歴代 2

  「聖闘女はそのあとどうなったんですか?」


  俺も興奮気味にワイフルさんに聞き返した。


  「じいちゃんたちもそうだけど、すでに新しい暮らしに馴染んでいた人が多かったし、王も変わってしまったから戻る人は少なかったみたいでね。もともと聖都直属の国家だったから他の国や街とは交流が少なくて、その後のことは詳しく知らないんだ」


  その話を聞いたアムは一考してから語り出した。


  「歴代の聖闘女は五人らしい。聖闘女たちはその時代の災厄が起こった頃に現れる。いや、正確に言えばその時代の最強の闘女がその災厄を打ち破って武勲を立てたときに冠される称号だ。武勲も上げずにリプティの生まれ変わりだというだけで称号を受けたのはエイザーグのときだけでだろう。わたしの知る限りでは聖闘女に血の繋がりだとか特別な家系とかそういった共通点はない。わたしも王都にある街の商家の生まれだ」


  「そういやぁ歴代の聖闘女のことなんて俺は知らないぜ」


  聖闘女の話にそんなことを口にすると、


  「君が商家の生まれってことは先代の聖闘女は商家の人の元に嫁いだのかい?」


  「えっ? あ、あぁそれは」


  「それにアムサリアのお母さんが聖闘女なんだから血の繋がりはあるじゃないか」


  というヘルトのツッコミが入った。


  しまった! と焦り戸惑う俺をフォローするようにアムは抑揚のない口調で説明する。


  「ラグナはわたしが身近過ぎて聖闘女なんて思ってないのだろう。それにわたしは歴代の聖闘女のように武勲を上げたわけじゃない。称号は持っていたとしても今のわたしは正直なところ聖闘女と呼べるような闘女ではないのでね」


  「君は初代聖闘女の生まれ変わりであるお母さんの娘だから聖闘女になれた。だから本当の意味での聖闘女じゃないっていう思いがあるのかな?」


  アムの過去や心情を知っている俺からすれば少々含みのある言い方だったが、ヘルトもアムの言葉から何かを察したようだ。


「その通りだ。わたしが思い描く真の英雄たる聖闘女には遠く及ばない」


  「僕も同じだよ。みんなが僕を英雄なんて言ってくれてはいるけどさ、ちょっと魔獣の討伐に出たり、たまに湧く妖魔を倒したりしてる闘士のひとりにすぎない」


  ふたりとも英雄願望が強すぎて目指す理想が高いのだろう。


  「そんなことないよ~」


  「そうさ、ヘルトは強いのもあるけど優しいし努力家だし偉そうにしないし、ヘルト以上の英雄がいるもんか!」


  英雄の基準なんて決まってはいない。これだけ街の人に慕われているなら、ヘルトは間違いなく英雄だ。もちろんアムも。


  「ありがとう。だからみんなの思いを裏切らないように、封印作戦を成功させてみせるよ」


  ブラチャとシエスタに笑顔で応えた。


  「この街にも代々英雄がいたの?」


  「いや、僕が子どもの頃にそう呼ばれている人はいなかったよ。ただ僕が街の人を助ける力を持った英雄になりたいって言ってたからみんながそう呼んでくれるんだろうね」


  歴代の聖闘女がどうかは知らないが、初代聖闘女リプティは伝説の英雄と呼ばれていた。

  だからアムはそれに憧れ、リプティの生まれ変わりと言われエイザーグを倒したことで英雄と呼ばれるようになった。


  国を救ったアムのことは学校でも習ったのに、なぜか歴代の聖闘女は英雄として伝えられず、名前も教わった覚えはない。


  そんな聖闘女が他の国の歴史に出てくるとはどういうことなのだろう。


  「まぁともかく他国に来るとか単なる偶然でしょう。わたしも聖都に野暮用があるだけで、別にイーステンドを離れるわけじゃないのだから」


  「そうかい? フォーレスの建国の手助けをした聖闘女以外に、北の盗賊国家を壊滅させた闘女の物語とも言えない噂を聞いたことがあったんでね」


  「盗賊国家を壊滅させた物語?」


  民を護り導く聖闘女がおこなったとは思えない荒々しい所業だ。


  「盗賊国家ブンドーラは周辺の街や村を強制的に支配下に置いて略奪まがいに物品を納めさせていたの。ただ支配下にあれば魔獣などの脅威から護られるためにギリギリ持ちつ持たれつの関係は成り立っていたのだけどね。力を付けたブンドーラは遠くの国に戦争をしかけるほど大きな力を持っていたみたい。でも結局戦争には負けて大盗賊国家は小盗賊団に落ちぶれたんだって」


  「聞いたことありますね。国の主要な人物は女性の闘士にやられたんでしたっけ?」


  「その闘女は怪我をしてボロボロだったとか、聖都にあだなす者に天誅を加えたとか、盗賊団の首領に自分の女なれと言われて怒りのままに殺したとかいろいろ言われてるけど、所詮は品性も知性も人情もなさそうな盗賊だからね。当たらずとも遠からずってところなんじゃないのかい?」


  嘘か真か過去の聖闘女のその後の話しに、アムはなんとも言えない表情で小さく唸る。


  人々の平和と希望の象徴のような聖闘女が、リプティを抜かした三人のうちふたりがイーステンドを離れて他国のことに関与している。


  「二百年くらい前の話だからね。どこまで本当かは怪しいところだよ。それがイーステンドの聖闘女だとは限らないわけだし」


  アムの表情から読み取れる心情を察してか、話を締めくくろうとしたワイフルさんに代わってヘルトが話を続ける。


  「闘女や聖闘女ってイーステンドの闘う巫女に冠される称号だろ? 僕たちの街や近隣では女性の闘士や教会に巫女はいるけど、闘女って名称は使っていない。伝わっている物語の中で闘女や聖闘女って言葉があるなら真実である可能性は高いのかもしれないな」


  「わたしも同意見だ。このことについても調べてみたいが……、まずはこの街の災厄を取り払ってからだ」


  そう言ってヘルトの顔を見た。


  「ありがとう。そういうことだからまずはこの料理を美味しく頂こう!」


  ヘルトが締めくくると一緒になって手を止めて話を聞いていたブラチャとシエスタも再び料理にがっつき始め、俺たちも負けない勢いで食事を再開した。


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