第173話 僕へのプレゼントだったらしい。

 行為終了後、「性交セックスしないと出られない部屋」の扉は開き、僕達のパーティーは村へ帰還した。他の2組のカップルは、ただ添い寝していただけだったようだが、1組だけでも性交に成功していれば「第2の試練」は合格なのだそうだ。


「きゃー! ダビデ先輩の『お尻の処女』をもらっちゃいましたよ!」


 ゲーム終了後も、大場おおば迎夢げいむさんの興奮は治まらなかった。


 大場さんのプレイヤーキャラクターであるゲードリームさんは、童貞を卒業したので魔法が使えなくなってしまったが、そんなことはどうでもいいらしい。


「あれは、ほぼ『強制性交』な気がしますけど、あんな事が許されるんですか?」


「そんな法律、この世界にはありませんし、これはカップリングを楽しむゲームなんですから、気にしちゃダメですって」


 33歳の大男を演じていたとは言え、カップリング相手は2年生のお嬢様だ。

 かわいい後輩と仲良くなれたと思えば、悪くはなかったのかもしれない。


「甘井さん、次は是非ショタキャラで参加してみて下さい」


横島よこしまさんが、お姉さんキャラで参加して、僕を慰めてくれるのでしたら、喜んで参加させて頂きますけど」


「『ショタ×ショタ』じゃダメですか?」


「ダメとまでは言いませんが、全員男性キャラでしたら、遠慮させて頂きます」


 横島さんは、やはり小さな男の子が好きらしい。僕のキャラをお姉さんキャラにすれば「おねショタ」にはなるが、立場が逆では感情移入も出来そうにない。


「どう? リーネちゃん達も楽しめた?」


 ゲームマスターの交合こうごう先輩が、戦士ファイター役の3人に感想を聞いている。


「リーネには、クロエ先輩が10歳の男の子で、ゲーム先輩が33歳のオジサンにしか見えなかったわ」


「楽しかった! ニーレも男の子にしておけば、もっと良かったかも」

「シロは、最後のビデタンの顔が面白かった!」


 小瀬こぜさんと三輪みのわさんも、それなりに、このゲームを楽しめていたようだ。

 聖職者のダビデ君としては、この2人が将来腐らない事を祈るしかない。


 ちなみに、ダビデ君が信仰している「マラーの神」は、僕が勝手に決めた設定ではなく、ゲームマスターの交合先輩が考えてくれた設定である。


「2人が合格したら、また一緒に遊びましょう。次回は男性キャラで」


「クロエ先輩、どうして、先輩方は男性キャラにこだわるのかしら?」


「このゲームの名前は『NGナイスガイNGナイスゲイ』で、元々そういうゲームなの。私が1年生だった頃に、当時の文芸部の部長さん、保茂田ほもだ衣透いすき先輩が作ったゲームです」


 普通のテーブルトークRPGでは「挿入判定」とか「射精判定」なんて必要ないだろうから、相当マニアックなシステムだ。


 ナイスガイ&ナイスゲイ――やはり、僕には向かなそうなゲームである。


「リーネさん、そろそろ生娘祭の終了時刻です」

「そうね。2人を途中まで送ってあげましょう」


 僕達4人は文芸部の皆さんに挨拶あいさつをしてから、5年生の教室を後にした。




「ちょっと、そこの男子!」


 1階の廊下を昇降口に向かって歩いていると、1年生の教室の前で、クラスメイトの大石おおいし御茶みささんから呼び止められた。


「はい。何かご用ですか?」


「これ、余ったから、あげる。みんなで分けて食べて」

「ありがとうございます。いただきます」


 大石さんがくれたのは、茶道部の喫茶店で配っていたクッキーだった。

 食べ放題なので多めに作って、余ってしまったらしい。


 2袋分頂いたので、2袋ともリーネさんに渡すと、リーネさんは小瀬さんと三輪さんに1袋ずつ渡し「これでいいのよね?」と僕の顔を見上げる。


 僕は小学生2人の喜ぶ姿を見ながら「もちろんです」と大きくうなずいた。




「ダビデ先輩、丁度いいところへ!」


 売店の前に差し掛かると、2年生の杉田すぎた流行はやりさんから声を掛けられた。


「はい。何かご用ですか?」


「すみません、B4の紙が切れてしまったので、補充をお願いします」


 どうやら、コピー機の用紙が切れてしまったらしい。

 売店に置いてあるコピー機の用紙の補充は、管理部員である僕の仕事だ。


「分かりました。すぐに補充しますので、少々お待ちください」 


 リーネさん達にも、少しだけ待ってもらい、急いでB4の用紙を補充する。


「――お待たせしました」


「ありがとうございます。クルミとイリベーが描いた先輩の絵を、ファンクラブ会員の人数分コピーしていたのですけど、先輩にも差し上げましょうか?」


 尾中おなかさんと入部いりべさんが描いた絵は、杉田さんに没収されたと聞いていたが、杉田さんは2年生の人数分だけコピーしてから返すつもりのようだ。


「いえ、僕は結構です」


 残念ながら、この絵はクッキーと違って小学生に、お土産みやげとして渡すわけにはいかないので、頂くのは遠慮しておいた。




 昇降口を出ると、スニーカーブーツに履き替えた小学生2人の背が5センチほど高くなり、少し大人びて見える。


 正門では、朝と同じように、リーネさんと小瀬さんが2人で一緒にゲートを通過し、僕は三輪さんとぴったり並んでゲートを通過した。 (第163話参照)


