Vol.3 久しぶりの休日っぽい休日で! ①

「すいません。朝早くから手伝ってもらっちゃって」


俺が藤峰さんに言うと最後のセッティングをしながら、大丈夫大丈夫〜と言う。


「うちでたくさん買ってくれたしね」


全て終わったのか大きく息を吐きながら机の下から出てくる。


「これでオッケーだよ。この後は色々個人情報もあるから後は自分で説明書見ながらやってね」

「ありがとうございます!あ、もう時間ですか?」


俺が藤峰さんに時間を尋ねると壁に掛かってる時計を見る。


「あぁ、そろそろ行こうかな」

「そうですか。お礼と言ってはなんですけどおにぎり作っておいたので持ってってくださいよ」

「本当?悪いね」


慣れた様子で工具をしまい、バッグを肩にかける。PCの設定の話をしながら玄関に向かい、じゃあと言って藤峰さんを見送る。


「ふう。とりあえず朝飯の準備すっか」


光里は今日は12時から大学の授業らしく昨日の事でしばくのは夜になりそうだ。ちゃんと忘れてないからな。覚えとけよ。睡眠を妨げた罪は重いぞ。


「とりあえずチャーハンくらい作っとけばいっかな」


手際よく準備し調理を始める。すると、軽快な音を鳴らしながら携帯が震えた。名前は翔也になっている。こんな朝からなんだ?


「もしもし?」

『あー、俺俺。俺だよ俺。』


ボケるんだったら掛けてから考えるんじゃなくて前もって考えとけよ。と思いつつこれは乗るしかないと俺は眼を光らせる。


「うわぁ!すげぇ!これが翔也翔也詐欺か!いやぁ凄いなぁ。もう着信来た時に名前出ちゃってて俺っていう意味全くないもんなぁ。身バレしてでも詐欺を辞めないあたり相当メンタル強いんだろうなぁ!」


わざとらしく振る舞いを大袈裟にする俺の道化を聞いて、くははと翔也が笑いを漏らす。


『おい、恭!この通話にツッコミ不在になって終わんないからやめろ』


依然笑いながら翔也が言う。うん。なんか高校生って感じする。


「で?こんな朝早くからどうした?」

『今日さ、暇か?』

「おう。暇だな」

『じゃあさ、海斗も入れて3人で映画見に行かね?親が映画のチケット4枚も友人の結婚式で当ててきてさ、親はあんま映画観ない人たちだから』

「マジか。行く行く〜。翔也の両親にもありがとうございますって伝えといて」

『律儀だなぁ。ま、了解した。時間は10時にららぽーとでいいか?』

「オッケー。海斗は翔也が誘っといて」

『面倒臭いからだろ』

「よく分かってんな。流石だ」(イケボ)

『ふっ、俺にかかれば恭の事なんて手に取るように分かるぜ』(イケボ)

「おまわりさーん、ホモが湧いてまーす」

『おい!誰がほm』ピッ


切ってやったぜ。乗って来たところに悪いな。これが1番面白いと思ったからついつい切っちゃったぜ!


「10時にららぽーとか。そういや、何見るんだろ」


現在AM7時。ららぽーとは歩いて20分くらいで着くから電車に乗っていくよりちょっと掛かるくらいだから歩こうかな。


「とりあえずチャーハンは電話しながら作り続けたからもう完成っと」


2枚の皿に盛り付け、片方にラップをして冷蔵庫に突っ込む。


「まだ、結構時間あるな」


ツイッターでエゴサ巡回しながら時間を確認し呟く。


「PCの設定済ませちゃおうかな。そんなに時間はかからないって言ってたし」


俺はぱぱっとチャーハンを食べ終え、自室へ向かう。

ドアを開け放ち、見慣れた机の上には真新しいPCが強い存在感を放っている。


「うん。いい買い物した」


俺は口元の緩みを抑えつつカタカタとキーボードを鳴らし始めた。


_______________________

時刻は9時20分。そろそろ家を出てもいい時間だ。


「結局、武田さんに勧められたゲームやり込んじゃったなぁ」


PCの電源を落とし椅子にもたれかかり少し眼を休める。

やっぱ新しいものって興奮するよね。それが高価なものならなおさらね。

なんて思いつつ5分ほど眼を休め、椅子から立ち上がる。


「えーっと、映画だよな。財布とスマホと……そんなもんか」


光里はまだベッドの中で丸まっているから書き置きして家を出る。


さて、健康のために歩いて行きますかね。


四月もそろそろ下旬を迎えようとしている中、だんだん気温も上がってきている。

湿度が高いのはあんまり好きじゃないけど夏は嫌いじゃない。楽しいこといっぱいありそうだしね。


「そういや、映画って何観るんだろ。映画なんて久しぶりだから楽しみだな」


_____________________

「よっ、恭。おはよーさん。早いな」

「お、海斗か。おはよ。今日はたまたま早く起きててね」

「翔也遅いな。なんか聞いてるか?」

「何も聞いてないぞ。それに遅いって言っても集合時間の5分前だけどな」

「言えてる。そういえば、恭にあったら一発殴るって言ってたけどなんかしたのか?」

「エ?ナニモシテナイヨ」

「したのか……」


そんな会話をしているうちに翔也がのんびり歩いてきた。


「おー、お二人さん早いね」

「おう、時間より早く集まったな」


海斗が腕時計を見ながら言う。


「翔也!お・そ・い・ぞ☆」

「よし、一回表出ろや。お前には朝からしてやられたからな」


俺がキュピーンと音がしそうなくらいキレキレに横ピースを炸裂させると、若干の怒りの形相を浮かべながらパキパキと手を鳴らす。


「まあまあ。落ち着けって。てか、今日観る映画って何?」

「あ、俺も気になってた。なに観んの?」

「上手い具合に話逸らしやがって。まあいいや、特に何も決めてないんだけどなんか観たいもんあるか?」


俺と海斗が眼を合わせる。


「「ねぇな」」

「息を合わせて言わんでいい」


チケット窓口の上のモニターに書いてある上映時間を見る。

そういえば琴音もとい茅野先生の作品が夏に映画化するんだったか。1ファンとして楽しみだな。


「あ、これって去年くらいに実写でやってた奴か?」

「あー。人気すぎてアニメーション映画化したやつだな」

「あ、じゃあこれ観るか」


ちょっと待ってて、と言いながらチケットを買いに行った。


少ししたら翔也が戻ってきた。


「もう入った方がいいかも。結構埋まってたから」

「オッケー。じゃあ行きますか」


翔也が状況報告し、俺が返事を返す。

あ、これ朝のやつチャラにできるチャンスでは?金は一応多めに持ってきたし。


「先座ってていいよ。俺ポップコーンとか買ってくるから。飲み物とかいる?」

「まじか。恭すまんなぁ。飲み物はコーラでいいや」

「さては朝の件をこれでチャラにするつもりだな?」

「なぜ分かった」


翔也…お前さてはエスパーだな?


