第138話夜の連続

 一応、十勇士は皆揃って武雷に戻ることとなった。

 そして、夜影と才造は向き合ったまま黙りこくる。

 これでどう子作りをしろというのか。

 あの時のことを思い出してしまい、夜影からも近付くことができなかった。

 才造はただ堪えるだけだ。

 夜影に禁じられたからには、夜影からのを待つしかない。

 本当なら自ら手を伸ばしさっさと押し倒してしまえば、となるのに。

「才造…。」

「…なんだ。」

「…また明日に…。」

「………。」

 向き合うだけ、三十秒間のそれで終わり。

 夜影もどうにかせめて手で触れるくらいはと思っている。

 しかしどうしても、すぐにはできなかった。

 これを繰り返し続けている。

 主は才造から状況を聞いているが、才造も萎え始めているのは見てわかった。

 こうも何度も明日にお預けをくらえば無理だろうと。

「それで…また、お預けか。」

「だって…でも。」

 頼也に状況を伝えながらも夜影は才造に申し訳なかった。

 今度こそ、とは思うものの恐怖というのはすぐには消えてくれない。

「仕方無いことだから影は悪くはない。焦らず落ち着いてすればいい。」

 頷く夜影は最早気持ちが完全に別の方向で才造へと向いていた。

 せめて接吻くらいはできるように戻らないと。

 そしてまた翌日の夜。

「………才造…。」

「…明日か…。」

 この流れはその答えしか言わない。

 そう思っても仕方がなかった。

 しかし夜影はぎゅっと手を握り締めた。

「…ちょっとだけ…待って…。」

 進展がやっとあると才造が顔を上げた。

 夜影はまだ俯いたままだが、明日とは言わない。

 それかた五分経った。

「…才造…。」

「…なんだ…。」

 ただ時間を消費しただけで明日と言われる可能性がある。

 それを覚悟で問い返す。

「…好き…。」

「…夜影?」

 唐突にそう言われて咄嗟に名を呼んだ。

「好き…愛してる…。」

 体が動かないのならば言葉で、と夜影なりの策に出たのだ。

 頭ではわかっている。

 だから、その頭を使うしかない。

「…好き…。」

 肝心の才造からの言葉がないのだからいい続ける。

 顔を上げない夜影は才造が今どんな顔をしているのかもわからない。

 ただ言うだけが精一杯なのだ。

 一方才造は自分の腕を抑え、堪えている。

 今すぐ抱き締めてやりたい衝動に必死で抵抗している。

 応答が出来ず、歯をくいしばった。

 好きで好きでたまらないのは才造の方だ。

 此処で行動に出たら確実に終わる。

 そう思って理性を繋ぎ止めようとする。

 そんなことは当然わからない夜影は何度も何度も言うし、何故だかやめない。

「大好き…。」

 なんだってこんなに可愛いのだろうか、我が嫁は。

 禁じられさえしていなければッ!

 そんな想いで、萎えていた心は激しく熱くなっていた。

 それを見兼ねた頼也が間に入った。

 お陰で夜影は言うのを止めるし才造も衝動を失せさせることができた。

「…才造、せめて何か言い返してやれ。影、もう少し間を持て。」

 実は頼也は初日からずっとこれを見ていた。

 だから苛々もしている。

 今日に限っては馬鹿なのかと言いたいくらいだ。

 衝動を抑えているのはわかったから何か言ってやらないと夜影はどうしようもないというのに。

 そして夜影も応答がないのだから様子見くらいしてみたらどうだ。

 精一杯なのはわかる。

 わかるが。

 それらを飲み込んで夜影を抱き上げる。

「いいか、影。覚悟を決めろ。」

「頼也?」

 首を傾げる夜影だが、才造は頼也がしようとしていることを察することができた。

「おい、待て。」

「抱き締めてこい。」

 才造へ向け、まさかのまさかで夜影を放り投げた。

 才造は当然受け止めるしかない。

 夜影を投げておいて頼也はさっさと退散した。

 夜影は顔を真っ赤にして硬直した。

 抱き締めてこい、なんて言われても。

 才造も受け止めたはいいが、どうしろと。

「…う、ぁ…。」

 言葉が出てこず、夜影は音だけを震わせる。

 それから意を決して才造の頭を抱き締める。

 そこで才造の理性は勢いよくぶち切れた。

 頼也はその外で溜め息をつき、此処からはもう大丈夫だろうとその場を離れた。

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