最終日の出来事
第260話 楽しい時間は短く感じるらしい。
今日は3月31日。小さくてかわいい妹の13歳の「お誕生日」だ。
僕達が101号室の住人でいられる最後の日でもあり、かわいいカノジョと約束した「お別れの日」でもある。
――修了式から今日までの時間は、本当にあっという間だった。
春休みに入って、自由に使える時間は長くなったはずなのに、楽しい時間は普段よりも速く流れ、短く感じてしまうらしい。
管理部の部室で後輩達とお菓子を食べたり、寮の食堂で食事の準備や配膳を手伝ったり、体育館で
27日まで、うちの部屋に泊まっていたジャイコさんは、実家に帰る前に「これ、ネネコちゃんと使って下さい」と僕にこっそりとコンドームを2つくれた。
これは、3年生のコンドームの講習の際に受講者全員に配られたもので、1つは
柔肌さんは恥ずかしくて僕に直接渡せなかったそうだ。
「2人とも使う予定がない」との事なので、ありがたく
今週で最後なので、ネネコさんと相談したところ、誰もいない1年生の教室で「仲良し」してみようという事になったのだが、合体直前に巡回警備のミハルお姉さまに発見され、「こんなとこでヤッたら、先生に見つかるよ。ヤルなら視聴覚室でしょ」と
素直に助言に従い、場所を変えて仕切り直し。
ミハルお姉さまのおっしゃる通り、視聴覚室は暗くて静かで快適だった。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう、ポロリちゃん。今日も、かわいいね」
朝起きて最初に顔を合わせたのは、13歳になったばかりの妹だった。
昨日は1日中ネネコさんと一緒だったが、今日の主役はポロリちゃんだ。
「えへへ。今日は、お兄ちゃんに、もっとかわいくしてもらうの」
「そうだったね。顔を洗ってくるから、ちょっと待っててね――」
お誕生日プレゼントは2週間前に渡してしまったので、昨晩、追加のプレゼントとしてポロリちゃんの髪を編んであげる約束をした。
僕のかわいい妹は、いつも早起きなので、お誕生日で料理部から休みをもらっても早く目覚めてしまうらしく、僕より早く起きて待っていてくれたらしい。
「――お待たせ。それじゃ、始めるね」
ポロリちゃんを
「――はい。こんな感じでどうかな?」
「うんっ、とってもかわいいと思うの」
「13歳になって、さらにかわいくなったよね。お誕生日おめでとう」
「えへへ。お兄ちゃん、ありがとう!」
三つ編みは、無事に完成。我ながら上手に出来たと思う。
普段のツインテールもかわいいけど、三つ編みも、なかなかのものだ。
いつも通りに4人で朝食を取り、その後は、いつも通りにコタツで食休み。
このアマアマ部屋恒例の「朝食後の座談会」も今日で最後だ。
「天ノ川さん、明日からの部屋割りは、いつ発表されるんですか?」
「そうですね。お昼頃までには、食堂前のロビーに掲示されると思います」
「えへへ、新しいお部屋も楽しみなの」
「ミッチーとロリとは明日でお別れか」
今日いっぱいでアマアマ部屋は解散だと言うのに、ルームメイト達は、いつも通りの明るい表情だ。もしかして、不安なのは僕だけなのだろうか。
「2階に上がっても、また、この4人で同じ部屋って事は、あり得ますか?」
「残念ながら、2年続けて同じ4人というのは、過去に前例がないようです」
「うんっ。トモヨお姉ちゃんも、そう言っていたの」
「部屋替えなんだから、しょうがないじゃん。何か思い残す事でもあるの?」
「思い残す事はないけど、不安ではあるよ。せっかく4人で仲良くなれたのに」
昨日は悔いが残らないように、ネネコさんと深いところで幸せを交換したつもりだったのに、いざ別れるとなると、やはり不安だ。
「甘井さんは、もう生娘寮に
「ポロリはね、お兄ちゃんと一緒の部屋なら、何も心配はないの」
「ボクもお姉さまと一緒なら特に心配はないけど、ミッチーはなんで不安なの?」
「天ノ川さんとネネコさんは、男子である僕の同居を許してくれたけど、男子との同居を嫌がる人もいるかもしれないでしょ?」
「ジャイコさんも甘井さんを慕っていましたし、全く問題ないと思います」
「うんっ、ポロリもそう思うの」
「ミッチーは考えすぎじゃね?」
「そうかな? 僕自身が嫌われていなかったとしても、男女相部屋には抵抗があるって人もいると思うんだけど……」
「ふふふ……それも心配ありませんよ。姉妹
「リーネちゃんがね、男女相部屋は『パパに反対された』って言ってたの」
