第11話 新入生は全員中学1年生らしい。

 天ノ川さんの案内で体育館に入り、所定の席に座る。


 優嬢ゆうじょう学園は完全に中高一貫となった6年制の女学園であり、中等部と高等部の区別がない。したがって中等部の卒業式と高等部の入学式は存在せず、僕はいきなり4年生だ。


 本年度より試験的に高等部のみ男子生徒の募集が始まったため、僕は4年生に編入したという扱いになっている。


 女子生徒に関しては従来通り「中学入試のみ」なので新入生は全員中学1年生。つまり同期生なのに僕の後輩という事になる。


「――只今より、令和3年度の入学式を始めます。新入生を拍手でお迎え下さい」


 式が始まると新入生一同が入場し、拍手で迎える。僕も新入生のはずなのに、迎える側の席に座っているのは不思議な気分だ。


 そして、すでに顔見知りの後輩が2人もいる。


 先頭を歩くネネコさんは、すぐに僕と僕の右隣に座るお姉さまに気づき、嬉しそうに手を振ってくれた。天ノ川さんは、それに応えて上品に軽く手を振る。僕も笑顔で応える。


 同じ列の後方にいるポロリちゃんは、よそ見をせず真っすぐ前を見ていて、こちらには気づいていない。もしかしたら緊張していて余裕がないのかもしれない。


 新入生が所定の場所に着くと、全員起立して、まずは国家斉唱。


 今までの僕だったら歌う振りをしてごまかすのだが、なんだか気分がよかったので、つい張り切って歌ってしまい、周囲から注目を集めてしまった。


 男の声は僕だけなので、これはかなり恥ずかしい。


 続いて校長先生の挨拶あいさつ。寮長の子守こもり先生よりお年を召した女性だ。しっかりと話を聞くことにしよう。



「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この度は数多くの学校の中から当学園を選んで頂き、心より感謝を申し上げます。


 さて、現在のこの国は少子化が進んでおり、深刻な懸念事項のひとつとなっています。その最大の要因は、この国の若い女性が、本来果たすべき役割を果たせていないからではないか、と私は考えております。


 女性が社会に進出するのは喜ばしい事ではありますし、否定はしません。しかしながら、女性が男性から男性の担うべき役割を奪い、女性にしかできないことを放棄してしまった。この責任は、我々教育者にある……と日々反省致しております。


『優嬢学園』の優には、上品、しとやか、やさしい、すぐれた……などの意味があります。今日からみなさんは『優嬢』の名に恥じぬ『お嬢様』となり『良妻賢母』を目指してください。


 政治家たちがいくら頑張っても、マスコミがどんなに騒いでも、この国に明るい未来は訪れません。今のこの国の危機的状況を救えるのは、次世代の子を成せる、あなたたちだけなのです。


 みなさんは決して『産む機械』出産マシーンではありませんが『産む機会』出産するチャンスは十分にあるはずですから、近い将来、子供を3人以上育てることを目標として、花嫁修業に励んで下さい。


 なお本年度より高等部に限り男子生徒も入学できるようになりました。男子生徒は『良妻賢母』の代役となる『良夫賢父』を目指していただいても結構ですし、社会へ出る前に当学園で生涯の伴侶を探していただいても結構です。


 いずれにせよ、ここでは女子生徒と同様に、将来子供を3人以上育てることを目標として、花婿修業に励んで下さい。また、女子生徒の日ごろの行いを厳しく審査し、的確なアドバイスを贈って頂ければ幸いです。


 本年度の男子生徒は、合格者3名のうち残念ながら2名が辞退し、入学者は1名のみとなってしまいましたが、皆さんご理解とご協力をお願い致します」




 ――それで男子生徒は僕1人なのか。


 2人辞退したというのは、単願推薦の僕と違って、第1志望ではなかったという事だろう。オンリーワンなら比較される事もないから案外気楽かも知れない。


 それにしても、学校で「子供を3人以上産んで育てましょう」というのは問題発言なのではないだろうか。少子化とはそれほど深刻な問題なのだろうか。


 まあ、僕の場合は「子供を3人育てましょう」と言われたところで、自分が産めるわけではないし、僕に「産ませる機会」なんてものが訪れるかどうかも疑問だ。




 続いて新入生代表の挨拶。というのが一般的な入学式だが、この学園ではやらないらしい。1人の生徒に責任を押し付けないのが、この学園の方針なのだそうだ。


 生徒の自立を促すという名目で、保護者の参加も認められていない為、会場はずいぶんと寂しい。


 そして、先生の人数も非常に少ないようだ。見たところ10人くらいだろうか。




 最後に校歌斉唱。当然ながら僕はまだ歌えないので、生徒手帳を見て先輩方の歌を聴きながら覚えることにしよう。


「ひとざとー はなーれ やまーのなか ごんげんさまにー みまーもられ……


優嬢学園校歌  作詞作曲  更場 蛍

 

1.人里離れ山の中

  権現様に見守られ

  幼き頃の夢に見た

  げに美しき嫁となろう


2.月輪熊つきのわぐまに日本猿

  登らば登れ高い壁

  難攻不落の堅城に

  こもりて今に嫁となろう


3.炊事洗濯お手の物

  引く手あまたの優嬢も

  行き遅れたら水の泡

  いざ尋常に嫁となろう


 ……いきおくれたらー みずのーあわ いざじんじょーにー よめーとなろー」




 ――これが校歌なの? というのが僕の素直な感想だった。


 女子の歌声は心地よいが、男子生徒が歌うことは想定されていない歌詞なので、僕が歌ってしまったら、きっと台無しだろう。




 入学式はこれで終わりだが、生徒手帳にはスケジュール表もあったので、こちらにも目を通しておくことにする。


 優嬢学園での1日のスケジュール表


 起床時刻  5:00

 朝食時間  6:00~ 8:00

 1時間目  8:30~ 9:20

 2時間目  9:30~10:20

 3時間目 10:30~11:20

 昼食時間 12:00~13:00

 4時間目 13:30~14:20

 5時間目 14:30~15:20

 部活時間 15:30~18:00

 夕食時間 18:00~20:00

 消灯時刻 22:00


 起床時刻は「明かりがつく」というだけでチャイムは鳴らなかった。

 同様に消灯時刻もただ「明かりが消える」だけだ。


 天ノ川さんの話によると、睡眠時間は人によってまちまちで、1時間目に間に合いさえすれば、いつまで起きていても、いつまで寝ていても特に問題ないらしい。


 僕が驚いたのは昼休みの長さだ。なんと2時間以上もある。

 進学校と違って、勉強漬けになるような事は全くないようだ。


 この表は平日用で、土曜日の授業は3時間目まで。日曜日と祝日は休みだ。

 起床時刻と消灯時刻や食堂での食事時間は、土日も同じらしい。

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