第135話 親睦を深めるための競技らしい。

 柔道の授業が、今週に限り「運動会の練習」に変更となった。


 1年生と4年生が一緒に練習するには、最も都合がいい時間なので、僕がピンクチームの総大将として長内おさない先生に頭を下げたところ、快く承諾して頂けたのだ。


 これは、もちろん僕が勝手に決めた事ではなく、宇佐院うさいんさんからの要請であり、既に「根回し」も万全である事を確認した上での「お願い」である。


 練習のメニューは、宇佐院さん達が考えてくれており、各自参加する競技種目に合わせた練習をすることになっている。


 競技種目には一輪車を使った競技もあるようで、栗林くりばやしさんと大石おおいしさんが一輪車にまたがり、比較的小柄で、脚力のありそうな子たちを率いていた。


 ネネコさんやリーネさんは、このグループだ。


 縄跳びの競技もあるらしく、馬場ばばさんと花戸はなどさんが、1年生達にお手本を見せている。どうやら、1本の縄を使って2人で飛ぶ競技らしい。


 ポロリちゃんや中吉なかよしさんは、このグループだ。


 僕は脇谷わきたにさんと天ノ川さんの率いる3つ目のグループに配属された。こちらは、比較的体が大きい……というか、お尻が大きい子がそろっている気がする。


 ハテナさんや大間おおまさんは、このグループだ。


「ダビデ君――じゃなかった、総大将、これ、何だか知ってる?」


 脇谷さんが手に持っているのは、直径1メートルくらいの細い輪である。


「僕の呼び方はどうでもいいですけど、その輪は何ですか?」

「こうやって使うんだけど、見た事ない?」


 脇谷さんは、手に持った輪に上半身を通し、両手で浮き輪を持つように構えた。


 そして、その輪を腰に巻き付けるように回し、同時に、腰を前後に振り始める。

 輪は腰の周りを回り、腰を振り続けている限り、輪は落ちないようだ。


「脇谷さん、上手ですね」


 脇谷さんは絵が上手なだけでなく、腰を振るのも得意らしい。

 僕は、そのエロかわいい腰の動きに見蕩みとれてしまった。


「このくらい、誰でも出来るって」

「1年生の皆さんも、練習してみて下さい。『フープ』は、人数分ありますから」


 天ノ川さんが、このグループの全員に細い輪を配る。

 この輪は「フープ」と呼ばれるものらしい。


「僕も、やってみます」


 実際にやってみると、上手に腰を振るのは案外難しい。

 それに、立ったまま前後に腰を振り続けるというのは、かなりの重労働だ。


「お兄さん、これ、意外と簡単ですね」


 僕の隣では、ハテナさんが大きなお尻を振っていて、フープは安定している。

 この競技は、お尻が大きくてウエストとの差が大きいほど有利なようだ。


 この場にいるお嬢様方と比べて、オトコである僕はウエストとお尻の差が小さいのだが、不利な分は運動能力で補うしかない。


 腰を止めると落ちるのだから、腰を速く振ることが出来れば落ちにくいはずだ。


「それでは、今からペアを発表します」


 脇谷さんが、全体に指示を出す。

 ここには4年生と1年生が5人ずついる。


 ペアという事は、2人1組での競技という事か。縄跳びも1本の縄で2人が飛んでいたし、一輪車も手を繋いで2人1組で走っているようだった。


「――総大将とナコちゃん」


 僕のパートナーは、大間名子なこさんらしい。つまり、背の順という事か。

 大間さんとは、すぐに目が合い、お互いに頭を下げた。


「――私とクマちゃん」

 脇谷さんと熊谷くまがいさん。熊谷さんは1年生で、クマちゃんと呼ばれている。

 フルネームは、熊谷伊予いよさん。103号室の子で、栗林さんの妹だ。


「――ミユキさんとサクラちゃん」


 天ノ川さんは、お隣102号室の有馬城ありまじょうさくらさんとペア。

 有馬城さんは宇佐院さんの妹で、親しい友人からはアルマジロと呼ばれている。


「――クロエさんとハテナ」


 横島よこしま黒江くろえさんと、畑中はたなか果菜はてなさんは、共に109号室。ハテナさんは脇谷さんの妹だ。同室なので、チームワークはよさそうである。


「――クネさんとアヤちゃん」


 クネさんとは、矢場久音やばくねさんの事だが、この人は男子に興味が無いらしく、今までに挨拶あいさつ以外で話し掛けられた事がない。それに、僕からも話す用事が特にない。


 アヤちゃんとは、その矢場さんの妹で、椎名しいなあやさん。この1年生も挨拶以外の会話をした事がない人である。寮の部屋は共に108号室だ。


「――以上です。本番はこの組み合わせでいく予定なので、練習もこのペアで行って下さい。その前に、今から私とミユキさんでお手本を見せます」


「ふふふ……割とガチですけど、皆さんも一緒ですよ」


 天ノ川さんがフープを持った状態で、脇谷さんをハグする。


「出来るだけ、2人の腰を密着させて下さい。手は、お互い相手の肩に回すか、横に伸ばして『恋人繋ぎ』がいいと思います」


 脇谷さんと天ノ川さんが腰を合わせる。


 天ノ川さんのほうが、胸が大きいだけで、2人の体形は、ほぼ同じ。

 背は、わずかに脇谷さんの方が高いようだ。


「こんな感じです」


 腰を交互に突き出し、1つのフープを2つのお尻でくるくると回す。

 2人とも上手で、息も合っており、見ていて楽しそうである。


「ふふふ……慣れれば簡単ですよ。どこまで続けられるかは体力勝負ですけど」


 なるほど、天ノ川さんの言う通り「割とガチ」な感じだ。女の子同士だと、見ている分にはいい感じであるが、男女でやるのは、いろいろと問題がある気がする。


 これをオトコとやれと言われたら、僕だったら断固拒否するが、大間さんはどんな気持ちなのだろうか。


「総大将さま、よろしくお願いします」


 呼ばれ方が「ロリちゃんのお兄さま」から「総大将さま」に格上げになったが、それ以外は普段と変わらず、大間さんはとても礼儀正しかった。


 大間さんと僕は、柔道の時間に一緒に練習する事が多い。それは、大間さんの体が大きく、稽古けいこ相手としてふさわしいのが僕しかいないからだ。


 4月に初めて大間さんを見たときは、1年生なのに僕よりずっと背が高くて驚いたが、僕の背も5か月で少し伸びて、その分だけ差は縮まっている。


 稽古中には何度も抑え込まれた事があり、「縦四方固め」の練習の時は刺激が強すぎて「このまま死んでもいいかも」と思ったくらいだ。


 そして、春より成長した胸が、僕の胸に押し当てられている。胸はこんなに大きく育っているのに、顔はポロリちゃんやネネコさんと同じくらいに幼く見える。


 実際に同じ1年生なのだから当然で、この子は僕より3歳も年下なのだ。


 ――ここで、いきなり問題が発生した。


 柔道の場合、抑え込まれてから僕の股間が反応するまでにタイムラグがあり、その間に床を叩いて脱出が可能なのだが、今の僕は既にアクティブな状態だった。


 厚手の柔道着と違って体操着は布が薄く、さらに刺激が強いのだ。


 大間さんも気付いたらしく、腰を密着させた状態で、顔を真っ赤にしている。

 身長差があるので、ちょうど大間さんの太ももの間に欲棒が納まる形だ。


「すみません、これは僕の意志ではどうにもならなくて……」


 この状態で腰を振るのは危険すぎる。

 暴発の恐れすらあるかもしれない。


「お気になさらないで下さい……ちょっと恥ずかしいだけですから」


 だが、大間さんは心優しく、健気だった。


 そのままフープを構えて、練習開始。ぎこちなく腰を振る大間さんに動きを合わせたつもりだが、フープは3周半くらいで地面に落ちてしまった。


「総大将さま、ごめんなさい。私、上手く腰を振れなくて……」

「無理しなくていいですよ。ゆっくりといきましょう」


 おしとやかな大間さんは、腰を振るのが苦手らしい。


 体が大きいと言うだけで、僕と組まされてしまった大間さんをフォローしてあげたいところだが、僕にはどうする事も出来ないのだろうか。


「総大将! 体位を変えてみたらどう? 向かい合わなくてもOKだよ」


 脇谷さんからのアドバイスだ。


 体位というと、いかがわしい表現にも聞こえるが、介護の授業で習った用語だ。意味は、体の位置や姿勢の事である。向かい合わなくてもいいという事は、同じ方向を向いていてもいいという事か。


「大間さん、僕に背を向けてみて下さい。少しだけ前傾姿勢でお願いします。両腕は横に広げて、手のひらも、こちらに向けておいて下さい」


「こうですか?」


 大間さんが僕に背を向けて、お尻を突き出す。


 ヤバい状況である事に変わりはないが、顔が見えないのと、胸が当たらない分、大間さんの恥ずかしさは減るだろう。


「今度は、僕に任せて下さい。腰は僕が振りますから、押されたら押し返すような感じで、倒れないようにだけ、気を付けて下さい」


 大間さんのお尻に、僕の腰を密着させてから、右手でフープを構える。

 左手は、大間さんと「恋人繋ぎ」だ。


「はいっ、よろしくお願いします」


 フープを離すと同時に、腰を前後に振り始める。

 そして、右手も「恋人繋ぎ」に。


「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……」


 僕が腰を突き出すたびに、大間さんが、切なげな声を上げる。

 身長差によって、丁度「正しい位置」に当たってしまっている感じだ。


 先ほどの、向き合う体位と違って非常に腰を振りやすく、大間さんのお尻が安定しているので、フープも落ちないようだ。


「これなら、いけそうですね。本番でも、こちらの体位でいきましょう」


 ――こんな感じで、いきなりとんでもない競技の練習から始まったが、練習が必要なのは、この競技くらいで、あとは軽くリハーサルする程度でいいそうだ。


 寮の運動会はお互いの親睦しんぼくを深めるための競技が多く、ほとんどがペア競技か団体競技らしい。そして、騎馬戦や棒倒しのような危険な競技は一切ないようだ。


 本番の運動会が楽しみである。

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