コウクチ先生の裏話 その11

第239話 俺の歳は生徒の倍になるらしい。

 学年末試験の採点が終わり、通知表の記入も終わった。


 次の日曜日は、優嬢ゆうじょう学園の卒業式。

 2年前に俺が教師になって初めて受け持った生徒達を、送り出す日である。


 一昨年の4月には、まだあどけなさが残っていた16歳の少女達が、2年の時を経て18歳の女性となり、この学園から巣立っていく。


 担任としての苦労は山ほどあったが、今となっては、全てが良い思い出だ。


 卒業生を送り出した後は、すぐに新入生の受け入れ準備が始まる。

 来年度の俺は、新1年生を担当させてもらえるらしい。


 うちの学園は中高一貫なので、新1年生は小学校を卒業したばかりの子供達。

 子供達の年齢は12歳で、俺は今24歳だから、ちょうど生徒の倍の年齢だ。


 卒業生と俺の年齢差は6歳だが、新入生と俺の年齢差は12歳なので、教え子達との年齢差も、ちょうど倍になるという事か。俺もとしを取ったものだ。 




「せんせっ! 今、何してるの?」


 入学予定者のリストに目を通していると、横から嫁に声を掛けられた。


 こんな遅い時間まで職員室にいる教師は俺だけなので、生徒が勝手に入って来たところで、文句を言う人など誰もいない。 


「おう。通知表の記入が終わってな、新入生の名簿を確認していたところだ」

「新入生の名簿? 来年度は、せんせが1年生の担任なの?」


「ああ。4月からは、俺が1年生の担任らしい。今の内に、クラス全員の名前を覚えておこうと思ってな」


「もしかして、もう浮気しようとしているの?」

「なんでそうなる。これは仕事だし、1年生という事は、まだ12歳だぞ」


 冗談なのか本気なのか分からんが、嫁は俺の浮気を心配しているらしい。

 いくら俺でも、うちのロリより年下の子供に浮気などするわけがない。


「男の人って、相手の女の子は若ければ若いほどいいんでしょ?」

「それはそうかもしれないが、いくらなんでも12歳は若すぎるだろう」


 それ以前に、生徒に手を出してしまったら俺は職を失うのだが。


「でも、私にナイショでミユキの妹に、お昼おごったりしてたじゃない!」


「あれは、ポロリの身内として、ルームメイトの皆さんにポロリと仲良くしてもらおうと思っただけだ。決してやましい考えではない」


 去年の4月に、うちのロリがルームメイト達を連れて、うちに遊びに来たことがあったのだが、その時の事を嫁はまだ根に持っているらしい。 (第27話参照)


 あの時は甘井君もいたし、天ノ川も俺の家とは知らずに遊びに来たというのに、どうして俺の嫁は、こんな些細ささいな事を、ずっと覚えているのだろうか。


「罰として卒業式の日は、卒業生全員に、お昼をおごってもらうからねっ!」

「俺も参加させてもらえるのか? それくらいなら、お安い御用だが」


「うん。お別れ会は『ぽろり食堂』でやる予定なんだけど、いいよね?」

「それは、もう姉に伝えてある。3月6日のお昼は、卒業生の貸し切りだ」


 卒業式の後、「ぽろり食堂」で卒業生だけの「お別れ会」を行うらしい。

 生徒達の声は大きく、会話の内容を隠す気もないので、担任には筒抜けだ。

 俺のおごりとは知らなかったが、ランチタイムに満席なら姉も喜ぶだろう。


「そうなの? さすがせんせっ!」


「俺の教え子達だから、俺が全員分おごるのは全然構わないが、お前は俺と財布を共有しているって事を自覚しておいてくれよ」


「あっ! そうか。それなら、やっぱり会費をもらったほうがいいかな?」


「それを考えるのは、主婦であるお前の仕事だ。うちも子供を3人以上育てられるように、家計は、しっかりと管理してくれ」


「じゃあ、おごりは今回で最後ね。新入生には絶対おごっちゃダメだからね」

「おう。今回は、俺から教え子達への卒業祝いだ」


 俺の教え子達は、俺の嫁を除いて全員リッチな旦那だんな様に嫁いだので、多少会費を取ったところで、おそらく誰からも文句は言われないだろう。


 だが「ぽろり食堂」のランチなら、全員におごっても、1万円も掛からない。

 最後に担任の俺を立ててくれる嫁の判断は正しいと思う。




「その名簿、私も見ていい?」

「ダメだ。個人情報だからな」


 入学予定者のリストには、新入生の名前だけでなく、住所や連絡先なども書いてある。入学してから本人に聞く分には問題ないが、まだ入学すらしていない生徒の個人情報を第3者に教える訳にはいかない。


