Air Hockey.4
全十チーム。トーナメント形式で行われているミッドナイト・エアホッケーは大盛況で、現時刻十二時にも関わらず昼間のような喧騒に包まれた空間を生み出している。八月中旬ということもあり、エアコンはガンガンについており、プレーには最高のコンディションだ。
シングルスが終了し、ダブルスの方は決勝戦が行われようとしていた。
『ええ、ただ今より。エアホッケーダブルス部門の決勝戦を行いたいと思います。選手はセンターコートの方へ来てください』
アナウンスと同時に観客や敗れた選手たちが一斉に移動を開始し始めた。会場の規模にしてはかなり多い数の観衆はいい場所で見ようと必死だった。その間観衆たちの注目の的には二人のプレイヤーが公式練習を行っていた。
「やっぱ勝ち上がって来たか、中村姉妹。年子の大学生コンビだってよ」
赤色ショートボブヘアーの姉ユメ、高めのポニーテール妹カナの姉妹コンビはいつになく気合いが入った様子で打ちあっていた。相変わらずのカナのパックのスピードは観客を魅了している。それを必死に防御しているユメのマレット捌きはかなりの技量が求められるくらいに素早い。時速百キロだろうが防ぎ切りそうで、一見ゴールの中にパックをぶち込める気がしない。優勝候補、いや、優勝確定と思いながら見ている客の方が多いかもしれない。
対して、ZOEとSIGのコンビは淡々と打ちあっていた。とんでもなく豪速のパック、というわけでもなく、ゴール前で完璧にパックを止められる、ような超絶テクニック持ち合わせているわけでもなさそうな、日本の男子の平均身長と同じである彼は一応今大会では名手として記録を残している人物、なのだがそれよりもペアの人物が凄すぎて霞んでしまっているだけのようだ。そのペアの人物のゴールには今のとこ一本もゴールを許していない。
「たく………ZOEくん?いい加減ちゃんとしてくれるっ!」
彼女は微量の苛立ちを見せながら剛速球を打ってきた。当然、相方の方は対応しきれるわけもなく。
「マイ…………SIG先輩、今アップの時間なんすよっ!」
卓也は本気で打ち返すも、ピタリとパックを押さえつけられゴール直前で止められてしまう。これには観客も驚きの表情を隠せなかった。
傍から観察していた二人の敵選手もほんの少しは驚いたようだが、ただそれだけだった。今までにも同じような選手を見過ぎて、慣れてしまっていたのが驚愕しなかった最大の点。だが、このような超絶技巧を簡単にやってのける人物はほとんどいない。そのことに関しての驚きだったのかもしれない。
『まもなく開始します。選手の二組は特設コートの方へ集まってください』
アナウンスと共に二組のプレイヤーは手を止めて、中央の方へと歩き出した。
◇
「では、第十四回ミッドナイト・エアホッケーダブルス部門決勝を始めます」
黒いポロシャツを着た審判の女性店員は両者を対峙させ、開始の辞を述べた。せめてものの正装として、黒で革靴を履いているあたりを見ると正式な大会として認識しているようだ。ゲームセンター主催とはいえ、きっちりとしなければならない所での身形を整えるのは社会的にも良い印象を持たせてくれる。
「まず、ルールの方を再確認します。競技時間は一セット二分。これを三セット先取で行います。パックを自陣で保持する時間は八秒間、それを過ぎると相手のポイントとなります。パックの配給は主審スタッフが行いまして、点を決められた方からパックが配給されます」
諸々の確認が終わり、緊張感が徐々に高まって来た。少しの猶予が言い渡され、その間に作戦会議の時間が設けられた。
「マイ先輩。あの二人の攻撃をどうにか凌ぐんで、攻撃はお願いしやす」
「…………ぶん殴るわよ?この一カ月の地獄の特訓を思えば、こんなに楽ことはないわよ?中村姉の方は攻撃力がなさそうだし、妹を狙えば決定率は上がりそうなあするのだけれど…………嫌な予感がする」
「―――何か超絶技を隠してるとか、の類っすか?」
「それもあるけど………予選で見せたのが本気かと言われたらそうではなさそうよ。全力を引き出させるなら……こちらもアレを使うしかない」
そう言った刹那の二人の顔はほんの少し不気味だった。
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