ハムとウラの小屋で
前話の『聖霊仙人』のラスト10行程度を加筆しました。
お手数だと思いますが、こちらを読む前に是非ご一読ください。
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研究施設に入って行ったアムと別れてから俺は、森の妖精ウラと聖霊仙人ハムのあとを付いて険しい森の中を歩いていた。
来たときとは逆に道ならざる場所を歩いているのにここを通ってと言わんばかりに隙間があるようだった。
歩き始めて少しすると俺が纏っていた奇跡の鎧は小さな光を発して消えた。危険が去ったということなのだろう。
研究施設から数分でハムたちが住むというと小屋に到着した。
そこはぽつりと空いた草むらに小さな小屋がひとつ建っていて、小屋の周りには畑があり何やら作物が育てられている。
「さぁどうぞお入りください」
ウラの丁寧な案内を受けて小屋の中に通され、俺はおどおどしながら進み入る。小屋の中は質素ながらも人が生活しているのとなんら変わらない作りだった。
「そこに座るにゃ。今お茶をだすお」
イメージしていた聖霊仙人とはまったく違う、ちんちくりんでみょうちくりんなハム=ボンレット=ヤーンは奥の台所に行ってお湯を沸かし始めた。
ウラは戸棚から皿を三つ出して麻袋から丸っこい何かをコロコロと乗せる。
皿と一緒にコップが並べられハムが沸かしたお湯でお茶が
「「では、いただきます」」
お茶をすすって「はぁぁぁ」と一息つくハムとウラ。
『なんだこの和んだ空気は?』
一息ついたところでウラが話しだした。
「さてさて、では作戦会議といきたいところですが、ラグナさんとアムサリアさんについいて聞かせてください」
和んだ空気ながらも昨年王都であった騎士団の入団面接を思い出させる。
「いや、なんていうか俺たちは」
若干しどろもどろしつつも、ヘルトに話したのとは違い包み隠さずここに至った経緯を話した。
「なるほどですね。アムサリアっさんが建物の中に入れたのはそういうわけだったんですね」
「世の中変わった人はいるもんだにゃ」
変った人に当てはまるいろいろな意味にで人外の聖霊が感想を言う。
「あなたも苦労したのですね。人間の生き方は大変でしょうに」
ウラもあまり感情の感じられない感想を茶菓子を頬ばりながら口にした。
ウラから聞いた魔女との歴史は、ヘルトに聞いた話と大きく違う部分はなかった。
追加として、ハムが旅の途中で救ったという森の妖精がウラの姉であったことやハムの故郷には法術は存在せず、森の妖精たちに教わったこと。ウラの姉は精霊と対話する能力が高かったことで研究に協力していたということなどだ。
「お互いのことはだいたいわかりましたね。それでは本格的に作戦会議をはじめましょう」
「よろしくお願いします」
「先ほど少し話しましたが。魔女は必ず倒さなければなりません。その理由は魔女が生み出す妖魔がひとつとなって魔女以上の脅威になりつつあるからです。魔女が復活したらすぐに、わたしは長年溜め込んだ輝力で魔女を滅する法術を放ちます」
「それを使えば必ず魔女を倒すことができるって確証はあるのか?」
「いえ、確証はありません」
「え?」
「ですが、勝敗を決める一撃になることは間違いないでしょう。そうなれば封印の邪魔をして魔女を復活させたわたしたちに敵意を持つ街の人々も、魔女を討つために闘うはずです」
信用を得られず協力してもらえないなら魔女を討ち取りたくなる状況を作ってしまえばいいということか。目的達成のためなら悪役のままでもいいという割り切った考えだけど、街の人々が崇める聖霊仙人がそんな扱いのままでいいのだろうか?
