入寮初日
第1話 101号室は男女相部屋らしい。
東京から電車を乗り継ぎ3時間ほど。関東平野の果てにある
西日のまぶしいバスの車内には、制服姿の先輩方や、僕と同じ新入生と思われる大きなバッグやスーツケースを持った子たちが同乗している。
乗客は全部で8人。僕以外はみんな女の子だ。
「男の子は学ランなんだ~」
「当たり前でしょう? 私たちがセーラー服なんだから」
「そうじゃなくてさあ、新入生の子はみんな私服だよ?」
「あぁ、そういえば、そうだね……」
前方に座る地味なセーラー服姿の先輩方がこちらを振り返りながら、本人に聞こえる声で会話をしている。
私服だと学ランが荷物になるから着てきたわけだが、いけなかったのだろうか。
ここは「笑顔で
僕は一番後ろの席で寝たふりをして、バスが終点に着くのを待つ。急なカーブが多く、バスが曲がるたびに大きく揺れ、シートベルトの有難みを感じる……。
「ぷしゅ~」
空気が抜けるような音とともにバスのドアが開く。どうやら本当に眠ってしまっていたようで、気が付くと目的地へ到着していた。
慌ててシートベルトを外し、7人の女の子の後に続く。
最初に降りた先輩が運転手さんに頭を下げて礼を言うのを見て、後続の子たちも頭を下げて礼を言う。最後に僕もそれにならう。
運転手のお兄さんは学ラン姿の僕を見て少し驚いた顔をした後、「いろいろと大変だろうけど、お互い頑張ろう」と声をかけてくれて、そのバスは小さなターミナルをぐるりと一周し、また山を下りて行った。
満開の桜の中、「
学校の門というものは、普通はせいぜい高さ2メートルくらいで、外から校庭や校舎が見えるものである。しかし、この門はまるで城門だ。門自体が視界を遮っている為に向こう側が全く見えない。左右に続く塀は桜の木よりもずっと高く、学校と知らなければ、刑務所か軍事施設のように見える。
さすが、お嬢様学校。セキュリティは万全だ。
――募集人数は若干名。
今年から男子も入学が可能となったこの学園の、男子の合格者数は、わずか3名だった。
進学校ではないため、筆記試験はそう難しいものではなかったが、そのかわりに項目数が非常に多い適性検査と性格診断。それに加えて検便や血液検査を含む健康診断と、最後に長い面接試験があり、これまでの学校生活についても根掘り葉掘り質問された。
小学校、中学校と僕はスクールカーストの最下層だった。
おそらくきっかけは
体が小さく、気も弱い僕は、まわりから何をされても「しかたない」みんながそれで楽しいのなら「まあいいか」と思っていた。
それでも、その状態が9年も続くとさすがにうんざりする。
9年間のトラウマで、僕は高校への進学を
ここで花婿修業をすれば、将来不安のない場所で幸せに暮らす事ができるようになるかもしれない。そう考えた僕は、東京から離れた山の中にある、全寮制のこの学園を志望校に選び、単願推薦入試を受験して無事合格。
そして、いま新たな一歩を踏み出したのである。
「受付はこちらで~す」
巨大な門をくぐると、すぐに案内係の先輩に誘導される。
「ご入学おめでとうございます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「受付」と書かれたテントの下の長机で、入寮許可証を見せてサインをし、スマホを預けて生徒手帳を受け取る。
スマホや携帯ゲーム機などは持ち込み禁止なので、あらかじめここで預かってもらうことになっている。外出時には返してもらえるが、校内への持ち込みが発覚すると即没収らしい。思っていたよりも厳しい校則だ。
「寮はあちらの建物で、
「分かりました」
受付を済ませたので、集合場所である寮へ向かうことにする。
ここから右前方に見える3階建ての建物らしい。
寮に向かってすぐ左、僕の目の前には校舎があるが、こちらは2階建てだ。門が大きく塀が高いわりに校舎自体はそれほど大きくはない。
そして、校舎の昇降口から寮の玄関までは20メートルほどの短い距離だった。
病院の入り口のような広い玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
正面に食堂と思われる、天井が高くて広い部屋があり、その手前のロビーの右手にある廊下を進み、最初の部屋が目的地の101号室だ。
【101号室】
【甘井 道程】 【天ノ川深雪】
【鬼灯ぽろり】 【蟻塚 子猫】
表札には自分の名前の他に3名。どうやら4人部屋のようだ。
女子と相部屋とは聞いていたが、やはり入るときはとても緊張する。
「トン……トン……トン……」
恐る恐るノックする…………返事はない。
「失礼しま~す」
挨拶しながら静かにドアノブを回す…………カギは掛かっていないので、ドアを開け、スリッパを脱いで部屋に上がる。
短い廊下の突き当りがトイレで、そこから左を向くとすぐに部屋が見えた。
手前がリビングのようで、こたつサイズの小さなテーブルがあり、右手には簡単なキッチンもある。部屋の奥の右側に勉強机が4つ。奥の左側には2段ベッドが2つ。床はフローリングで、間仕切りはない。言わばとても広いワンルームだ。
4つ並んだ勉強机の右から2番目の席に先客が1名。
Tシャツにショートパンツという、この時期だと少し寒そうな格好をした細身で小柄な女の子が、どうやら机に向かったまま眠っているようだ。
挨拶をするべきだろうか。でも、起こしてしまうのも悪いような気もする。
そんなことを考えながら近づいてみると、女の子は僕の気配に気付いたようで、顔を上げて、
「やっと来たか~、おそいよ~」
その小柄な女の子は眠そうな目をこすりながらそうつぶやき、不機嫌そうに僕を
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