「リーネには、もう婚約者がいるんだから、仕方なくね?」
「なるほど。本人が嫌がったり、家族が反対していたりする人とは、一緒の部屋にならないんですね。それなら、僕も安心です」
「はい。ですから、甘井さんと同じ部屋になる姉妹は、最初から好意的で、ある程度の覚悟は出来ている人達という事になります」
そうか、それで天ノ川さんとネネコさんは、最初から僕に優しかったのか。
「1年生で、お兄ちゃんの事を嫌いな子は、誰もいないと思うの」
「先輩にイジメられそうだったら、いつでも、ボクが助けてあげるし」
「あははは、みんな、ありがとう。お陰で、だいぶ不安が和らいだよ」
「部屋割りが決まり次第、注意事項の引継ぎもしておきますから、ご安心下さい」
アフターサポートまで万全だなんて、僕はどれだけルームメイトに恵まれていたのだろう。天ノ川さん、ネネコさん、ポロリちゃん、いつもありがとう。
食休みの後は明日の引っ越しに備えて、4人で荷物の整理だ。
僕の荷物は、引き出し2つ分の着替えと、文具が少々。それ以外は、大切な人達からもらった思い出の品々である。
ネネコさんからもらった、僕が抜いてあげた乳歯。(第53話、第63話参照)
ハテナさんからもらった、ゴムの伸び切ったパンツ。 (第152話参照)
カンナさんからもらった、豊胸マッサージの許可証。 (第154話参照)
リボンさんからもらった、かわいい猫のぬいぐるみ。 (第167話参照)
柔肌さんからもらった、段ボール1箱の女装セット。 (第256話参照)
僕の荷物は、それほど多くないので、運び出すのは楽そうである。
2階の部屋まで、2往復か3往復もすれば、全ての荷物を運べるだろう。
101号室で最も重い荷物は、天ノ川さんの所有する乗馬マシンだ。
この部屋から運び出す時には、僕が手伝ってあげなければならない。
荷物の整理を終えたら、もう昼食の時間だ。
4人で食堂へ向かうと、食堂前のロビーには、2階と3階の来年度の部屋割りが掲示されていた。なお、1階の部屋割りは、入寮式の当日に発表らしい。
「私達は206号室ですね。チハヤさん達と同じ部屋です」
「マジ? アルマジロと同じ部屋じゃん!」
天ノ川さんとネネコさんの引っ越し先は、206号室。
「僕達は209号室だね」
「えへへ、クリちゃん先輩とクマちゃんと同じ部屋なの」
ポロリちゃんと僕は、
この2人は、甘栗祭のときに一緒に栗を拾った2人だ。 (第151話参照)
栗林さんは、ポロリちゃんの部活の先輩で、熊谷さんは、ポロリちゃんとも仲が良いはずだ。この姉妹となら、きっと同じ部屋でも上手くやっていけるだろう。
「ポロリちゃん、お誕生日おめでとう!」
「えへへ、みんな、ありがとう!」
夕方は、ポロリちゃんの友達と一緒に、寮の食堂で、お誕生日パーティーだ。
僕のかわいい妹は、ほとんどの1年生と仲が良く、友達からプレゼントを沢山もらっているようだ。お誕生日のケーキは、料理部の有志の方々が作ってくれたもので、予想以上に豪華だった。
「甘井さん、ごきげんよう!」
「あっ、栗林さん。熊谷さんも、ごきげんよう」
パーティー会場では、妹を連れた栗林さんから
「ねえ、あの三つ編み、甘井さんが編んであげたんでしょう? 編むの上手だよね。ポロリちゃん、すごく喜んでたよ」
「うん、うん」
栗林さんの報告に、笑顔の熊谷さんが2回うなずく。
僕が褒められた事も嬉しいが、それよりも、ポロリちゃんが喜んでくれた事や、こうして2人が僕に笑顔を見せてくれた事のほうが、ずっと嬉しい。
「あははは、それはどうも。栗林さんには、いつも妹がお世話になっています」
「明日からは、私達のほうが甘井さんにお世話になると思うから。よろしくね」
「ダビデ先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
笑顔の姉妹に、僕も笑顔で挨拶を返す。これで明日からも安心だ。
その後はみんなで一緒にケーキを食べながら、ポロリちゃんの誕生日を祝った。
参加人数がやけに多いので不思議に思ったのだが、どうやら、どの部屋も解散パーティーを同時に行っていて、寮生は、ほぼ全員参加しているようだ。
今日までのルームメイト達との別れを惜しみながらも、明日からのルームメイト達と挨拶を交わす――これは、来年度へ向けての前夜祭でもあったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます