門の守衛

  「いや駄目だ。今街に入るのは危険だ」


  「そんなこと言わずに入れてください。わたちたちは遠路遥々やってきたのです」


  いつもと違ってちょっと下手に出ながらお願いをするアムに、守衛は頑なに開門を拒んでいた。


  「今この街の存亡を懸けた闘いが起こっているんだ。この門は外敵から街を護るためのものではなく、内部の災厄を外に出さないためにある」


  「では疲れ切った体で危険な森で野宿しろと? はたまた野生獣や魔獣の巣くう獣道を引き返すという危険を犯してイーステンド王国まで帰れというのですか?」


  守衛ふたりは困った顔を見合わせる。


  「この街は、か弱い少女と病弱な少年を追い返すというのですね?」


  若干棒読み感は否めないが泣き落としで入れてもらおうとするアムに対して守衛は、


  「……イーステンドからこの街までは他の国から来るよりずっと険しい道のりなはずだ。それを護衛された行商に同行せずに守護獣一匹連れただけで、か弱い少女と病弱が少年が辿り着けるって……」


  「と、ともかく、わたしたちは帰るつもりはない。何か街に大きな災いが降りかり大きな闘いが起こっているならわたしも力を貸そう」


  話し合いで敗北を喫したアムは駄々をこねる子どものように思いつくままの言葉を発し出した。


  「か弱い少女と病弱な少年の力は必要ない!」


  そりゃそうだ。


  「あのう、守衛さん」


  アムの言葉の上げ足を取って返す守衛にプンプンと怒るアムがいたたまれなくなり割って入った。


  「街の中が危険だということはよくわかりました。でも、俺たちは本当にこの街の人の力になってあげられると思います」


  怪訝な表情で俺の言葉を聞いた守衛に俺は言葉を続ける。


  「イーステンド王国の英雄である聖闘女の話を聞いたことはありませんか?」


  俺の問いにお父さんと同じくらいの年齢の年配守衛が目を見開いた。


  「聞いたことあるよ。俺が若い頃にイーステンド王国に現れたとんでもない魔獣を倒したっていう英雄だろ?」


  やはり英雄の話しはこの国にも伝わっていた。


  「そうです、その英雄の娘が彼女で、現代の聖闘女なんです」


  守衛は一瞬ぎょっとした目でアムを見た。


  続けてアムも俺を見る。


  「こんな少女ですけど魔獣を倒した母親に勝るとも劣らない強さです。あなた達ふたりと俺の三人で闘っても手も足もでませんよ」


  「嘘だろ、この子が英雄の娘で俺たち三人より強いって?」


  そんなこと言っても理解してはもらえないという顔でアムは俺を見た。当然俺もそれはわかっている。


  「彼女の実力の一端を見れば納得して貰えると思いますよ」


  「まさかこの子と一戦交えろとか言わないだろうな? さすがにそれは万が一のことを考えると気が引けちまって本気で闘えないぜ」


  苦笑いする若い守衛。


  「その必要はないですよ」


  「君が闘うっていうのか?」


  「それだと俺が手心を加えたとか思われるかもしれないんでね、もっとハッキリとわかる証明をします」


  俺は彼らの反応を予想して込み上げてきた笑いを必死でこらえる。


  「そうだなぁ」


  辺りを見渡して手ごろな目標物を探す。ちょうど今通ってきた道の脇に大きめの岩が埋まっていた。


  「アム」


  「ん?」


  アムも俺が何をするのがわからず少々眉根を寄せている。


  「あの岩に何か法術を放ってくれ」


  「あの岩にか?」


  岩は一メートルほど地上に露出して地面にめり込んでいる。


  「そう、そのかわり」


  アムの耳元でその続きをささやくと、いたずらを思いついた子どものように「あはっ」と表情を変えた。


  「守衛さん、今から彼女があの岩に法術を放つんですけど、どの属性の法術にしますか?」


  「ん? あ、そうだな、俺が得意な風属性の法術にするか。風なら俺もわかりやすい」


  「わかりました。アム、風の法術を頼む」


  「わかった」


  アムは頷いて目標の岩に向き直る。


  「あの岩に法術を放つと彼女の実力がわかるってのか? それってとんでもない威力の上級法術ってことか?」


  「いや、それよりもっとすごいやつですよ」


  「なんだって?!」


  笑顔で答えた俺はアムの肩をポンと叩いて合図した。

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