6.幕間


 ――えー、では最後にですね、将来の夢や目標はありますか。


『公式チームにはいって、騎士のジョニンを受けること、です。外国の大会にも参加して、パパのけんきゅうを手伝いたい、です』

『おなじーく』

『……むりだと思う』


 ――はいはい、もうちょっとですから喧嘩はあとにしてくださいね。なるほど。ときに今、お父様といいましたが――



 ***



 ブチリ、とレコーダーの停止ボタンを押します。

 とたん、深夜のアパート部屋が急にひんやりとした空気で埋まった気がしました。


「うっわぁワタシ、声若ぃなー」


 ラジオ局の打ち上げでヘロヘロになり、ろれつの回らない舌でひとりごちます。

 まさか酔ってひっくりかえした小物入れの底が10年モノのタイムカプセルだったとは、いやはや。


「こんなオトナに誰がしたっ、オマエらだこんちくしょー!」


 などと、寝そべったままイヤフォンをもってレコーダーを振り回してみたり。


「あの制作がなまじ評価されたばっかりに、今やすっかり前線の取材記者……ワタシはもっとこう、完成した美しい台本を美しく読みこなすお仕事がしたかったのに!」


 なお本当にそれだけで食べている人がいるかは不明です。この業界、居ればいるほどスキルがマルチ化していきますからね。


(でも……これも巡り合わせかもしれませんね)


 帰るなりフローリングへ放り出したかばんをたぐりよせます。取り出したのは一枚の企画書。


「国際アーマードバトルリーグ、日本初の高校生チームが出場、かぁ。あの子たち、今はどこで何してるんですかねぇ……」


 フレッシュな話題が最近、ことに胸に刺さります。悪い意味で。

 己の境遇を呪うように目を細めたワタシは、やがてバサリとそれを投げだしました。

 あの出会いを『運命』と呼んだ先輩なら今のワタシを見て何と言うでしょうか。



 ――ダンボールの章・おわり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る