第259話 実家に帰らない人が多いらしい。
今日は3月20日の日曜日。
修了式が終わり、卒業生と3年生以外も春休みになった。
3年生以外の学年で春休みに実家に帰る人は少数派で、大部分の人は寮に残るようだが、これは、お盆や正月と違って、寮が閉鎖されるわけでも無く、実家に帰っても家族が休みではないからだと思われる。
それに、3月の末日には来年度の部屋割りが発表され、その翌日には引っ越しが行われる為、ずっと寮に残っていた方が準備も楽――という理由もある。
4月は引っ越しや新入生の受け入れ準備などで忙しいので、3月中は寮でゆっくりと過ごしたいところだ。
先週、僕が発注した下着に関しては、無事に納品され、予定通りにポロリちゃんが購入してくれた。
僕が誕生日プレゼント用に購入した下着は、2週間ほど早くポロリちゃんに渡してあげたのだが、ポロリちゃんは遠慮し、13歳になるまで着ないつもりらしい。
小さくてかわいい妹は、変な所で律儀だ。
ちなみに、あのカタログは、僕が預かって、机の引き出しの中にしまってある。
校外持ち出し禁止という事は、寮にいる限り僕が所持していても許される訳で、ポロリちゃんが、また見たくなった時に見せてあげればいいというだけの話だ。
一方、僕のかわいいカノジョは、昨日まで「女の子の日」で、先週の「仲良し」は「お預け」だったのだが、今日は体育館で
――なぜ、段違い平行棒?
そう思って、本人に聞いてみたところ、ネネコさんが「鉄棒」を教わりたくて長内先生に相談したら、「女子の体操競技に鉄棒という種目は無い」と言われたそうで、その代わりに「段違い平行棒」を勧められたらしい。
「段違い平行棒」という種目は、女子のみで行われている体操競技で、うちの学園の体育館にも競技用の備品が一通り
なお、長内先生が生徒に体操を教えているのは、仕事ではなく趣味らしい。
科学部の副部長となった天ノ川さんからは、試料の提供を正式に依頼された。
これは、来年度の新入生獲得のイベントで使うそうだ。
科学部では、昨年ジャイアン先輩が発案した「新入生歓迎、精子観察体験会」を本当に開催するつもりらしい。 (第50話参照)
生娘祭ではプラネタリウムよりも評判が良かったそうで、僕としてもタダで精子の健康状態を検査してもらえると思えば悪くない話である。 (第170話参照)
今週、実家に帰る予定だったジャイコさんは、料理部の
3年生の西岡
西岡さんは、卒業してしまった女将先輩の分まで頑張っているようだ。
そして僕自身は――と言えば、久しぶりに
【202号室】
【足利 芽吹】【升田 知衣】
【安井 愛守】【浅田 千奏】【搦手 環奈】
今日は、脱衣麻雀反対派の
リーネさんは、まだルールを覚えている段階なので、今回は見学のみである。
「ダビデさん、今日は私が勝たせてもらいますよ」
「まあ、年功序列ではそうなりますけど、そう簡単にはやられませんよ」
升田先輩は、今日もメガネが良く似合っていらっしゃる。
「脱衣麻雀なら、お姉さまさえいなければ私の圧勝でしょ?」
「カンナ先輩は
「そうね……それなら今日は、チカナ先輩を応援するわ」
リーネさんから目で許可を求められたので、僕は軽く
これは僕を見限った訳ではなく、単に体のサイズを見て、座る場所が狭くならないように決めただけだろうと思う。
「えーっ! また、ダビデ先輩が私の
「カンナさん、それは僕も同じ感想です。また、カンナさんが
席決めの結果、僕の上家に升田先輩、下家にカンナさん、
この時点で、僕は、なんとなくイヤな予感がした。
「ツモ。1000オールの6本場で、1600オールっす」
案の定、チカナさんが
カンナさんの下家にいるチカナさんは、圧倒的に有利だ。
しかも、上家が升田先輩だと、僕はチーできないのである。 (第83話参照)