「リータン、ここでお別れ?」

「ううん、ノリタンと一緒に、途中まで送ってあげるわ」


「ノリタン、どこまで送ってくれるの?」

「そうですね。生娘神社まで一緒に行きましょうか」


 小瀬さんと三輪さんは、生娘神社の前の道を通って来たそうなので、リーネさんと僕は生娘神社まで送ってあげることにした。




「小瀬さんと三輪さんが、無事に合格出来ますように」

「ニータンとシロタンが、試験に合格して、春にまた会えますように」

「ニーレ、ぜったいに合格する!」

「シロも合格するー!」


 お別れの前に、4人で生娘神社の石段を上り、一緒に合格の祈願をする。

 そして、石段を下りて、分かれ道まで戻ったところで解散だ。


「それじゃ、ここでお別れね」


「今日は、とっても楽しかったー」

「シロも、楽しかったー」


「それは良かったです。2人とも、また春にお会いしましょう」

「ニータン、シロタン、試験頑張ってね!」


「リータン、またねー!」

「ノリタンも元気でねー!」


 リーネさんと2人で、小学生の2人を見送る。

 2人は時々こちらを振り返り、手を振りながら帰って行った。


「リーネさん、僕達も帰りましょうか」

「そうね。門限に間に合わなかったら大変だわ」




 帰り道では、リーネさんと2人で楽しくおしゃべりをしながら歩いていたら、学園までは、あっという間だった。


 部室に戻って下高したたか先輩に報告を済ませ、今日の任務は完了だ。


「リーネさん、お疲れ様でした」

「ミチノリさん、今日はリーネも楽しかったわ」


「僕も楽しかったです。では、また明日、部室で」

「また明日ね。ごきげんよう」


 リーネさんの部屋はお隣の102号室なので、101号室の前で別れる。


「ただいまー」

「お兄ちゃん、おかえり」


 部屋に戻ると、僕のかわいい妹が、いつものように迎えてくれた。


「ポロリちゃん、ネネコさんの様子はどう?」

「ネコちゃんはベッドでお昼寝しているから、お兄ちゃんが起こしてあげて」


 2段ベッドの梯子はしごを上り、ネネコさんのかわいい寝顔をのぞき込む。


 天ノ川さんは、まだ戻っていないようだが、もうすぐ夕食の時間なので、そろそろ起こしてあげたほうがよさそうだ。


「ネーちゃん、夕食の時間だぞー」

「ん? ……ミチノリ先輩。帰ってたんだ」


 僕が耳元でささやくと、ネネコさんはすぐに目を覚ました。


「調子はどう? 普通に起きられる?」

「心配しすぎじゃね? ボクは、ちょっとダルいだけだから」


「無理しないほうがいいと思うよ。はい、これ、中吉なかよしさんからのプレゼント」


 僕は、花戸はなどさんから預かった小さな猫のぬいぐるみを、ネネコさんに手渡した。


「え? なんで、これをチューキチがボクにくれるの?」

「花戸さんから預かったんだけど、直接渡すのが恥ずかしいみたい」


「何かカン違いしてない? これ、ミチノリ先輩へのプレゼントじゃないの?」

「僕の誕生日には『スペードのキング』のバッグをくれたはずなんだけど……」


 スペードのキング、すなわちダビデ王の刺繍ししゅうの入ったバッグは、花戸さんと中吉さんの姉妹から頂いたもので、大切に使わせてもらっている。 (第155話参照)


「それは、チューキチのお姉さまとチューキチが一緒に作ったってヤツでしょ? それとは別に、チューキチは自分からのプレゼントとして、猫のぬいぐるみを渡すつもりだったらしいよ」


「そうなの?」


「『ネコのカレシは猫が好きなんでしょ?』とか言ってたから、多分間違いないと思うよ。完成が遅れて当日に渡しそびれたから、恥ずかしかったんじゃないの?」


 ネネコさんは、そう言いながら、猫のぬいぐるみを僕に返してくれた。


「あー、それで、この猫は、なんとなくネネコさんに似ているのか」


 僕が好きなのは猫ではなくネネコさんであることを、中吉さんは分かってくれているようだ。


「まあ、ボクのほうが、ずっとかわいいけどね」

「それは、もちろんそうだけど、この猫も結構よく出来ていると思うよ」


「それは、作った人に言ってあげれば?」

「そうだね。後でお礼を言って、何かお返ししないと」


「チューキチの誕生日は来月だから、その時でいいんじゃね?」


「中吉さんは12月生まれなの? どんなプレゼントを渡したらいいのか、僕には全く見当がつかないから、後で相談してもいい?」


「じゃあ、当日までに、何が欲しいのかボクが本人に聞いておいてあげるよ」


 この辺りは、ネネコさんに任せておけば心配ないだろう。


「ありがとう。この猫のぬいぐるみは、僕の机の上に飾ることにするよ」


 僕がベッドの梯子を下りると、ネネコさんも続いて下りて来た。

 ネネコさんと話をしている間に、天ノ川さんも部屋に戻って来たようだ。


 天ノ川さんと挨拶を交わしながら、早速、机の上に中吉さんから頂いた猫のぬいぐるみを飾ってみる。


「わー! この猫さん、ネコちゃんにそっくりなの!」

「なんでロリは、猫に『さん付け』で、ボクには『ちゃん付け』なわけ?」

「ふふふ……それはきっと、私の妹のほうが、猫よりかわいいからですよ」


 今日は楽しい1日だったが、僕にとっては、やはりこの部屋の居心地が一番だ。

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