第174話 スキンシップは大切な事らしい。

 生娘祭から1週間が経過した水曜日の放課後。

 売店では管理部の後輩たちが、いつも通りに品出しの作業を行っている。


 3年生のカンナさん、2年生のアイシュさん、1年生のリーネさん。

 この3人は、4年生の僕なんかより、ずっと仕事熱心だ。


「ダビデしぇんぱいは、もう帰ってしまわれるのでしゅか?」


 僕がいつもより早く発注作業を終え、バックルームの机の上に3人分のお菓子を用意しただけで、アイシュさんには、僕の次の行動を見抜かれてしまったようだ。


「アイシュ先輩、それは仕方ないわ。今日は水曜日ですもの」

「そっか、陸上部がお休みの日か。それなら、仕方ないよね」


 リーネさんのヒントだけで、カンナさんもすぐに正解に辿たどり着いた。管理部の後輩たちは、みんな頭の回転が速くて、しかも気が利くので非常に助かる。


「すみません、今日はルームメイトとの約束がありますので、これで失礼します。発注作業は済ませてありますから、後の事は、よろしくお願いします」


「分かったわ。ネコさんによろしくね」

「『ルームメイト』じゃなくて、素直に『カノジョ』って言えばいいのに」

「しょれを、ファンの前で言わないところが、ダビデしぇん輩なのでしゅ!」


 3人の後輩達に頭を下げて、部活を早退する。

 ゆるい雰囲気の部活で、本当に良かった。






「ネネコさん、お待たせ」

「やっと来たか~、おそいよ~」


 101号室に戻ると、僕のかわいいカノジョは地味なセーラー服姿のまま、1人で先に準備を始めているようだった。


「あははは、相変わらずだね」

「え? 何の話?」


「僕が初めてこの部屋に来た時にも、ネネコさんに、そう言われたから」

「そうだっけ? そんな昔の事、ボク、もう覚えてないや」


「そう? 僕は昨日の事のように覚えているけどね」

「そんな事より、早くヤろうよ!」


 今日はネネコさんと2人での共同作業。

 ネネコさんは、ヤル気満々だ。


「もう、布団まで用意してあるんだ?」

「これは、お姉さまが昼休みに用意してくれたんじゃね?」

「さすが天ノ川さん、気が利くね」

「あとは、これを付けるだけじゃん」

「ネネコさんが、出しておいてくれたの? それなら、すぐに始められるね」

「じゃあ、早く付けてよ」

「付け方は……見れば分かるか。難しくはなさそうだね」


 これを取り付けるのは、もちろん初めての事だが、なんとかなるだろう。


「ボクも手伝ってあげようか?」

「ありがとう。でも、これくらいなら、僕1人で出来るよ」


「……どう?」

「うん、上手く付けられたみたい」


「付けてくれてありがとね。これであったかくなるんでしょ?」

「上に布団を掛けないと、寒そうだよ」


「ああ、そうだった――こんな感じでいいの?」

「うん、いいと思うよ。じゃあ、テーブルを置いてスイッチを入れてみるね」


 ――カチッ。


「おーっ、チョーあったけー。ミチノリ先輩も一緒に入ろうよ」

「そうだね。じゃあ、今日はネネコさんの正面で――」


 僕達が101号室のリビングで使っていた小さなテーブルは、ヒーターを外したコタツだったので、今日は2人でそのテーブルをコタツに戻す作業を行った。


 ネネコさんが入り口側のいつもの場所に座ったので、僕はネネコさんの正面の、普段はポロリちゃんが座っている場所に座る。


 こんなにかわいいカノジョと2人きりで、まったりとコタツに入れるなんて、この寮に来る前までの僕には想像すら出来なかった事だ。


 僕はあぐらをかいた状態で、脚の上にこたつ布団をかぶせて、くつろいでいる。

 ネネコさんは、嬉しそうな顔を僕に見せてくれていて、とてもいい雰囲気だ。


 かわいいカノジョの笑顔をボーっと見つめているだけでも、僕の心はいやされる。

 こんな時は無理に話題を探さなくても、いいのかもしれない。


「――うほっ!」


 安心して、すっかり気を抜いていたところで、僕の股間こかんに衝撃が走った。


 ネネコさんはニヤニヤと僕の様子をうかがいながら、靴下を履いた足でモゾモゾと僕の股間をもてあそんでいる。


 僕は反射的に腰を引いたが、ネネコさんは更に脚を伸ばして追撃してきた。


「ネネコさん! それは、お嬢様としては『はしたない』行為ですよ!」

「ミチノリ先輩って、『ムッツリスケベ』だよね? ホントは嬉しいんでしょ?」


 天ノ川さんのマネをしてみたが、僕では逆効果らしい。


「嬉しくても、そこはマズイって、うほっ! うひょひょひょひょ!」

「もう、こんなにカタくなってるじゃん。リーネより反応よくね?」


「あっはははっ……ダメだって、その技は、お姉さまに封印されたはずでしょ?」

