束の間の休息

 ラグナとアムサリアが早朝から研究施設へと向かってから数時間たった頃。


   ***


「ヘルト、大丈夫か?」


 そこは臨時作戦本部横のテントに作られた食堂。食事のためにテントに入ったところで声を掛けてきたのは、封印法術陣形成部隊隊長、直系の守人で唯一女性のトラス=キャイガー。幼い頃からいろいろと面倒を見てくれている僕にとって姉的存在だ。


「トラス姉さん」


「顔色が優れないな、具合が悪いのか?」


「いや、ちょっと疲れが残ってるだけさ。食事を取れば大丈夫」


 確かに起きてから少し体にだるさを感じるけど、自分自身でも気になるほどでもないのに、それを見抜くなんてさすがは姉さんだ。


 昨夜はアムさんとラグナをワイフルさんの家に送ってから一緒に食事をして、戻ってきてから今日の予定を聞いて早めに床に就いた。


 23時過ぎには寝ていたと思うのでタップリ8時間は寝ている。あの恐ろしい魔女や妖魔との闘いのあとだということを考えれば、この程度の状態は御の字だろう。


「そうか。夜通し作戦準備をしている者たちがいるのだから、隊長のお前は万全の状態にして闘いに挑まないと申し訳が立たないぞ」


「心得てるよ」


 僕の返事を受けて微笑むとトラス姉さんは食堂をあとにした。


 「おはようヘルト。昨日はお疲れ様」


 挨拶してきたのはサウスとノーツのお母さんで給食担当を引き受けてくれてオリベンさんだ。


「おはようございますオリベンさん。サウスたちはもう起きてきた?」


「1時間以上前に一番乗りで来たよ。ノーツは風のほこらの様子を見てくるって。サウスは怪我したツバイやダイナーのお見舞いに行ったよ。ほら、いっぱい食べな。全部大盛だ」


「ありがとう」


 食事を受け取って長テーブルの簡素な折り畳み式の席に座り、いそいそと食事を済ませた。


 涼しい季節になってきたが今日はなんだか朝から暑い。じんわりとにじむ汗を寝汗と一緒に流したくなり、本部天幕に設置された簡易シャワー室使った。


 お湯で洗い流してから水を浴びると、体の火照りが冷めて体のだるさも少し楽になったように感じる。


「ヘルト居ますか?」


 シャワー室を出たところでパシルが僕を呼んだ。


「今シャワーから出たところ」


 救護天幕のダイナーさんの意識が戻ったのでお知らせに来ました。


「ホントに? わかった、すぐに行く」


 髪を乾かすのも惜しんで着替えると急いで救護天幕に向かった。


 風のほこらで風陣の形成の護衛をしていた傭兵のダイナーさんはワイフルさんの旦那さん。ブラチャとシエスタの父親だ。


 彼からはこういった事態になったときは自分の口で説明するから家族には黙っているようにと言われていたので、無事に目が覚めたと知らせを聞いて安堵のため息が出た。


 昨日は意識が戻ってないことをワイフルさんたち家族に隠していたので後ろめたい気持ちがあったのだ。ワイフルさんは察していたようにも感じたけど、これで闘いの前に肩の荷が降りてホッとする。


 いまだにバタバタと闘いの準備を進めている人たちと挨拶を交わしながら急ぎ足で救護天幕に向かう。シャワーを浴びて流した汗が再びじんわり出てきたところで救護天幕に到着。入口の布を潜って中に入った。


「よう、ヘルト」


「おはよう、サウス」


「ダイナーさん、おはようございます。具合はどうですか?」


 ベッドから上半身を起こして食事にがっつくダイナーさん。返事を聞かずとも元気なのがわかる。


「すまない、不覚を取った」


 第一声は風のほこらの守備の謝罪だった。


「そんな、謝らないでください。ダイナーさんやツバイさんのいる隊が負けるなんて魔女の使徒はよっぽどの手練れを連れた軍団だったんでしょね」


「それがよ、ヘルト」


 サウスが怪訝な顔を向ける。


ほこらを襲ったのは男女のふたり組で一匹の守護獣を連れていたっていうんだ」


「たったのふたり?」


「その女は俺以外の三人と渡り合った上に法技一発で俺たちもろともほこらをぶっ壊しやがった。油断をしたわけじゃねぇけどあれほどとはな。生きているのが不思議だぜ」


「まさかそいつは薄いグリーンのフードを被ったやつでしたか? あいつは強かったなぁ。森の野営基地は叩けたけど、こっちも魔鉱青石とか沢山の備品を奪われたよね」


 そいつは何度か出くわして闘ったことのある魔女教徒のリーダー格らしき闘士だ。そいつを討てずにいるのが今回の作戦の一番の不安材料だった。


「いや、フードは被っていなかったし鎧も付けていなかった。一瞬だったけど全身が凍り付くような陰力をぶつけられて、そのあとの記憶がない」


「あいつ以外にもそんな強い奴がいるのか。そうなると今日もまた妨害にやって来ることを想定しておかないといけないね」


 新たな不安材料で悩みの種が増えてしまった。


「なぁヘルト」


「ん?」


「その守護獣を連れた二人組の男女って」


 サウスが言い掛けたそのとき、救護天幕に団員が飛び込んで叫んだ。


「陰力増大、妖魔が大量増殖中。第一防衛部隊が北の第二層防壁入り口で本格的な戦闘に入りしました」


「早過ぎる、まだ半日ちょっとじゃないか」


「くそっ、おちおち休んでられねぇな。俺は一度家に帰って装備を新調してくる」


 ダイナーさんはベッドから跳び起きて天幕の外に飛び出して行った。


「信号弾上げて。それとそれぞれのほこらの状況確認を」


「おい、待てヘルト。まだ話がっ」


 サウスが何か叫んでいたが魔女の復活が迫った状況に慌てていたため、僕もダイナーさんに続いて飛び出した。


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