Vol.4 それでも苦労は絶えず…

学生生活最大の敵。それはみんななんだと思う?

そう。そうなんだよ。テストな。定期テスト然り、模試然り、入試然り。

まあ、そうは言っても一番最初の中間テストくらいなら俺は大概大丈夫なんだけど。結羽がいるからね。ただ……


「「………………………」」


隣で死んでる男ふたりは、大丈夫じゃなさそうなんだよな。


「おーい、そこの男二人〜。仲良く白目剥いて魂抜いてないで手を動かせよ〜」

「恭、もう少し休ませてあげたら?そんなに急かしちゃ覚えられるものも覚えられないよ」

「結羽。お前は優しすぎだ。こいつらが寝てたりぼーっとしてた時間省いたら1時間も勉強してねぇぞ。こーゆーやつらには無理やりやらせるのがいいんだよ」


結羽の言葉に目を輝かせた2人だったが俺の言葉で尚更、意気消沈した。


これがあと3年続くのか。たのしみだな。


「っていうか、恭」

「ん?結羽どした?」

「今度なんかのコラム書くんでしょ?もう出来たの?」


……………


「ベンキョウシナキャー」

「きょーーうーー?」


俺が、目を逸らしながらカタコトで返事をすると、結羽はジトッとした目で顔を近づける。


「え?何?いや全然、ほんとまだ1行も書いてないとかそんなんじゃないから」


ジトォォーーーー…


「ハイハイ。わーったよ。帰ったら書きます」

「ほんとー?今日は監視してるからね」

「えぇ……」


俺が嫌そうな顔をすると向かいに座っている結羽の隣にいる琴音と麻里が笑う。


「あんたら、ほんと仲良いわね」

「恭は将来結羽の尻に敷かれそうだね」

「そんな事しないよ!!」


結羽が俺に近づけてた顔を引っ込めると頬を膨らまして否定する。


「何その反応。可愛い。恭、結羽お持ち帰りしていい!?」

「おう。こんなので良ければいつでも貸すぞ」

「わらしぬひへほんはほほひへはいへ(私抜きでそんなこと決めないで)!?」


麻里が結羽の頬をこねくり回しながらランランと輝く眼で結羽をご所望する。


いいね。美女同士の百合は無しではない。むしろ、見てみたいまである。まあ、そんなことは何より結羽自身が許してくれないがな。


「そろそろいい時間だし、帰ろうか」

「そだな」

「はぁー、つっっかれたァー」

「お前らどんだけ勉強嫌いなんだよ。よくうち受かったな」

「「なんか奇跡的に!」」


目頭を抑えながら俺が言うと翔也と海斗は無駄にキレのあるサムズアップをする。


ほんとどうやって受かったんだこいつら……


少しだけ日照時間が長くなったなぁ、なんて他の奴らの帰宅の準備を待ちながら黄昏ていると、後方のドアが勢いよく開いた。


「白波恭はいるか?」


聞き慣れた声。この声を聞くとシャキッとさせられる懐かしい声。


「雪音さんじゃないですか。久しぶりですね」


ニッ、と俺が笑うとあちらは優雅に微笑む。彼女は鷲宮雪音わしみやゆきね。雨邦高校生徒会現会長だ。高校一年から二年にして完璧に生徒会長を務めあげるとか相変わらずすぎるな。


「あぁ、そうだな。一年ぶりだ。早速で悪いんだが少し時間を貰えるか?」

「雪音会長!お久しぶりです〜!」

「お、結羽じゃないか。遅ればせながら入学おめでとう。しかし、すまんな。今は急ぎの用でな。少し恭を借りるぞ」

「どうぞ〜。じゃあ、恭。私先に帰るね」

「おう、気をつけて帰れよ」


「お前らもなー」と、付け加えて俺と雪音さん以外のみんなを送り出す。


「さて、結羽にも言ったが恭はあの時一番忙しい時期だったはずなのによくうちに受かったな。素直に感心してしまった」

「お、雪音さんが褒めてくれるなんて。100年…いや1000年に一度あるか……?」

「お前は私をバカにしてるのか?っていうかそもそも私はそんなに生きられないぞ。私だって凄いと思えば普通に感心くらいする」

「その普通の基準が高すぎるんですよ雪音さんの場合。聴いてますよ〜。雪音さんの噂。口々に完璧超人、完全無欠、才色兼備、もう最強じゃないですか」

「そんなに凄いことをしてるつもりなんてないんだがな」

「ははは。雪音さんにとってはそうかもですね」


懐かしさすら感じるこの会話。言っても、去年ぶりなんだが去年、一昨年が濃密過ぎて時間の感覚がおかしくなったのかもな。


「さ、そろそろ本題に入りますか。最終下校時刻も近づいてますしね」

「そうだな。じゃあ、本題だ。恭、今一度、私の右腕になってくれ。もちろん、忙しいのは分かっている。そのうえで頼みたい」

「忙しいことを承知の上で…どうしてもやらないといけないですか?」

「んー、そうだな。じゃあ、こう依頼しよう。現生徒会役員書記の浜名岳はまながくが生徒会副会長になるのを阻止してくれないか」


雪音さんにそこまで言わせるとか何したんだ浜名岳。


「多分できないことは無いけど、理由もなしに蹴落とす事は出来ないので、なんでその依頼をするに至ったのか、の経緯なんか教えて貰ってもいいですか?」

「そうだな。あいつは私に好意を持っているのか分からんが仕事に手を付けてないことが多くてな。休日も私をショッピングモールに誘ったり、遊園地に誘ったり、試合があるから見に来いなどと…あいつは副会長に相応しい働きはしていない」

