エピローグ 蟻塚トラジの裏話

最終話 ロリと猫は永遠に仲良しらしい。

 実家のある神奈川から東京を経て、電車を乗り継ぎ、さらに3時間。関東平野の北の果てにある、この田舎の駅が、俺の待ち合わせ場所の最寄り駅だ。


 俺の名は蟻塚ありづかトラジ。トラのサムライで寅侍とらじ

 俺は電車に乗るのが大嫌いだ。

 乗り降りする度に頭をぶつけるからだ。


「背が高くていいね」なんて言われるが、冗談じゃない。

 過ぎたるは及ばざるがごとし。

 背なんて、180センチもあれば十分だよな?


 おっと、余計な話はこれくらいにしておいて、話の続きだ。


 この駅の改札口を出ると、すぐ近くにレトロな大衆食堂がある。

 この店の前が、俺と「あの女」との待ち合わせ場所だ。


「あの女」から聞いた話によると、この「ぽろり食堂」の飯は、ほっぺたがポロリと落ちるほどうまいと地元で評判らしい。


 待ち合わせ場所である店の正面には、学園行きのスクールバスのバス停があり、地味なセーラー服を着たJK2名が、仲良く並んで俺の到着を待っていた。




「やっと来たか~、おそいよ~」


 このツリ目で体の薄い女が俺の姉、蟻塚ネネコだ。

 子猫と書いてネネコと読む。




 俺が小学4年生だった頃、当時小6だった「この女」に、俺は凌辱りょうじょくされた。


 電気アンマをくらい、「おしっこ」が漏れそうになって「やめろ!」と叫んでもやめてもらえず、そのまま漏らしてしまったのだ。


 全身が震え、ハーフパンツの隙間から白くてドロドロとした「おしっこ」があふれ出て来たとき、俺は死んでしまうのかと思った。あれは一生のトラウマだ。


 怖くて泣いていた俺に気付いたカーチャンは、この女を平手で殴り飛ばした。


 あの6年前の事件のせいで、この女は、こんな辺境の地へ追いやられたのだ。

 座間ざまみろ。これは、神奈川県民にしか通じない地元ネタだ。




「トラちゃん、久しぶり! 元気だった?」


 姉の隣にいる、小さくてかわいい女の子は、鬼灯ほおずきポロリ先輩。

「ぽろり食堂」の看板娘で、姉の親友。

 そして、俺の初恋の人であり、片思いの相手だ。




 一昨年の春休みに、姉が実家に戻った際に、仲の良い友達を一緒に連れて来た。

 それが、ロリさんと俺の初めての出会いだった。


 姉が家を出て寮に入ってから、俺と姉の部屋は俺1人で使っていたのだが、その俺の部屋で一夜を共に過ごしたのだ。もちろん、邪魔な姉も一緒だったが。


 あのガサツな女に、こんなかわいい友達がいる事にも驚いたが、もっと驚いたのは、そのガサツな姉が一晩中ずっと泣いていた事だった。


 大好きだった先輩方が卒業していった悲しみは、それほどに大きかったようだ。


 その姉に寄り添い、ずっと慰め、励まし続けていたのが、姉から「ロリ」と呼ばれていた彼女だった。身長は姉より10センチ低く、俺より50センチ低いが、姉よりずっとお姉さんらしかった。


 地元の高校に進学するつもりだった俺が、今ここにいるのは、優嬢学園で欠員が出て高等部から入学する男子生徒を募集しているという話を姉から聞いたからだ。


 俺はすぐに担任の先生に相談し、優嬢学園に単願推薦してもらう事にした。


 ロリさんと1年間、毎日会えるなら、高校なんて、山奥でもいいじゃねえか。

 あんたも、そう思うだろ?




