第253話 2人で死ねるのなら本望らしい。
「ダビデしぇん
「すみません、アイシュさん。3日連続になりますが、外せない用事なんです」
管理部の後輩であり、ダビデファンクラブの会員でもあるアイシュさんは、まるで捨てられた子犬のような目で僕を見ている。
仕事よりも女を優先するチャラい男――こんな先輩は嫌悪の対象であり、僕自身も許せない存在だと思う。
アイシュさん、ごめんなさい。こんな僕を、どうか許して下さい。
「カノジョとの約束なら、しょうがないでしょ。私だって、カレシがいたら、カレシのほうが最優先で、部活なんてやってられないし」
「そうよね。リーネだって、ネコさんに誘われたら断れないもの」
カンナさんとリーネさんは「仕事よりも好きな人を優先して当然」という考え方のようで、3日連続で仕事をサボるような男でも許してくれるらしい。
「アイシュもダビデしぇん輩を
「それは私も同じだけど、もし自分のカレシがカノジョをほったらかしにしちゃうような人だったら、アイシュちゃんだってイヤでしょ?」
「カンナさんの言う通りね。どんな時でもネコさんを最優先するのがミチノリさんの素敵なところなんだから」
なるほど。カンナさんとリーネさんは僕を許してくれているというよりも、ネネコさんの立場で考えてくれているのか。
自分がカノジョの立場だったら「仕事を捨ててでも自分を優先してもらいたい」という考え方のほうが、ここでは一般的なのかもしれない。
誠実な男よりもチャラい男の方がモテる理由が、なんとなく分かった気がする。
かわいい後輩達の目には、仕事最優先で真面目に働く男よりも、仕事をサボってでもカノジョを最優先する男のほうが「誠実な人」に見えるのだろう。
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて、今日もお先に失礼します。明日は
後輩達へのお礼は明日に回して、ネネコさんのところへ向かう事にしよう。
「ネネコさん、ただいま」
「おかえり。今日も早かったね」
101室に戻ると、ネネコさんは体操着でコタツに入っていた。
卒業式の後は、ずっと午前授業なので、まだ午後2時である。
「ネネコさんが最優先だからね。今日は体操着なの?」
「昨日は、制服のスカートが汚れちゃったじゃん。これなら気にしなくていいし」
「そういう事か。それなら僕も着替えるから、ちょっと待っててね」
昨日は制服のまま、体育館裏の栗林で遊んだ為、ネネコさんのスカートが汚れてしまった。今日は制服を汚さずに外で遊びたいという事なのだろう。
僕はベッドの横で急いで体操着に着替え、その上にジャージを着て準備完了。
ネネコさんはコタツから出ると、ジャージを上だけ着ている。
「ジャージの下は、
「どうせ脱ぐんだから、穿かないほうがよくね?」
「あははは、そうだね。昨日は『スカートって便利だな』って思ったよ」
スカートは脱がさなくても
屋外で「仲良し」するなら、カノジョにはスカートがお勧めである。
「昨日は、いっぱい砂ぼこりが付いちゃったけどね」
「それは悪かったね。ネネコさんがかわいかったから、つい興奮しちゃって」
体育館裏での「仲良し」はとても楽しかった。
ネネコさんは体が柔らかく、かなり無理な体勢でも片足でバランスが取れる為、木に寄りかかった状態でも余裕で、制服に
「――それで、今日はどこへ連れてってくれるの?」
13歳にして性に目覚めてしまったネネコさんが、今日も目を輝かせている。
よくぞ聞いてくれました。ちゃんと考えてありますとも。
「非常階段、体育館裏ときたら、やっぱり体育倉庫でしょ。どうかな?」
「マジ? チョーエロくね?」
童貞の妄想で、人気ナンバーワンである体育倉庫。
僕は、もう童貞ではないが、体育倉庫が絶好の
「この格好で行けば、もし誰かに見つかっても言い訳できるでしょ?」
「合体してたら、無理じゃね?」
「あっはっはっ、じゃあ、絶対に見つからないようにしないとね」
――という訳で、ネネコさんと僕は体育館の横にある体育倉庫に来た。
うちの学園は、災害時の安全を考慮して設計されている為、トイレのドア以外にはカギが付いていない。それは体育倉庫においても同様だ。
もちろん、他人の物を盗むような生徒がいたら困るので、その辺りは、おそらく面接試験の時に厳しくチェックされているのだろう。
売店には防犯カメラが付いているが、万引きをするような生徒は誰もいない。
――ガチャ。
念のため左右を確認してから、2人でこっそりと体育倉庫に入る。
中は真っ暗ではなく、小窓から少しだけ日が差しており、ほどよい薄暗さだ。
僕は、出来るだけ音を立てないように、そっとドアを閉める。
この倉庫の素晴らしいところは「さあ使って下さい」とばかりに、目立つ位置に「走り高跳び用のマット」が置いてあるところである。
「そっか。ミッチーは、これを狙ってたのか」
「これなら、フカフカだし、いい感じでしょ?」
「うん。ここなら終わった後、昼寝も出来そうじゃん」
「陸上部で使うような事は、ないよね?」
「高跳びが好きなのは、シカバネ先輩くらいだったから、多分平気じゃね?」
「もし、誰か来ちゃったら、どうしようか?」
「その時は、2人で跳び箱の裏に隠れようよ」
「了解。じゃあ、早速ここで始めようか」
「コンドームは、持って来てるの?」
「ほら、昨日も3個使ったから、あと4個残ってるよ」
「マジ? 今日は4回って事?」
「あっはっはっ、無理に全部使う必要もないんだけどね」
「でも、明日は白日祭だし、多分ボク、来週あたりに生理が来るから」
「それで今日のうちに4回なのか。もちろん、僕は全然構わないよ」
夕方までに連続4回。かなりハードだが、かわいいカノジョの為に頑張ろう。
ここからは「エロ注意」の話です。
スマホでご覧の方は、念のため壁を背にしてからご覧ください。
なお、登場人物には全く罪はありません。汚れているのは筆者のみです。
運営様から修正依頼が来た場合は即刻修正致しますので、ご了承下さい。
性描写が過度であった場合は「第253話に問題あり」とご連絡下さい。
――では、準備が出来た方はどうぞ。
「ネーちゃん……」
「ミッチー……」
薄暗い体育倉庫の中で、ネネコさんと僕は、深い愛情を確かめ合っていた。
誰にも邪魔されない2人きりの時間。
この時間が永遠に続けばいいのに――そう思っていたのだが――
「只今より避難訓練を開始します。関東全域で大きな地震が発生しました。生徒は全員、速やかに校庭へ避難して下さい――」
最寄りのスピーカーから緊急放送が聞こえる。
「繰り返します。只今より避難訓練を開始します。関東全域で大きな地震が発生しました。生徒は全員、速やかに校庭へ避難して下さい――」
絞り出すような声で避難指示を出しているのは、広報部の
ヨシノさんの時は「訓練だから急いで!」って感じに聞こえたが、遠江さんの場合は、本当に大きな地震が発生してしまったかのように聞こえる。
「これは、まいったね。どうしようか?」
避難訓練が年に2回あるという事は、秋の避難訓練の時に天ノ川さんから聞いていたが、そんな事は、すっかり忘れていた。 (第134話参照)
今日は3月11日。11年前に、東日本大震災があった日だ。
僕が5歳の時だったので、ネネコさんは、当時まだ2歳だったはずだ。
「ボク思うんだけどさ、これで人生が終わりだったら、途中でやめないよね?」
「たしかに。避難しても絶対に助からない状況なら、幸せな最期がいいね」
「だからさ、今日は2人で一緒に、ここで死のうよ」
「そうだね。それが僕達にとって、一番、幸せな人生なのかもしれないね」
――途中でやめずに続行――これが、僕達2人が出した結論だった。
「さあ、急いで避難しないと」
――賢者モードに入った僕は、大急ぎでネネコさんに服を着せ、自分もジャージを着てから、体育倉庫を出る。
4回の約束が1回で終わりになってしまったが、それは仕方がない事だ。
「あっ! お兄ちゃんとネコちゃん、めーっけ!」
「ふふふ……、お2人は、やはりここでしたね」
「長内先生、すごくないですか? なんで、ここにいるって分かったんだろう?」
体育倉庫の前には、3人のルームメイト達が集合していた。
どうやら、僕達を捜しに来てくれたようだ。
「天ノ川さん、すみません。また、ご心配かけてしまって」
「ホントに揺れてたから、ボク、マジで死んじゃうのかと思ったよ」
「ネネコさんは、甘井さんと一緒にいる事が分かっていましたから、私は何も心配しておりませんでしたよ」
「お兄ちゃんとネコちゃんがここにいる事はね、ココロ先生が教えてくれたの」
さすが長内先生。生徒の事をよく分かっていらっしゃる。
「ダビデ先輩は、こんな薄暗いところで、ネネコちゃんと何をしていたのですか?」
「何って、多分、ジャイコさんのご想像通りですよ」
「あっ、やっぱりそうでしたか。サラちゃんには、ナイショにしておきますね」
秋の避難訓練に続いて、春の避難訓練でも101号室が最後になってしまった。
天ノ川さんにも、ジャイコさんにも、ポロリちゃんにも、申し訳ない。
だが、仮に避難が遅れて死んでしまったとしても、ネネコさんを抱いたまま一緒に死ねるのなら悔いはない――僕は心の底から、そう思っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます