第146話 紅白の意味が理解できたらしい。
火曜日の2時間目が終わり、3時間目が始まる前の事。
1人で廊下を歩いていると、背後から静かな足音が近付いてきた。
「ミチノリ先輩!」
振り返るまでもなく真横に並ばれ、見慣れた笑顔に下から
「ネネコさん? こんなところで何やってるの?」
「ちょっとトイレに行ってて、遅くなっちゃった」
次の時間は柔道の授業なので、1年生と僕以外の4年生は更衣室で着替えているはずなのだが、ネネコさんはセーラー服のままで、柔道着もお持ちでない様子だ。
「次の時間は柔道でしょ? 着替えなくていいの?」
「うん。今日は、ボクもミチノリ先輩と一緒に見学するよ」
ネネコさんは、次の授業を見学するらしい。
僕は先週も柔道の授業を見学しているので、今日で2回目の見学だ。
もしかして、僕に合わせて授業をサボってくれるというのだろうか。
気持ちはありがたいが、そんな理由で後輩を休ませるわけにはいかない。
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくから、ネネコさんは授業を受けてよ」
「べつに、ミチノリ先輩の為に見学するってわけじゃないんだけど……」
「そうなの? でもサボりは良くないし、ネネコさん柔道得意でしょ?」
「だからさ、サボりじゃないんだって。ボクだって調子悪いときくらいあるよ」
ネネコさんと2人で並んで柔道場に入ると、その場にいた柔道着姿のお嬢様方が一斉にこちらに注目し、どよめきが起こった。
僕と目が合った人は、軽く手を振ってくれたり、笑顔で
「ネコがついに動いたか。どうする? ネコのカレシ」
「リボン、邪魔しちゃダメよ。お友達として、温かく見守ってあげないと」
比較的声の大きい、
「お姉ちゃんは、ミチノリさんとネコさんが本当に付き合っていると思う?」
「さあ、どうだろうね。でも面白そうだから、次の新聞に載せちゃおうかな」
距離の近いリーネさんとヨシノさんの会話も、こちらに筒抜けである。
自分の考えを隠そうとはせず、会話して共感を求めるのが、お嬢様方の習性で、その会話の内容が当人に聞こえようが、全くお構いなしのようだ。おそらく、他のお嬢様方も、皆好き勝手に僕たちの関係を想像して楽しんでいるのだろう。
僕自身は、この件に関してどう思われようとも、さほど気にしてはいない。
ネネコさんがイヤな気分にならなければ、それでいいと思っている。
「はーい! みんなー、こっちに集まってー! 出席番号順に2列でねー」
ネネコさんと僕は2人とも出席番号1番なので、普段は先頭にいるのだが、今日は制服姿のまま、列の横に外れている。見学者は僕達2人だけのようだ。
「甘井さんと
一同、正面の神棚に頭を下げる。先生も振り返って頭を下げている。
「お互いに礼!」
次に、1年生と4年生が向かい合って頭を下げる。
見学中の僕も、いつもの癖で隣にいるネネコさんに頭を下げた。
「なんで見学なのに、ボクに頭下げてるの?」
「先週は1人で見学だったからね。隣にネネコさんがいてくれると心強いよ」
お嬢様方の柔道の
「手は痛くないんでしょ? なら、別に1人でもよくね?」
「お陰様で、もう痛みは全然ないけど、まだ手は動かせないから」
「痛みが無いならいいじゃん。ボクは昨日から時々お
ネネコさんは、お腹の調子が悪いらしい。
昨日の
「いつも急いで食べているからじゃないかな? 僕の食事は遅くなっても全然構わないから、ご飯はゆっくりとよく
僕の食事は、最初の数分だけポロリちゃんが食べさせてくれて、その後は、大急ぎで自分の食事を先に済ませたネネコさんが、いつも最後まで食べさせてくれている。そこまで急いでくれなくても……と僕が心配してしまうほどの速さだ。
「そうじゃないんだって、ボクだって女の子なんだからさ……」
ネネコさんが少し恥ずかしそうに黙り込む。
どうやら、胃腸の調子が悪い訳ではなく、生理を迎えたらしい。
僕は、リーネさんが初めて生理になったときに、ヨシノさんが「お祝い」と言っていた事を思い出した。
「……えっと……それは、おめでとう……って言っていいのかな?」
「お姉さまは『今日はお赤飯ですね』って喜んでたけど、ボクはどうでもいいや」
「お赤飯って、本当に食べるんだ? オトコの場合、何も無いけどね」
――というか、家族に「今日初めて射精した」なんて報告する人は、多分いないだろう。女の子の場合は、家族に伝えるのが普通なのだろうか。
「ボク、オトコが白組で、オンナが紅組な理由が、やっと分かったよ」
