第139話 最終競技は負けられないらしい。
僕がパンツを洗い終えて校庭に戻ると「フープの営み」は既に終了していた。
最後まで残ったのはブルーチームの
イエローチームの
これで午前中の競技が全て終わったので、ここで昼休みだ。
僕達ピンクチームはイエローチームに次いで2位。
得点差もほとんどなく、今のところ、順調である。
昼休みには、チームのみんなで集まって、校庭でお弁当を食べた。
30人以上が集まっていても、僕に最も近い場所には、いつもの3人がいる。
「お兄ちゃん、お
「うん、ちょっと張り切り過ぎちゃってね」
ポロリちゃんは、大間さんから僕がトイレに行った事を聞いたらしい。
本当はパンツを替えに戻っただけなのだが、心配させてしまって申し訳ない。
「すげー勢いで回してたよね。チョーはやかったじゃん」
「フープが落ちそうだったから、結構大変だったよ」
ネネコさんは、なぜか不機嫌そうな顔をしているので、僕の腰の動きを「チョー速かった」と褒めてくれたのか、それともフープが落ちるのが「チョー早かった」と責めているのか、どちらなのかは、よく分からない。
「ふふふ……甘井さんは、とてもお上手でしたね」
「僕達が3位に残れたのは、大間さんのお陰です」
僕としては、天ノ川さんや
矢場さんと椎名さんは姉妹ペアで2位だったし、大間さんと僕は、元々ある程度の信頼関係があったから3位に残れたのだろう。
僕が仮に1年生だったとしたら、天ノ川さんや脇谷さんと組むのは恐れ多いと感じるはずだ。
午後の競技は、中学校の運動会の時にもあったような普通の競技が多かったが、応援合戦や組体操などの観客に見せるための競技や、棒倒し、騎馬戦のような危険な競技は一切なく、比較的地味な戦いが繰り広げられた。
それでも、100人以上のお嬢様方が校庭に集まっていると、とても華やかだ。
僕達ピンクチームは、4年生では
勝負は最終競技である「姉妹リレー」に委ねられた。この競技は、その名の通り姉妹で一緒に走るリレーであり、参加するペアは姉妹もしくは兄妹限定である。
生娘寮の運動会には「ペアは必ず姉妹学年で組む」という決まりと「同じペアで参加できる競技は1つのみ」という決まりがある。今までの競技で僕がかわいい妹と1度もペアを組んでいなかったのは、リレーに参加する条件を満たす為だ。
「姉妹リレー」は、200メートルの内回りトラックを2周する400メートルのリレー走で、4組の姉妹による「2人3脚」であるが、体格差のある姉妹の場合は「2人2脚」つまり「おんぶ」や「抱っこ」でもいいというルールになっている。
それは、もちろん兄妹にも適用される為、僕はポロリちゃんを「おんぶ」して走るだけでよいという事になる。
2人3脚とどちらが有利かは微妙なところだが、少なくともポロリちゃんと僕のペアの場合は「おんぶ」のほうが断然速そうである。
姉妹リレーの参加者はゴール前と向こう正面に分かれて待機しており、
僕達の目の前では、チームメイトで第2走者の
そして、僕達の横には5年生の
その隣には6年生の
この2組のペアが僕と一緒に走る最終走者の皆さんだ。
ゴール前では、既に第1走者たちがスタートの位置に付いている。
黄色のたすきは、
アシュリー先輩が、水色のたすきを掛けた2年生の
そして、ピンクのたすきを掛けた南出さんが、1年生の
このリレーは、バトンではなく、たすきを渡す駅伝スタイルらしい。
「よーい……スタート!」
長内先生の合図で一斉にスタート。
イエローチームの鹿跳・橋下姉妹がスタートダッシュを決めて先頭を走る。
ピンクチームの南出・菊名姉妹が、それをマークするように2番手につける。
どちらのペアも2人3脚で、息はぴったりだ。
ブルーチームのアシュリー先輩だけ少し出遅れたが、妹の本間
オトコである僕でも抱かれてみたくなるほどのカッコよさで、校庭はお嬢様方の黄色い大歓声に包まれている。先輩へのあこがれは、敵も味方も関係ないようだ。
第1走者の並び順を見て、第2走者が待機位置を決める。
ピンクチームは、3番手のままらしい。
「レアちゃん、頑張ってね」
「まかせて!」
ポロリちゃんの声援に菅江
僕とも目が合ったので、笑顔で軽く頭を下げた。
先頭を走るアシュリー先輩に「お姫様抱っこ」されている本間さんが、第2走者のオリビヤ先輩に水色のたすきを渡す。妹は
続いて鹿跳先輩が、3年生の
羽生嵐さんのお姉さまは、6年生の
最後に真坂さんが南出さんからピンクのたすきを受け取る。真坂・菅江姉妹は、背の高さがほぼ同じで、第2走者の中では1番速そうだ。
走り終えた南出・菊名姉妹に僕が「お疲れ様です」と声を掛けると、2人とも気まずそうに無言で僕に頭を下げた。
もう少し気の利いた言葉を掛けてあげられたら良かったのかもしれないが、特に親しいというわけではないので、こんなものだろう。
レースに目を向けると、先頭はブルーチームのままで、水色のたすきは第2走者のオリビヤ先輩から第3走者の
ピンクチームの真坂・菅江姉妹が、イエローチームの鉄先輩を抜いて2番手に上がったところで、第3走者の宇佐院・有馬城姉妹にピンクのたすきを渡す。
ほとんど差が無く、黄色いたすきが羽生嵐さんから
イエローチームの針生・高木姉妹は2人3脚の競技に慣れているようで、すぐにピンクチームの宇佐院・有馬城姉妹に並びかける。
先頭を走るブルーチームの足利・安井姉妹は、あまり足が速くないようで、少しずつ差は縮まっている。これで勝負は最後まで分からなくなってきた。
「ポロリちゃん、ここは勝ちに行くから、おんぶでもいい?」
「えへへ、肩車は怖いし、抱っこだと恥ずかしいの」
「なら、決まりだね。たすきはポロリちゃんが受け取って」
「うんっ」
ポロリちゃんをおんぶして、宇佐院・有馬城姉妹の持つピンクのたすきを待つ。
かわいい妹は、楽にお姫様抱っこできるくらい軽いので、おんぶはもっと楽だ。
これだけ軽ければ、おんぶしたまま普通に走れるだろう。
第3走者の先頭はイエローチームだった。針生・高木姉妹から、犬飼・鯉沼姉妹に黄色いたすきが渡される。午前中は鯉沼さんに勝てたが、今回はどうだろう。
続いてブルーチームの足利・安井姉妹から、乙入・尾中姉妹に水色のたすきが渡された。尾中さんがトイレに駆け込むスピードは恐ろしく速い。かなりの強敵だ。
少し遅れて、最後にピンクチームの宇佐院・有馬城姉妹が到着する。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「サクラ、あとちょっとだから、頑張れ!」
有馬城さんは泣きながら走っているようだった。
陸上部の宇佐院さんと同じペースで走ろうと思っても、よほど練習していないと無理だろう。これは仕方がない。
「サクラちゃん、お兄ちゃんは絶対に勝つから、泣かないで」
「総大将、頼んだよ」
「全力で行きます!」
ポロリちゃんが宇佐院さんからピンクのたすきを受け取った事を確認し、先輩方の後を追う。
ここで僕が負けたらポロリちゃんが
ポロリちゃんの両
ブルーチームの乙入・尾中姉妹には、意外なほど簡単に追いついた。
「ダビデ君、頑張れ!」
「ダビデ先輩、頑張って下さい! 私達も応援してますから!」
しかも、2人から声援までもらってしまい、なんだか拍子抜けだ。
どうやら、尾中さんが本気で走るのは、漏らしそうなときだけらしい。
僕に残された距離は80メートルほど。
イエローチームの犬飼・鯉沼姉妹は10メートル以上先だ。
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