Air Hockey.3
―――ミッドナイトエアホッケー会場
「おいおい。いつもシングルで出場してる常連の奴がいないぜ?」
「まさかな。アイツほとんど皆勤賞の上に超強かっただろ。急に逃げたのかもな。戦績は十分にいいんだけど、ここぞって時にやられる言わば『無冠の帝王』みたいなやつだったもんな」
「トーナメント表のどこにもいない…………本当に逃げたのかよ」
「いや、待てっ!ダブルスの方見てみろよ。アイツの名前があるぜ」
深夜のゲーセンに集まる男たちの視線の先に見えるとある人物の名。そして、その傍に書かれているコンビを組んだ相方の方にも注目が集まっている。
「ま、マジかよ。『無冠の帝王』の相方は『エンジェルビート』ってかつて呼ばれてた女子プレイヤーだぜ?化け物二人がコンビ組んだのかよ」
この二人の名はこの大会ではよく知れ渡っている。
決勝常連の『無冠の帝王・
◇
「卓也君。君はダブルスの方は初めてよね。シングルスのルールとは若干の違いがあるけど、大丈夫?」
落ち着いた表情のマイは隣でカップラーメンを食べている卓也に問いかけた。
「(ズズッ)そっすね。(ズズッ)確か、ワンゴールが通常百ポイントであるのに対して五十ポイントで、(ズズッ)反射させずに決めたら百ポイントでしたよね。」
行儀が悪いが器用にもラーメンを頬張りながら言った、彼の覚えていたルールは正しかった。マイはそのことを確認すると、前を向き黙り込んだ。
卓也はスープを飲み干し、近くのごみ箱へと食べた後の空を捨てに行くとそこに見覚えのあるコンビが練習しているのが見えた。
「あれって………『中村姉妹』だよな。滅多に現れない上に、強さはトップレベルの実の姉妹。この大会でも何回も優勝してる今大会優勝候補か」
本来はコンビで戦う彼女たち―――中村姉妹はワンオンワンで打ちあっていた。コートの側面の壁で巧みに反射させながら、マレット(パックを打つためのラケット的なもの)でゴールを決めていた。姉のユメが守備型、妹のカナが攻撃型でスピード重視の直接ゴールを狙うのが上手な高得点型プレイヤーだ。ただ、姉の守備が堅すぎてとある大会で完封で全部優勝したなんて逸話が存在するくらいである。
「さすがに同じブロックだったら苦戦は免れないよな。このことはマイ先輩にも伝えなきゃな」
独り言を呟き、立ち去ろうと振り返ると一回戦開始のアナウンスが場内を包み込んだ。いよいよ、ミッドナイト・エアホッケーの本戦が始まる。
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