第6話 4月の宿舎

 ここ数日ヒロが宿舎に帰ってくるのは遅かった。今日もまだ帰っていなかった。ユン・ヒョンソプ代表たちとの話し合いが長引いているに違いない。

 「BEST FRIENDS」のメンバーたちはデビュー前の練習生時代から共同生活をしている。一番初めに住んでいたところは、部屋がキッチンを除くと3部屋しかなく、2部屋に3人と4人に分かれて寝て、起きているときは1部屋で、テレビを見たり、ゲームをしたり、くつろいだり、いろんな話をしたり、けんかしたり、とみんなで過ごしていた。「STORM」が売れ、ちょっとメジャーになってきた時に、今の宿舎に移った。今は2人で1部屋が使え(ドンヒョンだけはひとりで1部屋使っているが。)クローゼットもちゃんとついていて、以前よりは快適になった。それでも、メンバーたちは、みんなで過ごす部屋に集まることが多く、その部屋でいつもワイワイガヤガヤそれぞれが思い思いに過ごしていた。だから、今もちょっと昔も、自分と他のメンバーたちのプライベートはあってないようなものだった。

 今日もメンバーたちは各自仕事を終えて帰ってきて、自然とみんなの部屋に集まっていた。いつものワイワイガヤガヤではなく、誰も何も言わない、そんな空気だった・・・。

「・・・ヒロが言ってること、嘘じゃないと思う。」

静寂を破って、ジュンが口を開いた。

「・・・だって、オレ、あいつとよく恋バナとかしてたけど、あの女優の名前をあいつから聞いたことがないもん。好きなタイプでもないと思う!それにキスしたんだったら、オレに言わない訳がない!!」

ジュンは声を荒げていた。みんな慎重な面持ちで下を向いている。

「そんなの、みんな分かってるよ。みんなあいつの言うこと信じてるよ。」

リーダーのドンヒョンが静かに言った。

「嘘とか本当とかそういうことじゃないんだよ、ジュン!あの写真を撮られてそれが出たってことが、もう、問題なんだよ!」

といつも冷静なシャープが強めの口調で言った。

「何でだよ!あいつ悪くないじゃん!あの女優があいつ呼び出して、突然、目になんか入った!!って痛がりだしたんじゃん!誰だよ、あの写真撮ったの。どうせ、あの女優のマネージャーかなんかだろ!」

ジュンは冷静ではいられない。

「だから、あの写真が出てしまった以上、何を言ったってどうしようもないって。女優の売名行為だろうが、オレたちを陥れるためだろうが、どっちにしろ、そんなのもう言ってもどうしようもないんだよ。言い訳にしか聞こえないって。オレらが何か言えば言うほど、イメージは悪くなる一方だよ。一回壊れたイメージはそんなに簡単に元には戻らないよ。実際、ネットではみんな好きなこと言って炎上してる・・・。」

ジニが悔しそうに一言一言噛みしめながら話す。

「何だよ、イメージ、イメージって!何のイメージだよ!オレたち、ちゃんとやってきたじゃねーか。あいつなんかいっつも一番遅くまで一番熱心に練習してたじゃねーか!何なんだよ!くそっ!」

ジュンはソファーを拳で叩くと、手で顔を覆ってソファーにうなだれた。

「ジュンヒョン(兄さん)」

とヨンミンも悔しそうにジュンの肩に手を置く。

「明日、事務所が声明を出すって。ヒロ・・・あいつ、もう何日もろくに寝てないんだよ。夜中に目を覚ますと、あいつがベッドで膝を抱えて座ってて。横に行って抱きしめてもあいつ震えてて・・・。」

ヒロと同室のシャインは最後はもう涙声になっていた。涙を見せたくないのか、シャープは静かに立ち上がると、自分の部屋に戻っていった。ジュンは肩をふるわせている。そして、ヨンミンは目を真っ赤にし、そんなジュンの肩に相変わらず手を置いている。ジニはさっきから頭を抱えたままだった・・・。そんなメンバーをゆっくり見渡して、ドンヒョンは静かに口を開いた。

「『オレたち、7人でやっていく。7人でBEST FRIENDS!!ヒロなしのBEST FRIENDSは考えられない!それがメンバー全員の意向。』そう何度も代表には伝えた。そして、そのことはヒロ本人にもみんなで何度も伝えた。きっと大丈夫!」

みんな、その言葉を噛みしめならが聞いた。ドア越しにシャープも聞いている。

 その夜、誰が言い出した訳ではないが、暗黙の了解で、みんなその場でヒロが帰るのを待つことにした。ヒロが帰ってきたら分かるだろう・・・。そうしたら、みんなであいつの手をとって「また、1からがんばろうぜ!」って言おう・・・。

 ・・・いつの間に眠ってしまったのだろうか。空が白み始めている。シャインは目を覚まし、窓に目をやった後、辺りを見渡した。みんな昨日の場所で果てたように眠っている。「ハードスケジュールだもんな。仕方ない・・。」と寝ぼけながら考えてから、ふっと、何でここで寝てたのか思い出した。

「ヒロ・・・?」

シャインはがばっと起きた。

「あいつ、帰って部屋行って寝ちゃったのか・・。みんなヒロが帰ってきたの気づかないくらい爆睡かあ・・」

シャインは頭をかきながら、自分とヒロ、二人の部屋の前まで行くと、

「ごめん、ごめん。おまえが帰るの、起きて待ってたつもりがみんなで寝ちゃって。」

と断りを入れながらドアを開けた。ふっと冷たい風が頬を撫でた。部屋にヒロはいない・・・。

「そう言えば、オレ、昨日帰ってからこの部屋に入ってなかった・・。」

シャインは、いつもと違う部屋の様子に愕然とした。・・ヒロのものがいろいろとなくなってるこの部屋の様子に・・。

 朝9時C・Yエンターテインメントが出した声明についたニュースの見出しはこうだった。


『事務所、「ヒロ」と女優との熱愛を否定。キスも事実無根と説明。ただ、事態の収束を図る目的か、「ヒロ」のアメリカダンス留学を決定。』


昨日の最終便でヒロがソウルを発ったのをメンバーたちが知ったのはその後だった・・・。メンバーたちに何も告げず・・・。

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