「そんなの、ミチノリ先輩がダマってれば、バレないじゃん」


 まずい、このままでは暴発の恐れがある。僕のかわいいカノジョがスキンシップを求めているのであれば、ここは反撃するしかあるまい。


 本来ならば絶対に許されない行為であっても、相手がネネコさんなら話は別だ。

 僕は自分の脚を伸ばして、ネネコさんの脚の付け根を内側から狙う。


 ネネコさんの脚は細くて長いが、絶対的な脚の長さ比べでは、身長が20センチほど高い僕のほうが有利だ。


「――うはっ!」


 僕のつま先が、ネネコさんのスカートの中の柔らかい部分に触れると、ネネコさんの顔色が変わった。まさか反撃されるとは思っていなかったのだろう。


 僕がそのまま足の指を動かすと、ネネコさんの足は僕の股間から離れた。


「はあ……はあ……はあ……はあ……ミチノリ先輩も、なかなかやるじゃん」


 ネネコさんの顔が赤くなり、僕の欲棒も鎮まらない。

 この後、僕は、どうしたらいいのだろうか。




「ただいまぁ!」


 そんな状況の中、僕のかわいい妹が帰ってきた。


「ポロリちゃん、おかえり」

「あっ! いつの間にか、テーブルがコタツになってる!」


 ポロリちゃんは、コタツに気付いて目を輝かせている。


「さっき、ネネコさんと一緒に組み立てたばっかりだからね」

「ロリも一緒に入ればいいじゃん。あったかいよ」


 ネネコさんは、何事も無かったように、ポロリちゃんを誘っている。


「うんっ! ――お兄ちゃん、ポロリも一緒に入っていい?」


 ポロリちゃんは、コタツに入る前に、なぜか僕に許可を求めてきた。

 ネネコさんが許可したのなら、僕に断る理由など、あるはずがない。


「もちろん。遠慮なく入ってよ」

「えへへ、おじゃましまぁす」


 僕が許可を出すと、ポロリちゃんはいている左右の場所ではなく、僕とコタツの隙間に入り込み、そのまま腰を下ろす。


「――え?」


「マジ? それって、ちょっとズルくね?」

「ポロリは、いつもここだもん。お兄ちゃんがたまたま先に座っていただけなの」


「ごめんね、ポロリちゃんの場所なのに勝手に座っちゃって。今、隣に移るから」

「ダメだよぉ! ポロリは、このほうがあったかいもん」


 ポロリちゃんは僕の両脚を押さえて、そのまま体を預けてきた。

 どうやら、逃がしてもらえないらしい。


「たしかに、僕もこのほうがあったかいけどさ、ほら、ネネコさんの前だし……」


「ミチノリ先輩、そのままロリを押さえててよ。ボクがなんとかするから」

「了解。――ポロリちゃん、そのままじっとしててね」


 僕は、かわいい妹を後ろから抱きかかえる。僕の腕がポロリちゃんの胸に当たらないように注意しながら、おへその上あたりに両腕を回し、体を固定させた。


「えへへ、ちょっとだけ、くすぐったいかも」


 かわいい妹とのスキンシップは、僕にとっても幸せなひと時ではあるが、ネネコさんとしては、あまり面白くはないのだろう。


 ごめんね。ポロリちゃん。


「――きゃはっ!」


 僕の目の前で、かわいい妹が体をピクリと震わせた。

 ネネコさんの攻撃が始まったようである。


「きゃははははっ! ネコちゃん! くすぐったいよぉ!」


 ポロリちゃんのお尻が、僕の欲棒に押し当てられた状態で、心地よく震える。

 このままでは、本当に暴発してしまうかもしれない。




「只今、戻りました」


 そんな僕を救ってくれたのは、部活を終えて帰ってきた天ノ川さんだった。


「天ノ川さん、お帰りなさい」

「ふふふ……コタツの準備、ありがとうございます」


「どういたしまして。天ノ川さんも、ご一緒にどうですか?」 

「今日は、いつもと違う座り方なのですね。この場合、私の席はこちらですか?」


 天ノ川さんは、ポロリちゃんが僕のひざの間に座っている事を確認すると、ネネコさんの背後に回り、後ろから抱えるような体勢でコタツに入った。


「――お姉さま?」

「ふふふ……たしかに、このほうが1人でコタツに入るよりも温かいですね」


 ネネコさんは、お姉さまに背中から抱きつかれた状態で固まっている。


「えへへ、ポロリもね、とってもあったかいの」

「そうだね」


 小さくてかわいい妹は、腕の中で振り返って、僕の顔を見上げる。

 カノジョにとっても、妹にとっても、スキンシップは大切な事らしい。

 

 その後は4人でコタツに入ったまま、夕食の時間まで、まったりと過ごした。

 冬の生娘山は雪に包まれるそうだが、アマアマ部屋の中は、ずっと暖かそうだ。

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