Vol.3 久しぶりの休日っぽい休日で! ②

「おーい、こっちこっち」


俺が結羽たちに手を振ると5人が談笑しながらこっちに来る。


「わりーな恭。席取っててもらって」


海斗が両手を合わせて謝る。


「いーや、全然いいぞー。あ、一応、全員分のドリンクバーは取っといたから頼まなくていいからな。もし、いらなかったら俺が払うから」

「おー、気がきくねぇ」


俺がそういうと翔也がニヤッとしながら言う。

ほほう?翔也め、貴様ならそう言うと口の利き方をしてくると予想していたぜ。トラップカードオープン!


「あ、そういえば翔也の分は取ってなかったかな」

「はぁっ!?」


それを聞いて慌てて一枚のレシートを見る。


「マジじゃねぇか。なんだこの微妙な嫌がらせ!」

「まあ、いいんじゃない?」

「雑っ!?」


ぶっ刺さってるなぁ。やっぱり翔也はいじりがいがあるな。翔也いじりに少しだけ加勢してくれた麻里に向けてサムズアップする。


「まあ、とりあえず皆んなで食うもん決めようぜ」


海斗がメニューを見ながら言う。


それにつられて各々がメニューを覗き込む。


そして、オーダーを済ませ昼食を食べ終えたみんなは会話に花を咲かせていた。


「そういえばさ、さっき見たか?」

「ん?何が?」


海斗が思い出したようにいう。それに翔也が反応する。


「会計の隣の席にさ風神雷神がいたんだよ」

「あー、そういえば居たね」


海斗が言うと麻里が嫌な顔をしながら言う。

え、ていうか、風神雷神って何。物騒すぎなんだけど。みんなあぁ〜、みたいな顔してるんだけどもしかして知らないの俺だけ?


「ねぇ、麻里ちゃん。風神雷神って何?」


結羽が聞くと海斗が思い出しながら説明を始める。

よかった。結羽。お前は味方だと信じてたぞ。


風松かざまつユリ先輩ととどろき綾子あやこ先輩コンビのニックネームらしい。テニス部のダブルスペアらしいんだけど、雨高のボスみたいな感じなんだと。あんまり関わらないようにしたほうがいいって先輩からの助言だ」

