笑顔で返し扉を開けた。
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