「えー! もしかして、クレジットカードの番号でも書いてあるの?」

「小学生が、クレジットカードなんか持っている訳ないだろう」


「じゃあ、スリーサイズとか?」

「お前は入学する前に、スリーサイズを測ってもらったのか?」


「冗談だよ。名前だけならいいでしょ? この子の名前の参考にもなるし」

「それもそうだな。でも、名前だけだぞ」


 嫁は大きくなった自分のお腹に手を当てている。


 5月に生まれる予定である俺達の娘の名前はまだ決まっていないので、参考にはなるかもしれない。


「さすがせんせ、話が分かるね!」

「お前の『お願い』には、『はい』か『いえす』しか選択肢がないようだからな」


 担任としては、生徒を甘やかしすぎるのもどうかと思うが、自分の娘を産んでもらう身としては、娘の母親の機嫌を損ねる訳にはいかない。


 このくらいの情報開示なら、きっと校長先生も許してくれるだろう。


「ゾンビの妹と、ハカリの妹の妹が入学するって聞いたんだけど、どう?」

鹿跳しかばねの妹と、口車くちぐるまの妹の妹……つまり柔肌やわはだ君の妹か、ややこしいな」


「いたいた! ほら、フランちゃんと、アラワちゃん」

鹿跳しかばね不乱ふらん柔肌やわはだあらわか。2人とも変わった名前だな」


「でも、普通に読めるじゃない。もっと変わった名前の子も多いでしょ?」

「そうだな。七五三しちごさんと書いて、ナゴミなんて子もいるぞ」


「ナゴミちゃんか。かわいい名前だね。でも大木おおき七五三なごみって名前はどうなの?」

「親も役所も気付かなかったのか? これは、可哀相かわいそうだな」


 俺の名前もかなりひどかったので、この名前は他人事とは思えん。

 この子は自分の苗字みょうじを早く変えたくて、この学園を選んだのかもしれないな。


「こっちは、すじって書いて、スージーちゃん? キンちゃんじゃないよね?」

「スージーで正解みたいだぞ。これはキラキラネームって言うヤツなのか?」


 こういう名前を付けられた本人は、どう思っているのだろうか。

 まあ、本人が気に入っていれば、何も問題はないのだろうが。


「この子は? サンリンシャちゃん?」

三輪みのわやしろだそうだ。去年、生娘祭を見学に来ていた子だが」

「あー、そう言えば『シロタン』って呼ばれてた子がいた気がする」


「もう1人が小瀬こぜ新鈴にいれで、2人とも試験には合格したらしいな」

「そうそう、もう1人は『ニータン』って呼ばれてたみたい」


「甘井君が、生娘祭で2人の案内をしてあげたそうだから、もし寮で甘井君と会ったら、2人が無事に合格した事を伝えておいてあげてくれ」


「うん、そう伝えておく。知っている子が合格すると嬉しいよね」

「そうだな」




 俺達は、その後も2人で新入生の名簿を見ていたが、たった18名なので、すぐに全員の名前を確認し終わってしまった。


「どうだ? 娘の名前の参考にはなったのか?」

「全然。子供に名前つけてあげるのって、やっぱり難しいね」


「この子が生まれた後も、あと2人以上は産んでもらう予定だからな」 

「じゃあ、名前は3つか4つくらい、今から考えておかないとね」




 卒業する18人の教え子達の内、17人と会えなくなっても、俺の隣には智代ともよがいる。さらに、これからは、毎年のように俺の家族が1人ずつ増えていくのだ。


 俺の嫁以外の17人の教え子達も、旦那様との間に、かわいい赤ちゃんを3人以上産んで、日本の未来に希望をもたらしてくれる事だろう。


 卒業生の諸君、俺が払った年金が無駄にならないよう、どうか頑張ってくれ!

 俺も智代と2人で頑張るからな。お前たちも頼んだぞ!




 ろりねこ【アマアマ部屋のロリと猫】

   「コウクチ先生の裏話」 完


 ご愛読ありがとうございます。

「ろりねこ」の本編はまだ続きますので、今後もよろしくお願い致します。

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