第258話 下着のカタログがヤバイらしい。
実家に帰る3年生達を校門前で見送った後、僕は管理部の部室である売店のバックルームで、かわいい妹から頼まれた下着のカタログを探してみる事にした。
一応、僕は管理部の副部長で、この売店の店長という事になってはいるのだが、店の仕事は優秀な後輩達が自主的にやってくれているので、僕自身はカタログの保管場所すら、よく分かっていないような状態だ。
事務用の机の引き出しの中には、筆記具と値札、値引き用のシールなど、よく使うものしか入っておらず、カタログ類は別の場所に保管されているらしい。
いや、そもそも僕が探しているカタログ自体が存在していない可能性もあるかもしれない。そんな事を考えてしまうと、探す気力すらなくなってしまう。
後で誰かに聞いてみよう――という結論に至り、探すのを諦めてバックルームから売り場に出てみると、幸運なことに、優秀な後輩達の1人が、セルフレジで買い物をしていた。
「カンナさん、いらっしゃい! 良かった。来てくれて助かりましたよ」
「私はお菓子を買いに来ただけなんだけど。最初の
「202号室は午前中から
カンナさんは3年生だが、実家に帰ってもする事が無く、202号室に泊まっていれば必ずメンツが
「ダビデ先輩は、1人で何してるの?」
「ちょっと探し物がありまして。それがどこにあるのか教えて欲しいんですけど」
「いいけど。何を探してるの?」
「下着のカタログです」
「女の子のなら一応あるけど、男の子の下着カタログは、なかったと思うよ」
「女の子のでいいんです。あるなら1部下さい」
「あれを、いったい何に使うつもり? 変な使い方をしたらダメなんだからね」
「何に使うって、妹に頼まれたんですよ。それに、変な使い方ってなんですか?」
「なんだ、それならそうと先に言ってよ。私、先輩が欲求不満なのかと思って」
「あははは、昨日はよく眠れませんでしたけど、それは一時的なものです」
「サラちゃんも眠そうな顔してたもんね。私でも、そうなっちゃうのかな?」
「隣のベッドで寝たら、初日は誰でもそうなると思いますよ。距離が近いですからね。ところで、カンナさんも、僕の部屋に泊まりに来たいのですか?」
「ダビデ先輩と同じ部屋で寝るのは別に構わないんだけど、天ノ川先輩と同じ部屋で寝るのは、私には、ちょっときついかも……」
格差社会を目の当たりにする事は、カンナさんには、とても辛い事なのだろう。
僕の豊胸マッサージの効果なんて、天ノ川さんの前では無きに等しいはずだ。
「それは、なんとなく分かります」
「それに、今は202号室の方が楽しそうでしょ?」
「卓があって、メンツも揃っていますからね。僕も遊びに行きたいくらいです」
「ダビデ先輩なら、みんな喜ぶと思うよ。私は居候だから許可は出せないけど」
「あははは。カンナさん、話を戻しますけど、今、ちょっと部室まで来てもらってもいいですか?」
「あっ、カタログね。男の先生には絶対に見せちゃダメって言われてるから、気を付けてね。あと校外への持ち出しも禁止だから」
僕がバックルームの入り口を指差してお願いすると、カンナさんは僕に注意事項を説明しながら、こちらに来てくれた。
僕はカンナさんの横に並んで、バックルームのドアを開ける。
「そんな危険なカタログ、僕が見ちゃってもいいんですかね?」
「見るのはいいけど、カノジョにドン引きされても自己責任だからね」
カンナさんは、書類がぎっしり詰まった棚の中からファイルを取り出す。
「下着カタログって、そんなにヤバイものなんですか? 逆に楽しみです」
「まぁ、ダビデ先輩なら、きっと喜ぶだろうね……はいっ、これねっ!」
カタログは、A4サイズの紙が何枚かホチキスで閉じられたもので、表紙の目立つ位置に「校外持ち出し禁止」と書かれていた。
「ありがとうございます。カンナさんは頼りになりますね」
「副店長だもん、当然でしょ? じゃあ、私は寮に帰るから」
「あっ、僕も寮に帰りますから、一緒に帰りましょう」
こうして、僕は無事に下着のカタログを手に入れる事ができた。
次は、かわいい妹と一緒に作戦会議である。
「ポロリちゃん、下着のカタログをもらって来たよ」
「えへへ、今からコタツで、お兄ちゃんと一緒に見るの」
「2人だけってズルくね? ボクも一緒に見ていいよね?」
「ダビデ先輩、私も一緒に見せてもらっても、いいですか?」
「ふふふ……下着のカタログですか。それは面白そうですね」
101号室に戻った僕が、コタツの上に下着のカタログを置くと、ルームメイト達が全員コタツの周りに集まってきた。
ポロリちゃんは僕の
ジャイコさんが左側で、天ノ川さんは僕の正面だ。
「なんか、このカタログ、怪しくね?」
「メーカーが作ったものでは、なさそうだね。管理部で作ったのかな?」
「開いてみてもいい?」
「もちろん。ポロリちゃんの為にもらって来たんだから」
「――わぁ、下着も女の子も、とってもかわいいの」
「マジ? この女の子、チョーかわいいじゃん!」
ポロリちゃんが表紙をめくると下着姿の女の子の写真が目に入って来た。
なるほど。これは、下着カタログというよりも、下着姿の女の子の写真集だ。
モデルの女の子は全て同一人物で、かなり幼く見える。12歳くらいだろうか。
しかも、僕はこの女の子に見覚えがあるような気がした。
「このモデルの子は……もしかして、3年生の
羽生嵐
「アオイちゃんもかわいいですけど、この人は、お姉さんのアカネ先輩ですね」
「ふふふ……懐かしいですね。これは私達が2年生だった頃のアカネさんです。本人から聞いた話では、実家で妹のアオイさんに撮ってもらったそうですよ」
羽生嵐
今は
自分自身を商品に出来るような人は、きっと下着姿くらいなら、他人に見られても恥ずかしくないのだろう。
「2年前の出口アカネさんでしたか。それなら、かわいくて当然ですね」
カンナさんは、このカタログに「欲求不満を解消する為の使い道がある」と言っていたが、これはたしかに使えそうだ。
もしオークションに出したら、恐ろしい値段になるかもしれない。出品する際の商品名は「抜けてかわいい下着カタログ」(ダブルミーニング)でどうだろうか。
――なんて事を考えてしまうと「校外持ち出し禁止」の理由にも納得である。
「これだけかわいいと、私達も新しい下着が欲しくなっちゃいますよね」
「そうですね。でも、残念ながら、このブランドはジュニア専門なので、私に合うサイズのブラは存在しないようです」
親しかった友人と写真で再会した天ノ川さんは、少し寂しそうな表情だった。
その後も、小さくてかわいい妹を膝に乗せたまま、女子同士の下着談義を傍聴させてもらったのだが、主夫を目指す身としては、かなり為になる話だった。
ブラとパンツの上下セットは、見栄えは良くても、片方を無くすと、もう片方も使えなくなるため、あまり実用的ではないらしい。
ポロリちゃんは、上下がどんな組み合わせになってもおかしくないように、自分の持っているパンツに合わせたブラを3つ購入する事に決めたようだ。
僕はそれ以外に欲しい組み合わせをもう1組だけ選んでもらい、ポロリちゃんの誕生日にプレゼントする事にした。
小さくてかわいい僕の妹は、どんな服を着てもかわいいので、新しい下着もきっと良く似合うだろう。
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