「ああ、たしかに、オトコは白だね」
今まで気にした事もなかったが、そう言われると、なぜか紅白がエロく感じる。
「オトコの人は、搾らないと出てこないんでしょ?」
「搾り出すんじゃなくて、ずっと
「擦ると『白い精』が出てくるって、魔法のランプみたいじゃん!」
「願いを
ふと思い浮かんだタイトルは「アラジンと魔法のチ●ポ」……エロすぎる。
「ミチノリ先輩は、だいぶ
ネネコさんは、ニヤリと笑いながら、僕の顔を見上げる。皆様のお陰でストレスは溜まっていないので、溜まっているとしたら「それ」しかない。
「ネネコさん、お嬢様が、そんな『はしたない』事を言ってはいけません」
幸いなことに、受け身の稽古中で、畳を叩く音のほうが大きいので、僕達の会話の内容までは誰にも聞かれていないようだ。
「そんなの今更じゃん。ボクが知らないとでも思ってたの?」
「思想の自由は認めるけど、声に出すのは、お嬢様としては、どうかと思うよ」
「いいじゃん、べつに。ミチノリ先輩以外の人とは、こんな話、しないんだから。いつも夜中にこっそり出してたでしょ? ボクのベッドから見えるんだけど」
「ネネコさんって、夜中に起きてたの?」
僕は、隣のベッドの天ノ川さんが完全に寝静まっている事を確認してから、事に及んでいたのだが、その上段で寝ているネネコさんに対してはノーマークだった。
「なんか、ミチノリ先輩が、夜中にハアハア言ってたから気になっちゃって」
もしかしたら、下から上は暗くてよく見えなくても、上から下は誘導灯の緑色の光で照らされていて、意外とよく見えるのかもしれない。
「それは、気にしないでいてくれた方がありがたかったんだけど……」
気になっても声を掛けてこなかったのは、ネネコさんの優しさなのだろうか。
こちらも、天ノ川さんとポロリちゃんの生理事情については、風呂に入る順番が最後だったり、白いパンツを
もちろん、僕は気付いていても、それを本人に確認したりはしない。
「ロリは『昨日の地震は激しかったの』って、嬉しそうに教えてくれるし、お姉さまだって、気付いてない振りをしてるけど、3人とも知ってるから」
ゴールデンウィークに泊まりに来たハテナさんにも気付かれたのだから、ずっと一緒にいる3人にも気付かれていて当然ではあるのだが、それを指摘されてしまうと、手が治ったところで、処理し辛い気がする。
2段ベッドの下段にはカーテンがあるので、次回からは閉める事にしよう。
「それなら、開き直るしかないか。まあ、どちらにせよ、今は自分で処理できない状態だから、ネネコさんの言う通り、溜まる一方なんだけどね」
そろそろ10日分くらいか。たしかに、だいぶ溜まっている気がする。
「それって、痛くならないの?」
「痛くはないけど、もどかしい感じかな。かゆいところに手が届かないような。頭の中がモヤモヤして、スッキリしないような……」
「ボクが出してあげようか?」
「だから、お嬢様が、そんな『はしたない』事を言っちゃダメだって」
ネネコさんが、僕の脳内辞書の定義する「本当のカノジョ」だったら、すぐにでもお願いしたいくらいの、股間に響く、ありがたい提案ではある。
しかし今のところ、ネネコさんと僕は「とても親しい異性の友達」でしかない。それに、ネネコさんが僕より年上ならともかく、ネネコさんはまだ中学1年生で、僕より3つも年下なのだ。
自分の欲望を満たす為に、大切な人を
「えーっ! いいじゃん、べつに。それともボクじゃイヤなの?」
「イヤなわけないでしょ? そうじゃなくて、僕は明後日また病院へ行くからさ。そろそろ包帯が取れると思うし、そうすれば自分で処理出来るから」
「じゃあ、もし包帯が取れなかったら、その時はボクが出してあげるからね」
「いや、いくらなんでも、それはマズいって。風紀が乱れるでしょ?」
「平気だって。ちゃんと、お姉さまやロリにも根回ししておけばいいんでしょ?」
「もしかして、2人の許可を取るつもりなの?」
「うん。多分、2人ともダメとは言わないと思うよ」
ネネコさんの言う通り、「僕を助ける為」という大義名分があれば、2人は反対しないような気がする。それに、2人とも好奇心は
そんな事が寮で実際に行われて、もしそれが発覚してしまったら、アマアマ部屋は、いったいどうなってしまうのだろうか。
ここは、3日後に包帯が取れる事を、天に祈るしかないだろう。
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