入寮2日目
第9話 白い布はどうやらパンツらしい。
入寮2日目の朝。
遠くから聞こえる大きなチャイムの音で目が覚める。
今日は入学式の日だ。その前に朝食と身支度が必要だが、ここではどうしたらいいのだろうか。隣の2段ベッドを見ると、下段の天ノ川さんも上段のネネコさんもいない。僕の上段で眠っていたはずのポロリちゃんの気配もない。
慌てて部屋の時計を確認すると、6時になったばかりだった。
寝過ごしてしまった……というわけではないようだ。
僕は部屋着兼寝間着のスウェットのまま、とりあえず顔でも洗おうと、キッチンの裏手にある洗面所兼脱衣所に向かう。
「おはようございます。ゆっくり休めましたか?」
パジャマ姿の天ノ川さんが僕に気づき、朝の
「おはようございます。みんな早起きですね」
僕をチャイムが鳴るまでゆっくり寝かせておいてくれて、自分は早起きして朝から後輩の指導。ここの4年生ならこれが普通なのか、それとも天ノ川さんが特に優秀なのかは分からないが、この手際の良さは僕も見習わなくてはいけない。
「室長のクセに遅いぞ~」
何やら
「お兄ちゃん、おはよう。よかった。ポロリじゃ届かないの」
いきなり、ポロリちゃんから
早速パンツを広げて洗濯バサミで止める。次にワイシャツも受け取って止める。下着のTシャツも止める。靴下も止める。タオルも止める。
「ありがとう。早起きして洗ってくれてたんだ」
「いえいえ。……あの~、これも一緒にお願いしてもいいでしょうか?」
続いて渡された、少し湿った真っ白な布を受け取って広げる。
――えっ? これって、もしかして……。
「そんなにジロジロ見ちゃだめだよぉ」
「ああっ、ごめん」
とっさに謝りながら、洗濯バサミで止める。同時にポロリちゃんの反応で確信する。これは間違いなくポロリちゃんのパンツである――と。
続いて
「それはね、スカッツっていうの。レギンスにスカートがついてるの」
スカッツ? レギンス? どちらも僕には全く
「へー、こんなのあるんだ。レギンスっていうのは、このタイツみたいな部分?」
「そう。タイツと違っておひざの下までしかないから、靴下は別にはくの」
「なんか難しいね」
「ロリの服が終わったらボクのもね!」
「はい、はい」
ネネコさんからも同様に白い布を受け取って広げ、洗濯バサミで止める。
ポロリちゃんのパンツとほぼ同じサイズの白いパンツには、可愛らしい猫キャラの絵がプリントされていた。
「ほかの子のパンツと間違えないように――ってママが選んでくれたんだ!」
――なるほど。これならたしかに分かりやすい。
続いて渡されたTシャツを止める。白い靴下を止める。タオルも止める。
「終わったらこっち見て! ほら!」
ネネコさんの指差すその先には、天ノ川さんのものと思われる帽子のような巨大なブラが色とりどりに3つ、隣にはブラと同じ色のパンツが3枚並んでいた。ほかにも靴下やら体操着やら、いろいろと干してあったが、あまり目に入らない。
「最初はお互いに気まずいかもしれませんけど、きっとすぐに慣れますよ」
天ノ川さんは僕に自分の下着を見られていても、案外冷静だ。
「……でも脱いだばかりの下着を見られるのは恥ずかしいですから、洗うのは私たちに任せてくださいね」
そういうものなのか。たしかに僕も自分の下着が汚れているのをみんなに見られたら恥ずかしいかもしれない。これからは下着を汚さないように気を付けよう。
洗濯ものを無事に干し終えた後、4人で朝食をとるために食堂へ向かう。
1年生の2人はパジャマ姿。天ノ川さんはパジャマの上にカーディガンを羽織っている。僕もスウェットのままだが、朝食時はこれが普通らしい。
夕食時でも遅い時間は部屋着やパジャマのほうが多いそうだ。
さすがにお昼にパジャマだと病人扱いされるらしいが。
朝食は6時から8時の2時間で、今はまだ6時20分なので廊下を歩く生徒もほとんどおらず、食堂も空いていた。
テーブルの位置は昨晩の入寮式の時とは違い、3列並びではなく食堂全体にほぼ均等にちらばっている。
昨晩、入寮式のあと先輩方が残って机をもとの位置に戻してくれたようだ。
新入生と、その案内役である4年生は後片付けが免除され、先に帰された。
「ここでトレイを取って、あとは好きなものを自分で選んでトレイに乗せるだけですよ。まあ、迷うほどの種類はないですけど。席ももちろん自由です」
天ノ川さんの説明によると、朝食はセルフサービスで、パンの日とご飯の日があるそうで、今日はパンの日だった。カウンターにはトースターも設置されている。
僕はトーストにバター、ベーコンと目玉焼き、飲み物はホットコーヒーを選ぶ。サラダはコールスローのみで選択の余地はない。
「ミチノリ先輩はそれだけで足りるの? ボクはもっと食べるよ」
ネネコさんのトレイにはクロワッサン3つとジャム3種類、ソーセージとハムとスクランブルエッグ、コールスロー、飲み物はオレンジジュースが乗っていた。
「ネネコさん、同じものを3つも取ってしまったら後の人が選べなくなってしまいますから、同じものは2つまでにするのが、ここでのマナーです。それに『食べ残しは厳禁』ですよ。本当にそんなに食べられますか?」
「ジャムが3種類ともおいしそうだったからつい取っちゃったけど、たしかにボクにはちょっと多いや。1つミチノリ先輩にあげるね」
「くれるの? どうもありがとう」
ネネコさんは多く取ってしまったパンを返しに戻るのが面倒だから僕のトレイに移しただけ――といった感じだったが、僕は「パンは1人に1つまで」だと勘違いしていて、トースト1枚では物足りなかったので、1つ増えて有難かった。
僕が適当な席に座ると、ネネコさんが僕の左隣に座り、その向かいに天ノ川さんが座る。
天ノ川さんのトレイには、バターロールにマーマレード、ソーセージとスクランブルエッグ、コールスロー、飲み物は牛乳? ――にしてはすこし黄色っぽい。
少し遅れて、ポロリちゃんが僕の向かいに座る。
ポロリちゃんのトレイには、トーストにバター、ベーコンと目玉焼き、コールスロー。ここまでは僕と同じだが、飲み物は天ノ川さんと同じで、黄色い牛乳のような謎の飲み物だ。
「なんですか? この黄色い牛乳みたいな飲み物は?」
「これは、レモン牛乳ですよ」
天ノ川さんに尋ねると素っ気ない答えが返ってきた。たしかにレモン色だ。
でも牛乳にレモンを入れても酸っぱくなるだけではないだろうか?
「え~、牛乳にレモン入れるなんて、ボク聞いたことないよ~」
ネネコさんも僕と同意見らしい。
「ネコちゃん、これ甘くておいしいんだよ!」
ポロリちゃんは僕らと違って飲み慣れているようで、グラスに刺さったストローをネネコさんに向けて、一口飲むように勧めている。
「ホントだ! 全然すっぱくないし、甘いや」
ネネコさんは一口飲んで納得して、ポロリちゃんにグラスを返した。
ポロリちゃんの解説によると、レモン牛乳とは牛乳を黄色くして、レモンの香料と砂糖を入れただけの飲み物で、レモン果汁は全く入っていないらしい。
天ノ川さんの補足説明によると、この学園でも人気のご当地飲料なのだそうだ。
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