第2話 友人の手記:「干し馬」との出会い

 私がめくったその手記の最初には、こう書かれていた。


「私は、ずっと都市伝説なんてものはないと思っていた。あの時……」


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 私は、ずっと都市伝説なんてものはないと思っていた。あの時、あのまでは。


「ねえ、『干し馬』って聞いたことある?」


 オカルト好きの友人に問われて、私は答える。


「またいつものオカルト談義かしら?」

「そう言わないで。これは、どうもガチのやつっぽいから」

「いつもそういうじゃないの」

「でも、これは画像ありだから」

「そうなの?」


 大体いつも画像は適当に誰かが用意しているので、ついてくることも多いのだが、どうしても彼女が話したそうなので、私は付き合うことにした。


 彼女は、タブレットを操作して、あるサイトを表示させる。


「これよ」

「画像どころか、動画まであるのね」

「そうそう。むしろ、このケースでは、掲示板立てたスレ主自身が被害者だから」

「釣りなんじゃないの?」

「チャットアプリのスクショにも、動画そのものにも、合成や加工の痕跡は見つからなかったの。それなりの解析ソフトを使って調べたから、間違いはないよ」

「へえ」


 私は、話半分に、彼女の説明を聞いた。


「干し馬」とは、都市伝説で、未来の自分から動画が来て、それを見た者は、まるで干からびたかのようにやせ細った挙句、死んでしまう、とかいうものらしかった。


「それって、確か昔映画になかった?あれは携帯メールだったと思うけど」

「それが、もう一段階挟んであるのよ。干し馬を見てしまった人は、バイト面接や就職活動、転職活動など、あらゆる職業活動に失敗していくの。生きていく術を奪われて、どんなに食べてもやせ細り、最後はどんな丸顔でも馬面に変化してしまうほどやせ細って、死んでしまうのよ」

「それが、干からびた馬のようだから、干し馬なのね」

「そう、だとおもう。けど、何かもう少し意味がありそうな気もしない?」

「え?」

「だって、大体都市伝説の名前には、裏の意味が隠れていたりするじゃないの。ましてや、ガチものなら、きっと何か意味が隠れてそうじゃない」

「なるほど、そうかもね」


 私は、相も変わらず話半分で聞いていた。


 だって、そんな原理不明の都市伝説が本当だなんて、今どき誰も信じないのは、当たり前でしょ?


 画像のデータを加工していなくても、メイクやカメラアングル、更には鏡やレンズによって、見せ方をごまかすことはできるしね。


 そう、タネがある程度想像つくから、私はその話が嘘だと思っていたのだ。


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「そりゃあそうだよな。君だったら、信じる訳がないよな。君は、聡明だったから…」


 私の視野が霞む。溢れる前に、こすって払う。


 手記は続く。


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 それからしばらく、私はいつも通りの日々を過ごしていた。


 何となく講義に出席し、何となく友達と遊び、何となくどこか受かりそうなところを適当にチョイスして就活に行く日々。


 会社員は会社の目的によらず、業種が似ていれば、結局は似たような作業を行うことになりがちだから、無駄に高い理想論を掲げている人気のところよりも、手堅く受かるところに行った方がいい。


 そしてそのことを意外と多くの人が知らないから、私はいくつかの内々定を既に手にしている。


 何となくこのまま生きていても、何となくうまく行くんだろうなあ、と私は思っていた。


 だが、突然、それはやってきたのだ。


 それは、忘れもしない、9月17日のことだった。


 講義中に、突然私のスマートフォンから、不気味なメロディーが流れ始めた。


 当然、普段はマナーモードにしているので、本来であれば聞こえないはずの音声。しかも、私自身が登録していない着信メロディー。


 何かと思って、バッグからスマートフォンを取り出す。


 周りの白い目がきつい。


「私のせいじゃないのに…」


 そうこぼしながら画面を見ると、何故かロックが解除された状態でチャットアプリの画面が起動されており、音楽と、不気味にやせ細った女の画像が、ループ再生されていた。


「何よ、これ…」


 私は、その再生を止めようとしたが、ふと、違和感を感じて手を止めた。


 この女に見覚えがあると、何故か思ってしまったからだ。

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