「本当に凄い言われようだな。まあ、ボスなんて言われるくらいだから相当な権力をお持ちになってるんだろうな」


海斗が苦笑いを浮かべながら言った説明に俺は苦笑いを浮かべながら皮肉を言う。

前では結羽もあはは、と苦笑している。


「ところでみんな、この後どうするの?」


すると不意に琴音がみんなに聞く。

確かに。その辺全くノープランだったな。


「どうせならうち来るか?俺の家は誰も居ない………はず」


俺がそういうと翔也と海斗と琴音が食いついてくる。


「マジ?行きたい!」

「ていうか、絶対行くよな」

「私も行ってみたいかも」


翔也と海斗は単なる好奇心で、琴音は小説だろうな。


「わ、私も行くよ!」

「まあ、みんな行くなら行くよ。特に行きたいところとかないしね」


さてと…みんなの意見まとまったし、飯も食い終わったし


「行きますかぁー」

「おう!」


俺らがレジに着き、各々が自分の食べた分を支払い店を出る…その時、前に立ち塞がるのは風神雷神改め___


「えぇっと、松風先輩と轟先輩でしたよね?なにか用ですか?」

「あれ?ウチ達のこと知ってくれてたんだ〜」

「えぇ、お噂はかねがね」

「なんか堅くな〜い?」

「それな〜」


出たな。ヤバいと同列くらいの謎の使用頻度を誇りそうな「それな」、などと思いつつもさっさとこの場を離れたい。

いや、べ、べべべ、別にこの人たちが面倒臭いって訳じゃないよ?うん。ほんとほんと……


「うちらとライン交換しようよ〜」

「………あー、いいですよ〜」


後ろの方で海斗が俺の背中を小突いて小声で「バカっ、やめとけ」と言っていたが俺は人を噂で判別しない人間なのでな。

まあ、俺は言いたい事は言えるタイプだし大丈夫だろ。

俺は自分のアカウントのQRコードを表示して松風先輩と轟先輩がそれを読み込み友達登録をする。


「オッケー、ありがとね〜」

「いえ、じゃあ今日はこの辺で失礼しますね」

「うん。バイバーイ」


アカウントを交換出来て満足したのか思いのほかあっさり帰してくれた。

実はいい人だったりすんのかね?この人たちは。まあ、期待はしないでおくけども……


店を出てそのまま出口へと向かう。


「駅と反対方向に来たけど大丈夫なの?」


琴音が駅の方を指さしながら聞く。


「ん?あぁ、ここから歩いて15分くらいだけど。その靴じゃ流石にキツイか?」

「え?いや、ううん。大丈夫」

「そうか。キツかったら言えよ?」

「うん」


琴音が何かに驚いた後、首を横に振ると間に海斗が割って入る。


「にしてもよ、恭。良かったのか?アカウントを交換しちまって。あの先輩2人って本当にあんまりいい噂聞かねぇぞ?」

「んー。本人達は普通に楽しんでるだけだと思うんだよね。あとは………なんて言うのかなバランス感覚が鋭すぎるのかもね」

「ば、バランス感覚?」

「そうそう。バランス感覚。お互いがあの典型的なカーストの最上位に君臨するための取捨選択が意識的じゃなくて感覚で行われてるってこと」


俺が考察すると海斗が顎に手を当て、唸り始める。


「なるほど!そういう事か!さっぱりわからん!」

「さいで」


海斗。貴様、俺のこの数秒間を返せ。

まあ、難しいところだよなぁ。でも、あの先輩2人組は色々使え………勉強になりそうだからできる範囲で仲良くしとこ。


「まあ、あの先輩2人から連絡が来ても俺は仕事で忙しいからあんまり返信はすぐにできないからな」

「まぁ、確かにそうだけど」


俺があっけらかんと言うと麻里が不思議そうに首を傾げる。


「まぁ、高校生でもアルバイトしてる人なんてわんさかいるしな」

「まぁ、そうだけど。ん?仕事ってアルバイトじゃないの??」


傾げた首を元に戻して怪訝な顔をする。


「え?えぇー、あ。あぁー、そっかそっか」


琴音とよくその話するから麻里たちにも話したつもりになってた。確かに言ってなかったな。


「おーい、1人で納得しないで貰える?」

「すまんすまん」

「で?なんなの?仕事って」

「実はさ、俺ラノベ作家なんだよね」


うはーー。改まって言うとやっぱ緊張するもんだな。

でも、麻里と海斗と翔也のあほ面で固まってんのは堪らなく面白いわ。


「実は私も〜」


とすごすごと琴音が手をあげる。


「こ、琴音も!?」

「え、そのことお互い知ってたの?」


麻里が俺と琴音の顔を見比べながら言う。


「まあな。同じ編集社でたまたま会ったことがあってな。あのクラスに入ってなんか見たことあるって引っかかってたんだよな〜」

「私は全然気付かなかったけどね」


手をひらひらさせながら琴音が言う後ろで翔也がなにか腑に落ちたというような顔をする。


「もしかしてさ、たまーに授業中に爆睡してるのってそのせい?」

「あー、そうだな。締め切り近いと学校は寝る場所だからな」

「にしては、当てられたらちゃんと答えてるよね」

「まあ、爆睡するってわかってるのに予習しない奴は本当のバカだからな」


俺が翔也と麻里に眼を向けると声を揃えて『うっ……』と言う。分かりやすくて結構だな、そこのよく寝て怒られてる2人組よ。


「てかさ、恭。結構歩いたと思うんだけどまだつか_________

「着いたぞ」

「………着いたんかーい」


肩を落として無気力に突っ込む翔也の姿は本当に清々しいな。はっはっは。こんな調子だから結羽にドSとか言われんだよなぁ。少し自重するか。いや、いっか。翔也だしな。


「お前ら、ちょっとここで待ってろ」


静かに玄関のドアを開け、音を立てずにリビングへと歩みを進める。

何故こんなことをしているか。それは___


「おはよう。光里」


こういうことである。