とりあえず、並んで頼みますか。


「いらっしゃいませ」

「ポップコーンの塩味のLをひとつとキャラメル味のLもひとつ。コーラM3つで」


まあ、こんだけあれば大丈夫だろ。

確か〜、5番シアターのj列だったか。


ありがとうございます、と言いながら席を思い出す。


「ここか」


映画自体は久しぶりじゃないが誰かとくるのは久しぶりだな。


「おー、おまたせー。飲み物も買ってきたから……。あれ?」


俺が座るために空いている席の隣には琴音、結羽、麻里が並んでいる。


「ええっと…え、何。ごめん状況を把握出来てないんだけど」

「恭、あのね。私たちも麻里に昨日映画に行こうって誘われて来たんだけど。まさかのまさかで隣だったって事」

「ああ、要するに翔也と麻里の考えてることが同じだったって事か」

「まあ、そういうこと」


翔也と海斗に飲み物とポップコーンを渡し自分の席に座る。

映画館のこういう待ち時間っていいよなぁ映画の予告とか割と面白いし。


「てか、結局このメンバーになったな」


海斗が苦笑い気味に言うと、全員が乾いた笑いをこぼす。

しかしここは公共の場、ましてや映画館だから騒ぐわけにはいかない。みんなもマナーは守る奴らだから隣のやつと小声で話しを弾ませているようだ。


「琴音」


小さい声で琴音を呼ぶと意図を察したのかスクリーンに目を向ける。


「おめでとう。やったな」


スクリーンには作家、茅野みなみの全てが詰まったラノベの映画予告が流れていた。


「ありがと。そっちこそアニメ化決定でしょ?あと、講演会とかやるって聞いたけど」

「おお、耳が早いな」


そんな話をしているとシアター内の照明が消え、本編が始まった。


_____________________

「やっぱいい声優起用してたな」

「うん。迫真の演技だったね」


俺と琴音がキャラの中の人の話題で盛り上がっていると後ろからちょっとだけ涙を流している海斗と結羽、その後ろには顔を涙で濡らした翔也と麻里が出てきた。


「お前ら泣きすぎだろ…ちょっと引くぞ」


俺が身を若干引きながら翔也に言うと服の裾で涙を拭いた。


「うるせえな。俺この手の話は無理なんだよ。こんな事ならハンカチとティッシュ持って来ればよかった」

「私も……」


鼻をすすりながら喋る2人にティッシュを差し出す。


「にしても、これからどうするか。みんな飯は?」


切り替えの早い海斗が腕時計を見ながら言う。

只今の時刻12:20。ちょうど飯の時間だ。


「みんなは食ってく?」


俺がそう聞くとみんなが頷いた。しかし涙で顔が潤ってらっしゃる彼らを連れて行って変に思われるのも嫌だから…


「んじゃ、俺と琴音で席取ってくるから入るまでにはその面戻しとけよ」


麻里をいじっていた琴音を呼びファミレスへと向かう。


「そんなに泣ける内容だったかな」

「琴音は感情が欠落してるからな」

「そんな事ないよ!?」


ははは、と笑い合う。


「まあ、あの映画観るのこれが初めてじゃないし内容知ってたしな」

「それに私達ってよくも悪くも目が肥えてるからね」

「ああ、いえてる」


その時、ひとりの青年が走ってきた。


「あ、あの!五十嵐先生ですか!?」

「え?あ、はい。そうですけど」

「あの自分、五十嵐先生の大ファンなんです!」


目を輝かせる青年。多分大学生だと思うがすごい食いつきだな。


「それは有難いんだけど大声は周りの迷惑になるから声の大きさは抑えてください」


やや苦笑いでそういうとすいませんと小さく謝罪する。


「あの、もし今良ければサインをお願いしてもいいですか?」

「はい。全然いいですよ」

「あ、ありがとうございます」


手渡された『月下の蒼弾』にささっとサインをする。

にしても、俺の顔を知ってるってことはインタビューされた時の雑誌買ってくれたんだな。しかも、確か2年前だったよなあれ。やばい、口元の緩みが止まらん。


書き終わった俺はその青年に渡すと腰を90度におり「ありがとうございました!!」と言うと、嬉しさからか駆け寄ってきた数倍のスピードで走り去って行った。


「さっすが、五十嵐先生」

「うっせぇよ」


ニヤニヤしながら近づいてくる琴音にデコピンを食らわす。


「恭がファン対応してる間にファミレスの予約取っといたから」

「おーすまんな」

「じゃ、みんな呼んでこようか。あんまり人並んでなかったし」

「うい、俺は一応並んどくよ。既に席に案内されてたらそん時は探してくれ」

「はいはーい」


返事をしながら琴音はピュンと結羽たちの元へ走って行った。








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