歴代 1

  四層の住宅地は闘士団の宿舎や単身者の住まいが多く、三層は家族住まいの住宅地ということらしい。


  ヘルトは馬車の止まった家の扉をノックして声をかける。


  「こんばんはー、ヘルトです」


  数秒後に扉が勢いよく開いて少年と少女が飛び出して来た。


  「ヘルト!」


  「ヘルトさんいらっしゃ!」


  「やぁブラチャにシエスタ」


  十代の半ばくらいだろうか。パシルよりももう少し幼いふたりがヘルトに飛びついた。


  「遅くにすまない」


  「魔女封印に失敗しちゃったんだってね。魔女の使徒の奴等、邪魔しやがって!」


  憎々しげに語気を荒立てているのがブラチャという名の少年らしい。


  「これからどうなるの? 魔女が復活しちゃったら街もみんなもやられちゃうの?」


  少女は不安げな声でヘルトに問う。


  「心配いらないよシエスタ、まだ終わったわけじゃない。そのために君らのお父さんも頑張っているんだ」


  「父ちゃんは今日は帰ってこないってことか」


  少し寂しそうにブラチャが言うと、その後ろから出てきた女性がブラチャの頭に手を乗せた。


  「そんな声を出すんじゃないよ。もし父ちゃんがそんな声を聞いたら気になって力が出せなくなっちゃうだろ」


  「こんばんは、ワイフルさん」


  「こんばんは、ヘルト。話は聞いたよ、魔女教のやつらの邪魔が入って封印術が上手くいかなかったんだってね」


  「えぇ、事前に魔女教徒たちの邪魔が入らないように最大限の対処は済ませて挑んだんですが、残党がいたらしくて。それもかなりの実力者だったようです」


  「そうかい、大変だったね。ダイナーはどうしてる?」


  「えぇ、ダイナーさんは風の祠

ほこら

で明日の準備を手伝ってます。ですので今夜は帰れないって」


  彼女はヘルトの顔をじっと見てから目を閉じて一息吐くと、


  「しかたないねぇ」


  と言って苦笑いした。


  「すみません」


  ヘルトはバツが悪そうに下を向いて頭をかく。


  「ねぇヘルト、あの人たちは?」


  ヘルトから少し離れて立っていた俺たちにシエスタという少女が気付いた。


  「実はね、彼女らを今夜泊めてあげて欲しくてお願いに来たんだ。ふたりはイーステンド王国からやってきた凄腕の闘士で、僕らの作戦に力添えしてくれることになったんだよ」


  「おやまぁ、英雄ヘルトが『凄腕』というなんてよっぽどだね」


  「なんてったってイーステンドで英雄と呼ばれる人だ、僕の方が恐縮しちゃうよ」


  その言葉を聞いたブラチャがヘルトの向こうから顔を覗かせて俺を見る。


  「兄ちゃんが英雄? そんな風には見えないけどな。俺たちのヘルトのがずっとずっと強そうだ」


  失礼な言われようだけ間違いではない。


  「英雄は俺じゃない。イーステンド最強の英雄は彼女だ」


  「はじめまして、わたしはアムサ……、アム=クルーシルク。イーステンドの聖

セント

シルン教団の元巫女です。以前は聖闘女の称号を冠されていました」


  普段より丁寧な口調で教団の巫女らしく自己紹介をする。


  「聖闘女! 知ってるわ、前にヘルトに教えてもらったことがある。教団の中で最高の人格と端麗な容姿、それに最強の戦闘力を持つ人だよね」


  「最高の人格?!」


  「端麗な容姿?!」


 俺たちは聞きなれない聖闘女の条件を復唱し合う。言われた本人はキョトンとした顔で俺を見た。


  「まぁ立ち話もなんだ、まずは入っておくれ。ちょうど晩御飯を食べるところだからみんなで食べよう」


  「ヘルトも一緒に食べよう」


  「僕は帰って今後の対策を立てなきゃ……」


  「対策を立てなきゃならないからここでしっかり食事を取って行くんだろ?」


  ブラチャの誘いにヘルトが断りの言葉を言いかけたところで、ワイフルさんが言葉を被せた。


  「……そうですね、ご馳走になります」


  ワイフルさんの押しの強い誘いに有無を言う前に押し負けるヘルトは、アム同様に一見して英雄とは程遠い印象だ。


  馬車の運転手にしばらく待ってもらえるように伝えてから家に入るヘルトに俺たちも続いた。


  「お邪魔します」


  玄関を入り短いホールを抜けると広いダイニングがありテーブルにはすでに料理が置かれていた。


  「手を洗っておいで」


「こっち」


  ヘルトは慣れた感じで俺たちを案内する。


  「さぁ座って」


  ワイフルさんはテーブル中央に大皿を置き、みんなのコップにリンゴのジュースを注ぐ。

  大食いの主人が帰って来ないから料理があまりそうだったんだ。いっぱいあるから遠慮せずに食べてちょうだい。


  「はい、ありがとうございます」


  「では、いただきまーす」


  「「いただきます!」」


  他の家庭の味はあまり知らないのだが、どの料理もお母さんに負けず劣らずとても美味しい。

  そう感じているのが俺だけじゃないことは、ヘルトやアムの食べっぷりを見れば一目瞭然だった。

  やはり旅の野宿で携帯保存食を食べるのと、こういった場所での食事となると食欲が違う。夢中になって食べる俺とアム。


  そんなアムにワイフルさんが質問する。


  「それにしても聖闘女は引退すると他の国に助力したり移り住んだりとかって習わしでもあるのかい?」


  「ん? それはどういうことですか?」


  「大昔だけど魔女に滅ぼされたラドムドって国に聖闘女がやって来たらしいんだよ」


  「それは本当ですか?!」


  アムは巫女としてギリギリの品性を保ちながら夢中になってスープをすすっていたが、スプーンを音を立てて置いて身を乗り出す。


  「私の家系はもともと王都ラドムドのお抱え薬師だったんだ。じいちゃんの昔話で聞いたことがあるって程度だけど、魔女が封印されてしばらくしてから生き残ったラドムドの人々は、妖魔の巣になり果てた国を離れて城郭都市ウォーラルンドになる前のこの地や、他の街や村に避難したわけさ。それからしばらくして聖闘女ってのがこの街にやって来た。この国の事情を知ったその人はラドムドの妖魔や呪われて獣化した人たちを一掃して、新しいフォーレスという国の再建のために力添えをしたって話だよ」


  突然振られた質問から俺たちの知らない歴史が語られた。


  アムは当然として俺もその話に興味津々。


  食事の手を止めて話しを聞いた。


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