現在、A.M.1:00。大学の講義は12時から。


「んー。あれ?恭?」

「あれ?恭?……じゃねぇよ。講義はどうした」

「え、あ!あぁ、えぇっと…その、ほら!今日は休みなんだって」

「即興でわかりやすい嘘つくんじゃねぇよ」


光里の頭にチョップを食らわすとうぅ〜、と頭をおさえる。


「とりあえず、サボっちまったもんはしょうがないから明日誰かからノートコピーさせてもらえよ」

「うんー」

「で、今から俺の友達が来る…っていうかもう来てるからズボンでもなんでも履け」

「分かったぁー」


まだ眠いのか妙に間延びした返事を返す光里はフラフラしながら階段を上がってく。


「全く」


ほんと全くだよ。


「全く……てめぇら見てんじゃねぇ」


俺が振り返って言うとドアの隙間から覗いていた海斗と翔也がドアを開けあははははは、と爆笑している。


「恭。おま、お前、お母さんかよ」

「今のは、面白かった」


嫌なところを見られたな。まあ、しゃーない。


「とりあえず上がんな」


ドアを開け放ち、抑えながら家の中を指さす。


「おじゃましまーす」

「結構広いんだな〜」

「てか、いい一軒家だな」

「そうでも無いだろ。ほら、とっとと俺の部屋行くぞ」


こっち、と言いながら階段を上がり、左に曲がったところの部屋に入る。


「おお、なんもねぇ」

「スッキリしてるね〜」

「まあ、特に置くものないしクローゼットが物置みたいなところあるからな」

「え、じゃあ覗いて見てもいい!?」


琴音は目を爛々と輝かせ息を荒立てて食い気味に聞く。


「別にいいけど、琴音……なんかキモいぞ」

「あの、い、五十嵐先生の部屋………フフフ」

「あれ。さてはこれ聞いてないな?」


指を不規則に動かしながらクローゼットに近づき勢いよく開け放つ。


「え、な、なにこれ!」

「なんか大量に入ってるんだけど…」

「ギターにベース。スポーツ全般はありそうだなこれ」

「こいつらは俺が1度興味を持った物達だな。1度興味を持ったって言ってもちょいちょい続けてやってるけどな」


俺がPCに電源を入れながら答えるとクローゼットの中を覗き込んでいた麻里が声を上げる。


「うわ、何このダンボール。何箱あんのこれ」

「ダンボール?あー、気になるなら開けてもいいぞ。大概は大したことも無いやつだけど」


麻里が開け、海斗と翔也、琴音に結羽までもが覗き込んでいる。


「うわぁ、これ全部楽譜?」

「全部じゃないけどな」

「これ全部弾けんのか?」

「弾けるけど。結羽も弾けるだろ?」

「んー、感覚が戻ってくれば弾けるかも」


指を顎に当てながら結羽が答えると「もう驚かないぞ」と言うような空気が流れる。


「ちっちゃい頃から俺の多趣味に付き合ってくれててさ」

「ほんっと、お金かかってしょうがなかったんだから」


手をひらひらさせる結羽をよそに楽譜を漁っている海斗は不意に俺になぁ、と声をかける。


「ん?どした」

「こんなにさ、色んなもの買ってて経済的に大丈夫なのか?」

「まあ、それなりに稼いでるつもりではいるからな」

「そんなになのか…」

「そんなによ!」


海斗ととの会話に割って入ったのは眼を依然輝かしたままの琴音だった。


「当時13歳で大賞を受賞して最年少記録を更新したの!それでね、異例の2ヶ月間っていう短い期間で第2巻を完成させて世に送り出したの!内容もすごく濃くてキャラクターが頭の中で自然に浮かび上がって来るくらい描写も丁寧でね!もう、作者含めて名作って言ってもぜんっぜん過言じゃないよ!!」


呼吸が乱れるほど熱弁する琴音。翔也が口を開こうとしてる。

そうだ!俺の気持ちを代弁してくれ!


「なあ、琴音。その作者が目の前にいるんだから……ほら……な?」


諭すように言われた言葉で琴音が冷静さを取り戻す代わりに顔が真っ赤に染まっていく。

海斗が笑いを堪えながら床をバンバン叩く。


「恭めっちゃ照れてんじゃん。耳真っ赤だぞ」

「う、うっせえな!どう考えたって今のは反則だろ!」


結羽と麻里に至っては笑い泣きしている。


「さてと、一つ身を削って笑いを起こしたところで何する?」

「この人数で遊べるのは結構限られちゃうね」

「人生ゲームとかならみんないっぺんに遊べるかな」

「あー、ちょっと待ってろ〜」


人生ゲームか。長らくやってなかったからなあ。にしても、あんなに熱弁されるとは思ってなかったな。


「お、あったあった」


引き出しのそこから取り出した人生ゲームをみんなの真ん中に置き開けようとしたその瞬間、俺のスマホが鳴り出す。


「お?電話か。すまんお前ら。適当にやっといてくれ」


そう言って部屋の外へ出る。


「もしもし。武田さんどうしたんですか?」

『おー、すまんなこんな昼間に』

「いや全然構わないですよ」

『そうか。それなら良かった。要件としては、一つ五十嵐先生に頼まれてほしいことがあってな』

「ほう、してその内容は?」

『今度第7巻発売だろ?それに即してアニメショップで買うとーみたいな奴があってな、それのss(ショートストーリー)を書いて欲しいんだよ。悪いな。昨日伝え忘れちまって』

「なるほどです。期限は?」

『まあ、多くとれて一週間だな』

「わかりました。終わり次第メールでデータを送りますね」

『おー、すまんな。よろしく頼む』

「はーい。じゃ、失礼します」


電話を切って部屋に戻ると人生ゲームの準備を終わらせて談笑していた。


「お、やっと来たな恭。とっととやるぞー」


………全く。良い友達に恵まれたもんだな。















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