「ロリさん、変わってないですね」

「うんっ、ポロリはロリだから、ずっとこのままなの」

「ずっと――って、来年卒業じゃないですか」

「卒業しても、うちはここだから」

「そうでしたね」

「だから、トラちゃんも、ときどき食べに来てね」

「もちろんです」


 ロリさんは2年前と全く同じ、小さくて、かわいくて、優しい笑顔だ。

 これで、邪魔なネーチャンさえいなければ最高なのに。


「何イチャイチャしてるの? もしかしてロリ、トラジの事気に入っちゃった?」


「そんなことないよぉ!」


 ロリさんに否定されたのはショックだったが、小さな手のひらを姉に向けてぷるぷる震わせる姿は、たまらなくかわいい。見ているだけで幸せな気分だ。


 俺はしゃがんでロリさんを見上げ、泣いたふりをする。


「ロリさん! 俺の事、嫌いなんですか? 俺、泣いちゃいますよ!」

「だめだよぉ。男の子が、こんなとこで泣いたら」


 ロリさんは優しく俺の頭をでてくれる。ますます幸せな気分だ。


「え~っ! ロリになら、あげてもいいと思ったのに。トラジの方がミッチーより背も高いし、ずっとイケメンじゃね?」


 褒めてくれるのは嬉しいが、俺、ネーチャンの所有物じゃねーから。




 ミッチーとは、ロリさんや姉のルームメイトだったミチノリ先輩の事だ。


 優嬢学園で初の男子生徒となった方で、「ダビデ先輩」という称号を持ち、後輩達に人気があり、数々の伝説を残して卒業していったらしい。


 ミチノリ先輩は姉の元カレでもあり、俺はスマホで話をしたこともある。


 ロリさんからは「お兄ちゃん」と呼ばれて慕われていたそうで、ミチノリ先輩がどうしてネーチャンなんかと付き合っていたのか、俺の中ではいまだに謎だ。




 ミチノリ先輩が、在学中に伝説を築き上げたのに対し、卒業してから伝説を作り上げた先輩もいる。ネーチャンが「お姉さま」と呼んでいたミユキ先輩だ。


 俺がロリさんと初めて会った年の夏休みに、姉てに1冊のヌード写真集が送られて来た。その写真集のタイトルは「私は『みゆ』18歳」。


 無修正グラビアアイドル「天ノ川みゆ」のファースト写真集は、発行部数200万部を超えるベストセラーとなり、平成初期のアイドルが持っていた30年以上も破られていなかった写真集の売り上げレコードをあっさりと更新した。


 無名の新人が、いきなりヌード写真集でデビューし、芸能人の持つ記録を塗り替えてしまうなんて信じられない話だが、あの写真集を見れば、誰もが納得する。


 あれは、ただのおっぱいではない。日本の宝、即ち「おっぱい国宝」だ。

 ネーチャンは、あのおっぱいを毎日み放題だったらしい。チョーうらやましい。




 ミチノリ先輩、ミユキ先輩、ロリさん、ネーチャン……この4人は非常に仲が良く、いつも同じ席で食事をとっていた為、まわりからは先輩2人の頭文字、甘井の「甘」と天ノ川の「天」をとって「アマアマ部屋」と呼ばれていたらしい。


 そして、ここにいる2人は、お互いに「ロリ」「ネコちゃん」と呼び合う仲良しコンビで「アマアマ部屋のロリと猫」だった。


 この2人は「アマアマ部屋」が解散になった後もずっと仲良しで、その友情は今も変わらない。優嬢学園を卒業してもなお、その友情はずっと変わらないだろう。




「トラジ、バスが来たぞ! 乗るとき頭ぶつけないようにね!」

「トラちゃん、あんな高いとこにぶつかるの? すごーい!」




 ろりねこ【アマアマ部屋のロリと猫】

 最終章 そして、また春は訪れる。  完






 2年半もの長い間、応援ありがとうございました。

 ここまで楽しく書き続けられたのは、読んで下さった、あなたのお陰です。


 それではまた。ごきげんよう。               更場 蛍

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