「封印が解ければ封印と一緒に街に広がったぼくの力である半身を戻せるにゃ。そうすればぼくも闘うことができりゅ」
目の前の聖霊仙人の力がからっきしなのは街を護るために魔女の呪いを抑えているためだった。魔女が復活してしまえばその半身を戻して聖霊仙人の力を振るえるというのだ。
「んで、妖魔の寄せ集めってのが出てきたらどうする?」
その質問にウラは真顔で一言。
「みんなで頑張りましょう」
「ん?」
「ぼくたちも知らない奴だからわからないお」
「あぁですよね」
「ですが、魔女がいなくなれば妖魔はもう現れません。全てを終わらせるための闘いなら懸ける意味があります。ただ、そのことを街の人たちに伝えられないのが残念です」
「だったら俺が話してみようか? ヘルトならちゃんと話せばわかったくれると思うんだけどな」
「ヘルトって誰にゃ?」
首をかしげるふたりに俺は説明する。
「仙人様が一緒に闘った四人の闘士の子孫で封印を護っている一族のリーダーだよ。知らないの」
「知らないにゃ。街にはほとんど行ってないし、行っても夜に忍び込むだけにゃね」
「あなたが作った街なんでしょ?」
「そうにゃ、でも人間の繁栄させた街にゃ」
なるほど、そういう考え方か。
「ラグナさんが信用できる人だとしても、わたしたちが信用されるとは限りません」
「そういえば、街の人と争ったことがあったんだろ? 封印を邪魔するためとはいえそれがなかったらわかり合う可能性があったんじゃないの?」
「人間の中には好戦的な者もいます。知っての通りハムにゃんは力を発揮できず役立たずです」
「にゃぁ」
トゲのある言葉に悲し気な顔の仙人ハム。
「人間たちに襲われてやむなく力を振るってしまいましたが、街の者を傷つけるようなことはしていません」
ウラは毅然とした態度で否定した。
「きっとそうなんだろうと思うけど」
「精霊幻獣を呼び出して場を撹乱させ、その隙に退散しました」
『あぁなるほど、そういうことか』
「え~とね、聞いたところによると妖魔を呼び出したって言っていたんだよ。つまり呼び出したその精霊幻獣ってのを妖魔と間違えたからウラたちを魔女の使徒だと思ったんじゃないのかな?」
「?!」
ウラとハムは驚き顔を見合わせた。
「そうだったのにゃ?!」
やっぱり気付いてなかったのかぁと俺は頭を抱えた。
「その精霊幻獣のおかげで備品に火がついて大惨事だったらしいよ」
「あぁ……」
悪い人らではない、それはわかっている。だけど、この微妙にズレた空気を持つふたりでは街の人とわかり合うのは難しいのかもしれない。
「作戦というほどではなけどふたりがやりたいことはわかった。俺とアムは街のみんなに協力することになっているけど、ウラたちにはどう協力したらいいかな? ヘルトたちに話してわかってもらえればコソコソしないで済むけど」
「そうです、まずは街に入らないといけません。夜は空から侵入してましたが、昼間はそうはいきません。なので姿を見せないように行くことにしましょう。ハムにゃんあれを」
「はいにゃ」
ハムはぴょんと椅子を降りると隣の部屋から折りたたまれた薄い緑の布をふたつ持ってきた。
そのひとつをウラに渡す。
「これはわたしが半年の月日を費やして完成させたロングケープです」
ウラはばさりと広げてみせた。
それはフードの付いた可愛らしい刺しゅう入りで煌めくように綺麗なものだった。
『まさか、被ると姿を消せる特殊法具!』
ウラとハムは素早くケープを被ってみせた。
「どうですか?」
「どうにゃ?」
大きめのケープに包まれふたりの姿は確かに見えなくなった。だが、ケープは窓からわずかに降り注ぐ光にキラキラと輝き、ウラが縫いつけたであろう刺繍が施されたケープは少なからず存在を主張してた。
「どうって?」
「かわいくないですか? 雨水も弾くし保温性も高くてとってもお洒落ですよね?」
ウラは自慢げにケープをたなびかせてフードの隙間から俺を見ている。
「あ……、はい」
『アム、早く帰ってきてくれ』
と俺は心で叫んだ。
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