「つまり、私みたいな美人が居るから仕方がないのは重々承知だがそれでも仕事をしない奴はいらんと。なるほどね」

「いや、恭。私はそこまで言ってないぞ?前半は否定するが、後半の仕事をしない奴はいらんって言うのは本音だ」


普段なら雪音さんは温厚で優しいんだけど……ここまで言わせるとか。ほんと何したんだよ浜名岳……ってか誰だよ…


「それに私たちの中学の校長がな、今年の春休みに来て思い出話をいくつかしてくうちに私たちの話になってな」

「あー、白鷲しらさぎコンビでしたっけ?あれが文化祭の漫研で二次創作みたいな感じで出されてたの知ってました?」

「そ、そんな物があったのか!?は、初めて知った」

「まあ、あの時は忙しかったですからね。で、そんな話を知ったウチの教員たちは…」

「まあ、目を輝かせていたよ」


お互いにため息をつく。まあ、あんな話を聞かされちゃ目を輝かせたくもなるわな。


中学時代。俺が中2、雪音さんが中3だった頃。ウチの中学で文化祭がありその準備を生徒会でするはずだったのだが、ウチの生徒会のメンバーのやる気は絶望的で、もはや働いているのは雪音さんと俺。そして、手伝いに結羽の3人しか働いていない状態だったのだがその3人でほとんどの仕事をこなし、その事はいつしか全校の知るところとなり、白鷹コンビというあだ名が広まった。


っていうかさ、まじでこんなコンビ名付けたの誰だよ。絶対『ばるはらコンビ』よろしくノリでこんな付けたろ。


「まあ、雪音さんの頼みは承りましょう。俺に任せてください。なんとかして見せますから」

「恭に言われると頼もしいな」


さて、大きく出たのはいいがどうするかな。雪音さんからの信頼が厚いからこその依頼だから期待を裏切るような真似はしたくない。


「じゃあ、放任するようで悪いがあとは頼んだ。私は少しやることがあるから生徒会室に戻らせてもらう」

「分かりました。仕事のしすぎは良くないですからね。休む時は休んでくださいよ?」

「それを恭に言われるとはな、恭の方が忙しいだろうに」

「経験者は語るってやつですよ。じゃあ、俺は帰りますね。お疲れ様です」

「うん。お疲れ様。気をつけて帰れよ」


ほんと、どうしたもんかねぇ。

 ん?っていうか、対抗するのはいいけどそうなると俺以外に対抗馬が出ないと俺がやらないといけないんじゃないのか?


「ただいま〜」

「おかえり!さっき結羽ちゃんが夜ご飯持ってきてくれたよ」

「おー、後でお礼言っとく」


バッグを自室に置き、ブレザーを脱いで下に降りる。

結羽が作り置きしてくれたハンバーグと炊きたての米を口に入れながら今後の立ち回りを考える。


「恭。帰ってきてからずっと考え事してるね。なんかあったの?」

「んー、なんかあったって言えばあったけど」

「ほほう!どれどれ。お姉ちゃんに相談してなみなよ!ほれほれ」


既に晩飯を食べ終えてソファーでスマホをポチポチ弄っていた光里が目を光らせながらこちらを見る。


「恭。そんなあからさまに嫌な顔しないでぇ!そういう目をするなら言葉で言ってよぉ!」

「あー、もう分かったから抱きつくな暑苦しい!話すから一旦離れやがれ!」

「はーい」


俺が光里の鬱陶しさに負け、俺の体に抱きついた光里を引き剥がそうとすると、その手をひらりとかわし、盛大な手のひら返しを決めると俺の目の前の椅子に座った。


「よし!お姉ちゃんちゃんに聞かせてみなさい!」

「まあ、本当に大したことじゃないんだけど、俺の先輩に鷹宮雪音っていただろ?その人から依頼を受けちゃってさ」

「ほう。依頼とな。して、その内容はどんなもんなんじゃ?」

「なんだよ、その口調は…。まあいいか。なんて言うか超端的に言うと自分に向けられた恋を終わらせて欲しいってことらしい」

「…………そんなのできるの?」

「まあ、幸い相手は自称超イケメンで運動神経も抜群。しまいには、学校一の陽キャと思ってるらしいからね。出来ないことは無いんじゃないかな」

「ほ、ほんと?」

「いや、知らん」

「知らんのかーい…………」


あながち間違ってはないと勝手に思ってはいるけどねぇ。後で海斗と翔也に聞くか。


「ご馳走様。じゃあ、既にあまり時間が無いらしいからちょっとやって___


ピンポーン…


「ん?誰か来たね。私出るよ」


首を傾げたあと俺が出ようとするのを制して光里が立ち上がり玄関へ向かう。


「おー、結羽ちゃん!いらっしゃい!どうしたの?」

「光里ちゃん!お邪魔します!恭が手をつけてないコラムを完成させるべく監視に来たの」


な、何も聞こえないゾ〜。


「よく来たな。はい。タッパー受け取りに来てくれてありがt__

「観念しなさい」

「はい…」

「じゃあ、恭を連れていきますね」

「うん。寝不足になるのは良くないから程々にね〜」


俺が全力で知らないフリを決めたにも関わらず結羽はニコリと笑いながら死刑宣告をする。

光里も光里で見捨てるなんて酷い!あんまりだ!試験勉強にコラム!それに依頼までこなさなきゃいけないなんて!


「苦労が絶えんなぁ」

「無駄なことに頭使ってないで早くやりなさい!」


結羽が日に日におかんになってく………


この後、コラムが俺の気に入るものにならず、全く筆が進まないでようやく夜の29時に終えた2人とも爆睡して遅刻したことはまたいつか話すとしよう…まじ疲れた…






















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