自分の妹やカノジョの名前ですら呼び捨てに出来ない僕にとって、先輩の名前を呼び捨てにするなんて、ハードルが高すぎる。
「ダビデ先輩、ファン相手だからって、手加減してくれなくてもいいんすよ」
「チカナさん、容赦ないですね。さすが会員番号4番」
1番がクルミさん、2番がハヤリさん、3番がアイシュさん。
チカナさんは、ダビデファンクラブの会員番号4番だ。 (第147話参照)
「ダビデ先輩、やる気あるの? 私のオヤが回って来ないじゃない!」
「カンナさんだって、似たようなものじゃないですか」
チカナさんの7連荘の内訳は、ツモアガリが4回で、出アガリが3回。
僕が2回振り込んで、カンナさんが1回振り込んでいる。
現状、僕が全裸で、カンナさんはパンツのみ。
升田先輩は、下着とメガネが無事で、制服だけ脱いでいる状況だ。
ここはせめて、チカナさんの下着姿くらいは見ておきたいところだが――
「ロン! 2600の7本場で、4700点ですな」
「はい。……参りました」
――あっさりと升田先輩に
カンナさんのオヤが回って来ないどころか、東1局で対局終了だ。
「姉さん、うまくやりましたね!」
「良くやった! 我が妹よ!」
升田先輩とチカナさんは、姉妹での勝利を喜んでいる。
「チカナ先輩が、こんなに強いなんて驚いたわ」
リーネさんには、チカナさんの上手な打ち方が参考になったはずだ。
「こんなので納得できるわけないでしょ! もう1回よ!」
カンナさんは納得がいかないようだが、トイトイ好きのカンナさんの下家に、スピード重視のチカナさんが座ったら、「鬼に金棒」状態。
これは、いくらなんでも相性が悪すぎるのではないだろうか。
「まあまあ、カンナさん落ち着いて。冷静にならないと次も負けちゃいますよ。
――では、升田先輩、僕に罰ゲームを命じて下さい」
この脱衣麻雀の罰ゲームは、勝者の「お願い」を1つ
あくまでも「お願い」なので、実行不可能な要求は断ることが出来る。
したがって、罰ゲームといえども、特に怖がる必要はない。
「実は、科学部で新入生勧誘の為のイベントを開催しようと思うのだが……」
「あっ、それなら今朝、天ノ川さんから依頼されて、承諾させてもらいました」
「なんですと! ならば、個人的な『お願い』をするとしよう」
「構いませんよ。僕の出来る範囲内でしたら」
「そうか。それならば、罰ゲームは『私と一緒に温泉旅行』でも構わないか?」
「え? 升田先輩と温泉旅行ですか?」
升田先輩からのお願いは、完全に僕の予想の斜め上だった。
このお方は、いったい何を企んでいるのだろう。
「ダビデ先輩と2人きりで? いくらチー先輩でも、それって、どうなの?」
「それは絶対にダメよ! ミチノリさんにはネコさんがいるもの!」
「姉さん、その言い方だと、みんなから誤解されますよ」
カンナさんとリーネさんは、デートの誘いだと勘違いしているようだが、チカナさんの言う通り、それは、ただの誤解だと思う。
升田先輩に可愛がられているという自覚はある。
でも、異性として好かれているという訳ではない気がする。
「そうですね……2人きりというのは問題がありますから、そうでなければ」
「おー、さすが心の友! 宿代は私達が持つから、その時はよろしく!」
私達って、後のメンツは誰だろう。升田先輩の事だから、どうせあと2人以上呼んで、温泉で麻雀でも打つつもりなのだろう。
「えーと、『その時』って、いつ頃ですか?」
「そうだな……早ければ今年の夏休み。遅ければ冬休みってところだ」
夏休みか冬休みなら、特に問題も無さそうだ。
「分かりました。日程が決まったら、早めに教えて下さい」
罰ゲームで温泉に連れて行ってくれるなんて訳が分からないが、いつも僕を驚かせてくれるのが升田先輩だ。ここは「心の友」を信じる事にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます