第126話 仲良くするとは違う意味らしい。
今日は8月31日。夏休み最後の日だ。
目の前には、
「どう? 僕としては
「えへへ、サイズもピッタリだし、とってもかわいい浴衣なの」
ようやく夏休みの課題が完成したので、僕の師匠、
手芸部の活動拠点である被服室に、連日お邪魔して頑張った成果だ。
「ダビデさん、よく頑張りました。初めてにしては上出来です」
「ありがとうございます。これもアシュリー先輩のご指導と、手芸部のみなさんのご協力のお陰です」
「この出来なら、来週に行われる品評会で、上位を狙えるかもしれませんよ」
「品評会? そんなのがあるんですか?」
「2年生以上の生徒が、1年生の浴衣姿を見て、浴衣の出来の良さを評価するのだけれど、毎年盛り上がるのよ」
「えへへ、ポロリも楽しみなの」
アシュリー先輩と手芸部のみなさんのお陰で、本当に助かった。
僕1人だったら、ポロリちゃんに恥ずかしい思いをさせてしまうところだった。
「それは、僕も楽しみです」
「浴衣には、この着物用のハンガーを使ってみてね」
「お借りしていいんですか? ありがとうございます」
これは被服室に掛けてあった、肩の部分が真っすぐなハンガーだ。
「それじゃ、私は部室に戻ります。あっ、その前にハヤリから伝言があったんだ」
「杉田さんからですか?」
「『お姉ちゃんが呼んでいるから、今日中に
「――という事は、
「じゃ、伝えたからね。ポロリちゃん、お邪魔しました」
「アシュリー先輩、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ポロリちゃんと僕は頭を下げて、アシュリー先輩を見送った。
「お兄ちゃん、すぐに行っちゃうの?」
「そうだね。もともと体操着だから、着替える必要もないし」
「ポロリはお留守番なの」
「ごめんね。夕食までには帰れると思うけど、天ノ川さんとネネコさんにはよろしく伝えておいてね」
天ノ川さんとネネコさんは、夏休み最後の日でも水泳の特訓中だ。
「うんっ、いってらっしゃい」
「いってきます」
ポロリちゃんに
5月に初めてお邪魔してから、今回で4回目だ。 (第70話参照)
「トン、トン、トン……」
ノックをすると「は~い!」という元気な返事が聞こえ、すぐにドアが開いた。
出迎えてくれたのは美術部の2年生、
「ダビデ先輩? よかった~。今トイレ掃除が終わったところなんですよ~。ピカピカですから、是非使ってみて下さい!」
尾中さんはトイレ掃除が趣味なのだろうか。実に楽しそうだ。
「僕はトイレを借りに来たわけじゃなくて、上佐先輩に呼ばれたんですけど……」
「そんなの、わかってますよ~。髪の毛ボサボサじゃないですか~」
なるほど、僕の髪が伸びているのを見た上佐先輩が、今日なら予定が空いているという事で呼んでくれたのか。
「そんなにボサボサですか?」
「ボッサボッサでーす! というわけで、はい、こちらへ、どーぞー」
質問に答えてくれたのは、手芸部の2年生、杉田
こちらはタンクトップとショートパンツ。下着っぽいが、部屋着である。
髪型はオシャレだが、僕の言葉では説明できない髪型だ。
部屋の中に通され、脱衣所まで案内された。
洗濯物は干されていないが、ここはいつもいい
「ダビデ君、いらっしゃい。ごめんね、ギリギリになっちゃって」
そして、美術部の5年生、上佐
「そんな、僕としては、このくらいならまだ平気だと思っていましたから」
「担当美容師としては、ちょっと見逃せない長さかな。――ハヤリ、洗髪お願い」
「はーい。――ダビデ先輩、こちらへ座って下さい」
杉田さんの指示に従って、浴室内の小さな
「お願いします」
脚を開いて、体を前に出し、浴槽のフチに外側からあごを乗せるような感じで、浴槽の底を
「いきますよー」
温水のシャワーを少し頭に浴びた後、シャンプーの着いた小さな手で、頭をかき回される。こうやって杉田さんに髪を洗ってもらうのは、これで3回目だ。
杉田さんは僕の左側で
「はい、お疲れ様でーす」
髪をタオルで
続いて、僕は隣の普通サイズの椅子に移動し、大きなポリ袋で作られた穴の開いたシートを頭から被せられる。杉田さんは部屋に戻り、ここで上佐先輩と交代だ。
「いつもと同じくらいの長さでいいかな? 9月はまだ暑いからね」
「そうですね。今回もお任せします」
シャキ、シャキ、シャキ、シャキ……。上佐先輩は、僕の髪を切り始めた。
上佐先輩の話は、いつも面白いので今回も楽しみだ。
「カノジョとは、何か進展あった?」
「いきなり、その質問ですか。あるわけないじゃないですか」
上佐先輩の言う「カノジョ」とは、ネネコさんの事である。上佐先輩の
「どうして? 仲良く一緒に帰って、来るときも一緒だったんでしょ?」
2人で食事はしたが、それは寮の食堂で既に経験済みである。(第52話参照)
「それは、そうなんですけど……それより、上佐先輩はどうなんですか?」
質問に質問で返すのは、答えに困るときの
この手の話題を振ってくる人は、自分自身にも何かある事が多い気がする。
僕としては話すより聞く方がいいし、情報は与えるよりも
「えーっ? 私は、去年の夏から、
上佐先輩には、仲の良い幼馴染がいるらしい。この「仲良しする」という言葉、ネネコさんのお母様も使っていたが、どこの方言なのだろうか。
「『仲良くする』ことを『仲良しする』っていうのは、どこの言葉なんですか?」
「どこの言葉って……もしかして、東京じゃ『仲良しする』って言わない?」
「普通は『仲良くする』って言うと思うんですけど……」
「そういう意味じゃなくてさ、例えば、ダビデ君と私は『仲良く』はしてるけど、『仲良し』はしてないでしょ?」
「どう違うんですか?」
僕は、鏡の中の上佐先輩の目を見て質問する。
「……真顔で言われると恥ずかしいんだけど、ホントに分かってないんだね」
「?」
シャキ、シャキ、シャキ、シャキ……。
会話が途切れると、涼しそうなハサミの音だけが聞こえる。
「『仲良し』っていうのは、つまり『えっち』の事だよ」
「えっ?」
――それって、つまり「仲良しする」=「
僕は、ネネコさんのお母様から「もう仲良ししちゃっているのですか?」と聞かれて、「はい、いつも仲良しさせていただいています」と答えてしまった。
「つまり、その……ね。愛し合う2人が一緒に同じベッドで……」
ネネコさんのご両親には、すでに僕がネネコさんに●●を●●してしまっていると完全に誤解させてしまったという訳か。いったい僕はどうしたらいいのだろう。
「すみません。理解はしましたけど、あまりにショックだったもので……」
「ごめんね。私にカレシがいるの、今まで黙っていて。ダビデ君がそんなに落ち込むとは思わなかったから……」
それも少しショックではあるが、上佐先輩なら元々カレシくらい、いたとしても全然不思議ではない。
「いえ、僕が勘違いしていただけで……」
「私……ダビデ君を勘違いさせちゃってたんだ……じゃあ、これで許してね」
僕の頭の中にある悩みは、上佐先輩とは無関係なのだが、上佐先輩が僕を勘違いさせていたと勘違いしたようで、なぜか僕のほっぺたにキスしてくれた。
「上佐先輩! そんなことされたら、その幼馴染さんに申し訳ないですし、ホントに勘違いしちゃいますよ」
「あー、ごめん、ごめん。今のは後輩への愛情だから、誰にもナイショね」
もちろん誰かに言うつもりなど全くないが、これも僕にとっては夏休み最後の素敵な思い出だ。明日から新学期。夏が終わっても、楽しみはまだまだこれからだ。
ろりねこ【アマアマ部屋のロリと猫】
第5章 「学園生活 盛夏」 完
第6章「学園生活 秋」へ続きます。引き続きよろしくお願いします。
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